第1章「別れ、出会い」
第1章 「別れ、出会い」
そこには天使が眠っていたーーー。そう思えるほどの死に顔…。たった一、二時間前まで病と闘い続けていたとは思えないほど安らかで、そして、美しい死に顔だ。
本当に死んだのかーーーー? ちょっとだけ深い眠りについているだけじゃないのかーーーー?
ーーーーいや、彼女は……朱莉は死んだんだよ。
僕はひたすら自問自答を繰り返していた。頭を抱え、髪を毟るほど精神が不安定になっていた。それだけ彼女を失ったことは大きな事件だった。深くえぐられた僕の心にはぽっかりと大きな穴ができ、その中でいつまでも悲鳴が響き続けた。
(僕も彼女の後を追うかな……)
そう思ってた時だ。ふと、彼女の枕の下に目がいった。そこには薄茶色のものがはみ出して見える。僕はふらふらと枕元まで歩き確認する。
「これは……」
そこには封筒があった。ご丁寧にも僕の名前が綺麗に書かれてある。
僕は慎重にその封を開ける。手は震えカサカサと乾いた音を立てながら中身が揺れる。
そして、完全に封をきり中身を確認してみる。
入っていたものはーーーー二、三枚の手紙、僕と彼女の二ショットの写真。そしてーーーー僕が以前プレゼントした指輪だった。
とりあえず深呼吸をし手紙を読んでみた。
『拝啓 親愛なるとも君へ ーーーーーー』
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ー三年前ー
その頃はまだ僕も学生だったからいろいろ馬鹿なことをしていたものだ。毎日、仲間とつるんでゲーセン行ったりカラオケ行ったり遊びほうけていた。彼女と出会ったのとその時だったかな。
ちょうど雨の降る五月の終わりごろ。僕はいつものように友達と遊んで帰る時だ。いつも通りなら真っ直ぐ家に帰るものの、この日は何故か寄り道をしながら帰っていた。案の定帰るのが遅くなり、近道を使って急いで帰った。その近道というのが街にある知る人ぞ知る小さい路上裏だ。そこを通っていると僕はある場に遭遇した。
二人組の若いチャラチャラした男が一人の女の子をナンパしていた。もちろん、悪いことをするためだろう。普通の道ならそのまま通り過ぎていたと思うけど、小さい路上裏だから無視できなくてね。まあ、そいつらが邪魔で通れなかったのもあるけどね。
そこで俺は、二人の男を撃退しようとした。こう見えて昔から空手を習っていたのでそれなりに自信はあった。そして、僕は二人に声をかけた。
「わりぃんすけど、ちょっとどいてくれませんかね? 邪魔で通れないんすけど」
「はぁ?? ナメてんのか、コラッ!」
二人のうち一人が胸ぐらを掴んできた。僕はその手を掴んで思いっきり捻った。
「イテテテッ!!」
「何すんだ、ゴラァ!!」
すると、もう一人が殴りかかってきた。これを見通していた僕は片方の手を捻ったまま、殴りかかってきた男を足で薙ぎ払った。そして、それぞれの腹に一発ぶちこんで、女の子の手を引きながら逃げた。
後ろからは弱々しい声で待て! と聞こえたが、さすがに走って追いかけてはこなかった。
無事に路上裏から抜け出した僕は女の子の手を離し、そのまま帰ろうとした。
すると、女の子に呼び止められた。
「ま、待って…ください」
「ん? あ、別に気にしなくていいから。じゃーな」
「待って!!」
女の子が大きな声で呼び止める。さすがの僕もそれを無視して帰るほど白状ではないので後ろを振り返った。
ニコッ
女の子が僕のほうを見てニコリと笑った。そして、頭を下げた。
「危ないところをありがとうございました。なにかお礼をしたいのですが…ダメでしょうか?」
そんな聞き方反則だろ。ダメなんて言えないじゃん。そう思って僕は頭を掻いた。
「いや、ダメじゃないけど…」
弱々しい声で言うと彼女はニコッと笑った。
「よかった! じゃあ なにかご馳走しますね!」
そう言って、彼女がバイトしているという近くの喫茶店へ連れていかれた。僕は彼女に生返事ばかり返し、刻刻と過ぎていく時間に焦りを覚えた。運が悪いことに携帯を家に忘れてきてしまったようで電話もできない。僕は溜息をつくほかなかった。
そんな僕を心配したのか女の子が見つめてくる。
「あの…お気に召しませんでしたか…?」
「いや、あの…そういうのじゃなくて…その…」
そうやって口を濁した。素直に言えばよかったものを、それが仇となり余計に心配してきた。
「本当ですか? 何かあったら言ってくださちね。きちんとしたお礼がしたいので」
「いや、大丈夫だよ。ありがとね」
「いえいえ、お礼を言うのはこちらのほうです。ありがとうございました。」
その後もこんなやり取りが何回もあった。僕が帰る頃には外はネオンの光る夜の街へと様変わりしていた。時刻は午後八時半ーーー門限を一時間も過ぎている。さすがヤバイなと冷や汗が流れた。
そして、走ろうと思ったその矢先に彼女に呼び止められた。
「今日は本当にありがとうございました。あの、お名前を聞かせていただけませんか?」
勘弁してくれと心で思いながらも、それを無視して帰るのも忍びないので僕は自分の名前を言った。
「佐伯 遼です」
「あ! もしかして元美術部の佐伯先輩ですか?」
「え、そうだけど…。もしかして、学校同じ?」
「はい! 一年の綾辻 朱莉です! 」
まさかの後輩だった。どうやら入れ替わりで入ってきたようだ。それもそのはず、俺は彼女のことをまったく知らないからな。
と、そんな事を考えている暇はない。早く帰らないと。
僕は簡単に挨拶を済ませて急いで家に帰った。これが天使ーーーー綾辻 朱莉との初めての出会いだ。
第1章 「別れ、出会い」・完
初めまして。4696(しろくろ)と申します。今回は、初めてこのサイトに投稿させていただきました。
小説を書くのが趣味でして、いろいろと書いてはいるものの人前に見せる機会がなかなかありませんでした。ある時、友人に相談したところ教えて貰ったのがこのサイトです。
正直、文書力は乏しいのですが、多くの人に見てもらい感想を頂けたら幸いです。