術士、ぶっ放す
56-①
何とか間に合った。
武光とリョエンの二人は、街から僅か半里(約200m)の地点で、リザードマンの群れと対峙していた。
武光、サリヤの奮戦と、リョエン渾身の火術・炎龍によってかなりの数を倒したが、それでもまだ十五体以上のリザードマンが残っていた。
守備隊の迎撃態勢が整うまで、こいつら相手に何とか時間を稼がねばならない……武光は機槍テンガイを正眼に構えながら、横目でチラリとリョエンを見た。
「せ、先生……ホンマに大丈夫なんでしょうね、めっちゃくちゃ怖いんですけど……」
「大丈夫です、私を信じて……危ない!!」
「ぬんっ!!」
武光は飛び掛ってきたリザードマンの胸に突きを繰り出した。胸板に突きを喰らったリザードマンが後方に吹っ飛ぶ。
「見たか……トカゲ共ぉぉぉっ!!」
内心ガクブルだったが、恐怖を紛らわす為に、武光は源平武者よろしく目一杯の大声を上げて敵を威嚇した。
「遠からん者は音にも聞け!! 近くば寄って目にも見よ!! 我こそは唐観武光!! 近付く者皆、この槍で串刺しに──」
言いかけて、武光はとんでもない事に気付いた。槍の穂が……無い。
何とテンガイの穂が先程のリザードマンにブッ刺さったまま、 “すぽーん” と抜けてしまっていた。
「ぬっ、抜けたあああああーーーっ!?」
「大丈夫です!!」
〔ジダン ソウテン!!〕
「はっ、生えたあああああーーーっ!?」
テンガイの声と共に、杭状の穂が “シャキンッ!!” と生えてきた。
「私は術の準備をします!! その間、テンガイで敵をブッ刺しまくって下さい!!」
「お、応っ!!」
武光はリョエンに言われた通り、槍の持つ間合いの長さと、これまで足軽役として培ってきた槍術を活かして、テンガイで敵をブッ刺しまくったが、サリヤの言った通り、テンガイによる刺突では、凄まじい再生力を持つリザードマンに致命傷は与えられない。
突き倒しても突き倒しても立ち上がってくるリザードマンに武光は徐々に押されていた。
〔ザンダン ナシ〕
「ぐっ……くそったれがぁぁぁっ!!」
とうとう槍の穂が出なくなってしまった。武光は両手の位置を入れ替えるようにスライドさせ、槍をクルリと反転させると槍の石突(=穂と反対側の端)で、飛び掛ってきた敵を殴り倒した。
武光は何とか踏ん張っているものの、これだけ戦っても未だ、一体のリザードマンも倒せてはいない。
「せっ……先生、まだなんですか!?」
「お待たせしました!! 敵から離れて下さい!!」
「お、応っ!!」
武光が飛び下がってリザードマンの群れと距離を取ったのを確認すると、リョエンは黒い手袋を右手にはめて、その手を頭上に掲げた。
バチバチと音を立てながら、リョエンの頭上に青白く光る光球が生成される。
「これぞ私の研究成果……《雷術》……《震天霹靂》!!」
……光の玉が弾けた。弾けた光球が幾条もの稲妻と化し、リザードマンの群れに襲いかかる。
〔な、何だあれは……風術でも、地術でも、火術でも、水術でもない……!!〕
「す、すごっ……」
武光とイットー・リョーダンは、荒れ狂う雷の嵐の中で、リザードマン達が一体、また一体と黒焦げになってゆく凄まじい光景を半ば呆然と見ていた。
雷の嵐が去った後、そこに生きているものはいなかった。リョエンの雷術はリザードマンの足止めどころか、群れを殲滅してしまったのだ。
「す、凄い……めちゃくちゃ凄いやないですか先生!!」
「いやぁ、それほどでも」
「……ん? って言うか先生、あんな凄い術使えるんやったら、最初っからぶっ放してくれたら良かったやないですか!? 何を勿体ぶってるんですか!? 変態ですか!?」
「いや、変態ではないですけど……雷術は制御がとても難しいんですよ、さっきの術にしたって、テンガイを使って、敵に予め《雷導針》を撃ち込んでおかないと、雷がどこに落ちるか分かったものじゃありませんし」
〔ドヤッ ワタシ ガ イナイ ト アルジ ノ ライジュツ ハ マルデダメ〕
「ぐぬぬ……テンガイ共々、まだまだ改善の余地だらけです」
「うん、でも先生はまず自力でテンガイを扱えるように自分の肉体を改善して下さい。これからは、家に篭ってばかりいないで毎日筋トレと走り込みですね」
「ははは……努力するよ。さぁ、戻ろうか…………なっ!?」
「そんな、嘘やろ……何でやねん……!?」
武光達は、言葉を失った。ジューン・サンプに……火の手が上がっている。




