死・・・からの?
『とりあえずそこのお前、見せしめの為に死んでくれや』
『へっ?』
このマヌケな台詞を口にすると同時に、拳銃のトリガーは引かれ、放たれた弾丸は俺の眉間の間を通りすぎ、俺の意識はそこでプツリッと断たれてしまう。
実にマヌケで、呆気ない人生の最後であった。
名前・・・坂上悠真
仕事・・・平凡なサラリーマン
趣味・・・アニメ観賞、ゲーム実況、ネットサーフィンなど。いわゆるオタク
彼女・・・なし
死因・・・銀行強盗の拳銃による銃殺
享年・・・二十五歳
・・・・・・寒い
肉体に感じる寒気と同時に、暗闇の底に沈んでいた意識が、ゆっくりと覚醒していく。
「こ・・・こ・・・は・・・?」
目を開けると、そこは木々が生い茂る森の中で、そんな場所に、俺はうつ伏せで倒れていた。
なんで俺は、こんな所にいるんだ?
最初に浮かんだ疑問はそれだった。
俺は確かに銀行で頭を撃ち抜かれて即死だったはず・・・
なのに何故、こんな森の中にいるのか。
そもそも、どうして俺は生きているのか。
解の出ない疑問が、頭の中でぐるぐると渦を巻く。
とりあえず、この場所から移動しないと・・・
そう思いながら体を動かそうとするのだが、手足に力が上手く入らない。
そこでようやく、自分の体がかなり衰弱している事に気が付く。
しかし、いつまでもここで倒れている訳にはいかなかった。
何故か悪い事が起きる気がするのだ。
そんな胸騒ぎに襲われた俺は、体に残っていた力をどうにか振り絞り、ふらつく体に鞭を打って無理矢理立ち上がると、その場から離れるように、ゆっくりと歩き出した。
全身を襲う倦怠感と疲労感。
さらには、いつ負ったのか分からない傷が腕や足に無数に存在し、歩くたびに全身を激痛が駆け巡り、早く歩く事ができない。
だが、背筋に感じる悪寒から少しでも早く逃げようと、必死に歩を進める。
しかし、周囲には視界を奪う程の霧が立ち込めており、自分がどこに向かって歩いているのかも分からないような状況であった。
いったい、ここはどこなんだ・・・
歩けど歩けど出口は一向に見えてこないし、後ろから感じる悪寒はさらに距離を縮めてきている気がする。
このままでは、確実に追い付かれてしまう。
早く逃げなければ・・・
「うわっ・・・!」
べちゃ!
そんな焦りからか、ふらついていた足がもつれてしまい、運悪く水溜まりが出来ていた場所に顔からダイブしてしまった。
ちくしょう!こんな所で倒れてる暇なんて・・・
悪態を吐きつつ、起き上がろうと水溜まり から顔を上げた瞬間、俺の思考は一瞬停止した。
水面に写し出されていた顔。
それは明らかに、俺こと坂上悠真の顔ではなく、まったくの別人の顔であったからだ。
見た目的には、7歳くらいの子供だろうか。
そのくらいの年端の少年の顔が水面に写っていた。
ズキンッ!
「うっ・・・!」
その顔を見た瞬間、耐え難い程の頭痛が俺を襲い、同時に俺の知らない記憶が脳裏に写し出される。
そこには、この体の持ち主であったであろう子どもの両親と思われる人達が、赤い目をした熊のような化け物に襲われ、無惨にも殺されてしまった映像だった。
なんだ・・・今のは・・・!?
「うっ・・・! げぇぇぇぇぇぇ・・・」
余りにも生々し過ぎる映像を見せられた俺は、堪らずその場に胃の中のモノを吐き出す。
その最中も、知らない記憶の再生は続く。
あまりの恐怖に耐えきれず、反射的にその場から逃げ出したコイツ。
近くにあった森に逃げ込んだいいが、森の奥に逃げ込み過ぎて出口が分からなくなってしまう。
それから数日間、泥水を啜り、目についた食べられそうな物を無理矢理にでも腹に納め、背筋に感じる悪寒から必死に逃げてはいたが、いかんせんまだ子供。
ついには、精も根も尽き果て、この森の中で短い一生を終えてしまった。
記憶は底で途切れたが、そこである疑問が浮かんでくる。
どうして、俺は生きてるんだ?
今の記憶が、この体の持ち主だった子供のだったとしたら、コイツはすでに事切れてしまっていたはず。
なのに何故、この体に俺の意識が入り込んでしまったのか。
わからない事だらけで、別の意味で頭が痛くなってくる。
しかし、混乱している頭でも、今すぐしなければいけない事だけはわかった。
すぐにでもこの場から移動しなければ・・・
しかし、頭では分かっているのだが、体が言うことを聞いてくれない。
もともと、体力、気力ともに限界だった体を無理矢理に動かしていたのだ。
そのツケが、この最悪なタイミングで来てしまったらしい。
何も、このタイミングでこなくてもいいものを!
ガサッ!
後ろの方から、草木の掻き分けられる音が聞こえてきた。
俺は戦々恐々としながら、後ろを振り返った。
ガァァァァァァ!!
そこには、先程見せられた記憶の中に出てきた、赤目で熊のような形をした化け物が咆哮を上げながら、まるで獲物を狙うような目で俺の事を見下ろしていた。
それを見た瞬間、俺は自分の死期を悟る。
あぁ、また死ぬのか・・・
奇跡か、はたまた悪魔の悪戯のせいなのか分からないが、折角再び生を受けられたというのに、まさかこんなすぐに死ぬ事になろうとは、俺はつくづく運がないらしい。
もし、再び生まれ変わる事が出きたら、今度は平和な世界に生まれ変わりたいな・・・
襲い掛かってくる化け物を見ながら、見る事の叶わぬであろう来世に想いを馳せつつ、俺は死を覚悟した。
「やれやれ、妙に森の中が騒がしいと思って見に来てみたら、あんたの仕業だったのかい」
ガキィン!!
獲物を仕留めんが為に降り下ろされた鋭い爪が、見えない何かに阻まれ、俺の体に当たる直前で止まっていた。
一体、何が起こったんだ?
目の前で起こった不可思議な光景に困惑しつつ、声が聞こえてきたであろう方向に視線を向けると、そこには、黒いローブを羽織った、見るからにお歳を召しているであろう女性が立っていた。
「まったく、あんたらはいつの時代も見境いなく人を襲って・・・少しは、自分の罪ってもんを理解しな!」
パチンッ・・・
そう言いながら女性が指を鳴らした瞬間、目の前の化け物が一瞬にして焔に包まれ、そして灰となり消滅した。
俺は目の前で起きた非現実な光景に、ただただ唖然とするばかり。
今のは、一体・・・
ドサッ・・・
急に体の力が抜け、その場に倒れこむ。
どうやら、今まで張りつめていた緊張の糸が、安堵と共に切れてしまったみたいだ。
「ちょ、ちょっと!? 大丈夫かい!?」
急に倒れた俺を心配してくれたのか、ローブの人が、こちらの方に急いで駆け寄ってきてくれているのが見えた。
それを見た瞬間、今までギリギリで繋ぎ止めていた緊張の糸は一瞬の内に切れ、俺の意識は闇の中へと落ちていった。
※久しぶりに小説を書いてみました。更新は不定期かもしれませんが、よろしくおねがいします