救われた命
二話目の投稿です。
パチパチパチ・・・
カコンッ・・・!
・・・木々の爆ぜる音が聴こえる。
なんだか、心の底から安心できるような、そんな音だ。
その音に意識を揺さぶられた俺は、ゆっくりと目を開く。
一番最初に目に飛び込んできたのは、丸太で組まれている天井だった。
ここは、何処なのだろう?
首だけ動かして周りを見渡してみると、どうやらここは、何処かの部屋の一室らしいというのが分かる。
部屋の中には、二人が一緒に座れるくらいのソファに、木製のウッドデスク。
そして一番目を引いたのが、テレビ番組とかゲームの中でしか見た事がない、薪を燃料とした暖炉である。
暖炉の中の炎は煌々と燃えており、部屋の中すべてを優しく暖めてくれていた。
「いっつ・・・!」
上半身だけでも起こそうかと力を込めてみたのだが、身体中を走る痛みに邪魔をされ、起きる上がることもままならなかった。
動けないのなら仕方がない。
とりあえず、起き上がる事を諦め、安全が確保されているであろう今のうちに、これまでの状況整理を行うこととしよう。
俺は目を閉じ、自分の頭の中に残っている記憶を確かめる。
確か俺は、あの銀行強盗の奴に見せしめとかそんなくだらない理由で頭を吹っ飛ばされたはず。
それから、死んだと思っていたらあの森の中で目が覚めて、その後、訳のわからん化け物に突然襲われて、それから・・・
そこまで思い出した俺は、痛む手をどうにか動かし、掛けられていた布団を捲り、自分の体を確かめた。
ち、小さい・・・
布団に横になっていたその体は、明らかに小さかった。
身体的年齢は、七、八歳くらいといったところだろうか。
どう考えても、成人した人間の体ではない。
つまり、この体はまったく別の人間の物という事になる。
恐らくは、あの水面に映った少年の体なのだろう。
ここで疑問が湧いて出てくる。
どうして俺は、この少年の体で意識を持っていられているのだろう?
この体の持ち主だった少年の精神というか魂というか、とにかくそういうものは何処に消えてしまったのか。
それを知るためにも、俺はさらに意識を集中して、記憶を確認してみる。
そうすると、坂上悠真の記憶とは違う、別の記憶がある事に気が付いた。
きっとこの記憶が、少年の記憶なのだろう。
その記憶を確認してみると、幸せそうな家族との思い出が多く、少年は両親に愛されていた事がよく分かる。
だが、その最後の方にあった記憶は、見るに耐えないものだった。
それは、初めてこの少年の顔を見た時に、無理矢理に見せられた記憶。
少年の両親が、化け物によって無惨にも殺されてしまった記憶。
くっ・・・!
俺は記憶を見る事を、その時点で止めた。
この先は、二度も見たくない。
あんな思いを味わうのは、一度で十分だ。
とりあえず、胸くそ悪い記憶は飛ばして、その先の記憶を確かめたが、あの時見た映像以降の記憶は存在しなかった。
記憶を全て見終わった俺は、一つの結論を出す。
少年の魂は、もうこの体には存在していないという事を。
恐らくだが、少年が死んで魂が抜けた所に、何故か俺の魂が入り込んでしまい、生き返ったという所だろう。
アニメやゲームじゃよくある展開だったが、まさか自分が転生なんてもんをするとは、思いもよらなかった。
しかし何故、俺は転生なんてしたんだ?
一番の謎はそこだ。
しかし、こればっかりは、いくら頭を捻っても答えはすぐには出そうにない。
ガチャ!
答えのでない問題に頭を抱えていると、部屋の扉が開かれ、誰かが入ってくる。
「おや、やっと目が覚めたのかい」
「・・・だれ?」
「だれ?とは失礼だねぇ。あんたを助けた、命の恩人だってのに」
そう言いながらソファに座ったのは、森の中で化け物から俺を助けてくれた人だった。
こうして明るい所で改めてみると、やっぱりかなりお歳を召した婆さんである。
「具合はどうだい?」
「・・・体が痛い」
「おや、体の傷は全部治したと思ってたけど、まだ何処かに傷が残ってたのかい?」
「外に傷はないけど、動こうとしたら体が痛い」
「そっちの痛みかい。どれ、もう一回、回復魔法でも掛けとくかねぇ」
婆さんはソファから立ち上がり、俺の側までやって来ると、体の上に手をかざした。
すると次の瞬間、婆さんの手が淡く光り輝くのと同時に、体の痛みが次第に和らいでいく。
「どうだい?少しは楽になってきただろ?」
「それ・・・なに・・・?」
「おや、『魔法』を見るのは初めてかい?」
「マ・・・ホ・・・ウ・・・?」
今、魔法って言ったのか?
魔法って言ったよな?
この世界には、魔法が存在するのか?
という事は、ここは魔法が存在する『異世界』という事なのか!?
「おや?魔法を見るのは初めてかい?」
「うん」
「そうかいそうかい。まぁ魔法が使える人間も限られてるからねぇ。見たことないってのも不思議じゃない。それより、どうだい?もう動けるんじゃないのかい?」
婆さんの手から光が消え、試しに起き上がろうとすると、さっきよりは遥かに楽に起き上がる事が出来た。
それを見た婆さんは、再びソファに座り直すと、懐からキセルみたいな物を取りだし、火を着けて煙を吹かす。
「ふぅぅぅぅ・・・ところで坊や、どうしてあんな森の中で、化け物に襲われていたんだい?」
「そ、それは・・・」
婆さんの問いに、少し言い淀む。
言えない訳じゃない。
言えない訳じゃないが、思い出したくもない。
アレを思い出すだけで吐き気を催す。
それぐらい、あの記憶は俺のトラウマになっていた。
しかし、ここで話さなかったら、信用を得ることも出来なくなる可能性がある。
それは、どうやっても避けなくてはいけない。
「どうしたんだい? 話せないのかい?」
「・・・いや、話すよ。信じてもらえるか分からないけど」
そう言って俺は、婆さんに出会うまでに起こった事を話し始めた。
少年の記憶を再び覗き見ながら。
やっぱり、この記憶を再び見るのはキツいな・・・
自分の顔が話しを進めていくにつれ、真っ青になっていくのが分かる。
時折、猛烈な吐き気に襲われたりしたが、それらを必死に我慢しつつ、話しを進めた。
「・・・これで、僕が話せる事は全部話したよ・・・うっ・・・」
込み上げてくるモノを吐き出さないように、手で口を塞ぐ。
話しを聞き終えた婆さんがソファから立ち上がり、俺の側にやってくると、背中をさすってくれた。
「よく話してくれたねぇ。わざわざ辛かった事を話させて悪かったよ。しかし、そうかい。親御さんは亡くなっちまったのかい・・・」
婆さんが可哀想な人を見るような目で俺を見る。
実際には、この体験をしたのはこの体の元の持ち主であって、俺が体験した訳じゃないから、悲しいとかそういう感傷的な感情はあまりないので、少し複雑な気分だ。
なんだか、婆さんの事を騙しているみたいで。
しかし、この体を受け継いでしまった以上、こういう理不尽な事も受け入れていかなければいけない。
きっとそれが、受け継いでしまった者の責任というやつなのだろう。
「ところで坊や、あんたには他に坊やを育ててくれる人とかはいないのかい?」
「それは、僕を引き取ってくれる人って事?」
「そうさ。坊やのお婆さんとか、おじさんとか、そういう人たちの事さね」
それを聞かれた俺は、少年の記憶を覗く。
しかし、記憶の中にそう言った親戚筋の人たちの記憶は存在せず、祖父母は既に他界しているみたいだった。
「おじさんとかには一度もあった事ないし、いるのかも分からない。おじいちゃんやおばあちゃんは、僕の生まれる前に死んじゃったって言ってた」
「そうかい・・・じゃあ、実質上、あんたは天涯孤独になっちまったって訳かい・・・」
「そっか、僕は一人ぼっちになっちゃったんだね・・・」
「・・・悲しいかい?」
「わからない・・・」
正直な所、今までに急展開な事が起こりすぎて、自分の気持ちがまったく追い付いてきていない。
しかし、これからどうしたものか・・・
両親は亡くなり、親戚はいるのかどうかも分からない。
しかも、今の自分はまだ幼い子どもときたもんだ。
これは、いきなり人生詰んだのではなかろうか?
「・・・坊や。ちょっといいかい?」
勝手に一人で新しい人生に絶望している俺に、婆さんが話しかけてくる。
「・・・なに?」
「坊やさえよければ、このままこの家でく暮らすかい?」
「え?」
一瞬、婆さんが何を言ったのか分からなかった。
が、すぐに意味を理解する。
この婆さんは、自分には何の関係もない、ただのやっかい者である俺の事を引き取ってくれようとしているのだ。
「い、いいの?」
「いいも何も、この状況であんた一人を放り出したら、私は人でなしになっちまう。ここで会ったのも何かの縁さ。都合がいい事に、私は独り身でねぇ。あんた一人引き取った所で、何の問題もない。余生を一人で過ごすより、よっぽどいいさね」
婆さんはそう言いながら俺から離れると、ソファに座り直し、再び煙を吹かし始めた。
「ありがとう」
「いいってことさ。それよりも、坊や。とりあえずあんたの名前を教えてくれないかい。あんたもいつまでも坊やって呼ばれるのも嫌だろう?」
「名前・・・」
言われて気が付いたが、今の俺には二つの名前がある。
一つは、俺の名前『坂上悠真』。
もう一つは、この体の元の持ち主の少年の名前『アマルガム』。
どちらを名乗るのが正しいのか少し迷ったが、すぐに俺は決断した。
「僕の名前は、『アルフレッド』」
俺は受け継ぐと決めたのだ。
少年の全てを。
ならば、少年の名前を受け継ぐのも至極当然であろう。
「アルフレッドってのが、坊やの名前かい。そうさねぇ・・・年老いたババアには長いから、坊やの事は『アル』って呼ばせてもらうよ」
「うん、分かったよ。所で、僕もまだ、お婆ちゃんの名前、教えてもらってないんだけど?」
「そう言えばそうだったねぇ。すっかり忘れてたよ。あたしの名前は、『リズベット=フォン=クロニクル』。でも、私を呼ぶ時は、婆ちゃんって呼んでおくれ。本名を呼ばれるのはあんま好きじゃないんだよ」
「分かったよ、婆ちゃん。これからよろしく」
「あぁ、よろしく頼むよ。ちなみに、家事は当番制にするから、しっかり家事も覚えるんだよ」
「勿論だよ」
前世では一人暮らしで料理も選択もしてたし、ある程度は大丈夫であろう。
まぁ、この世界には洗濯機みたいな文明の利器はないだろうから、苦労はしそうだ。
「ところで婆ちゃん。さっきからずっと気になってる事があるんだけど、聞いてもいい?」
「ん? なんだい?」
「婆ちゃんがさっき使ってた魔法って、僕にも使えるの?」
「あぁ、その事かい。さっきも言ったかもしれないけど、魔法ってのは使える人間が限られてる。その理由ってのが、魔力を持ってるいるか否かって事さね」
「それは、どうやって確かめるの?」
「まぁ色々と確かめる方法はあるけど、今
、一番手っ取り早いのはこれさね」
婆さんは椅子から立ち上がって俺の所まで近寄ってくると、右手を俺の胸元へと押し当て、小さく何かを呟いた。
「っつ! あっつ・・・!!」
それと同時に、体の奥底から熱が沸き上がり、一瞬にして体全体を覆い尽した。
なんだか、体の内側だけ熱湯風呂にでも入っている様な感覚だった。
「ほぉ、こりゃ凄い。魔力があった事にも驚きだけど、魔力量に関しては、今の時点で私の半分くらいはありそうだねぇ」
「そうなの?」
「あぁ。しかも、今の時点でこの魔力量なんだとすると、魔法を覚えて、修練していけば、いずれは私を越える事は間違いないだろうね」
そう言う婆さんの顔は、嬉しそうな笑顔だった。
「でも、アル。魔法を覚えるも覚えないもお前さんの自由だ。私はあんたの意思を尊重するよ。他人に決めてもらうんじゃなくて、自分の意志で、後悔の無いようにお決め」
婆さんはそう言うと、胸元に当てていた右手を頭の方に移動させ、優しく撫でてくれた。
頭を撫でてもらうなんて、かなり久しぶりな事だったので、なんだか体がむず痒い。
「アル、どうする?」
「婆ちゃん、そんなの決まってるよ」
俺の事を考えて、わざわざ選択肢を用意してくれたんだろうけど、俺の答えは最初から決まっていた。
「僕、魔法を覚えたい!」
アニメや漫画、ゲームなどで使われており、オタクだったら一度は使ってみたいと思う魔法。
それが、今の俺だったら使えるのだ。
拒否するなんて選択肢があるものか。
今からワクワクが止まらない。
「私の教えは厳しいけど、それでも大丈夫かい?」
「もちろん!」
迷うことなく頷く。
「わかった。それじゃあ、明日から魔法の修行も一緒に始めるからね。覚悟するんだよ」
「うん。よろしく婆ちゃん!」
異世界にいきなり転生させられ、初っぱなから、また生死の堺をさ迷うというアクシデントに見舞われたりもしたが、婆さんのお陰で、こうして生き延びる事が出来た。
こうして、異世界に転生しちゃった俺の、二度目の人生が始まったのであった。
やっぱり一ヶ月に一話投稿になりそうだなぁ(´ 3`)
読んでくれてる人達がいるという事が励みになるので、どうかこの小説をよろしくお願いします♪ヽ(´▽`)/