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斬られ役、異世界で目覚める


 4-①


「……起きて下さい」

「うう……ん、あと5分……」

「今日は朝からいい天気っ、絶好の魔王討伐日和ですよー?」

「10分、10分だけでええから……」

「ふ、増えてる……あー、コホン。おはよーございまぁぁぁすっ!!」

「のわぁっ!?」


 武光はベッドから飛び起き、慌てて周囲を見回した。見慣れたボロアパートの壁ではない、石造りの壁に囲まれた小さな部屋だ。ベッドの隣で二十歳位の長い黒髪の女性が椅子に座って、ニコニコしながらこちらを見ている。長い睫毛と優しげな笑顔が印象的な美しい女性である。


「んぁぁ……何や、夢か………おやすみ」

「ちょっ!?」


 再びベッドに倒れ込もうとした武光の背中を女が慌てて支えた。


「もー、しっかりして下さいよー。洗面所に井戸の水を汲んでありますから、顔を洗ってきて下さい!!」

「うーん……」

「洗面所は、ここを出て左の突き当たりです、一人で大丈夫ですか?」

「おっけー……だーいじょーぶ……」


 武光は眠い目をこすりながら、部屋を出て行き、30秒後、絶叫しながら部屋に駆け戻って来た。


「いやいやいやいや、どこやねんここ!?」

「え……《アナザワルド王国》ですけど。さあ、武光様……あなたのお力で魔王を討ち果たすのです!!」

「待て待て待て!! 全然言ってる事分からんし!! え? 何? アナザワルド? 魔王討伐? そもそも自分誰やねん!?」(※大阪人は相手の事も「自分」と呼びます、テストには出ません)


 女は慌てて椅子から立ち上がり、武光にペコリと頭を下げた。


「あっ、私とした事が……大変失礼致しました。私は、この村の神殿で巫女を務めさせて頂いております、ナジミと申します」

「えーっと、ナジミ……さん?」

「はい、何でしょう?」


 武光は彼女の声に聞き覚えがあった。


「あのですね、以前どこかでボクに会ったりとか、手裏剣投げつけたりとか、してません……よね?」

「ハイ、あの時は危ない所を助けて頂き──」

「のおおおおおー!!」


 武光は、ドアを突き破らんばかりの勢いで部屋から逃げ出し、1分後、絶叫しながら部屋に駆け戻ってきた。


「異世界やんけここーーー!?」


 その後、武光はナジミに、《異界渡りの秘法》により、武光の住む世界とは異なる世界に存在する、《アナザワルド王国》に連れてこられた事を告げられた。

 事態を飲み込めずに、ポカンとしている武光に、ナジミは真剣な表情で、『お頼みしたい事があります』と言った。


「……何やねん、俺に頼みて?」

「はい、あなたの剣の腕を見込んでの事です。魔王を……この世界を滅ぼそうとしている魔王を倒して頂きたいのです!!」

「ムリ!! だってアレ芝居やし」

「……………ぅええええええええっ!?」


 ナジミが素っ頓狂な声を上げた。


「し、芝居!? ややややだなぁ、武光様ったら。ごごごご冗談を。だって、四方から迫る悪党達の凶刃を華麗に躱して!!」

「うん、芝居やからな」

「悪党達をバッサバッサと斬り倒し!!」

「いや、斬ってへんで、芝居やから」

「本当に……斬ってないんですか?」

「うん……芝居やし。ちょっと待ってて………………おっ、あった」

「これは……武光様の世界の《景憶鏡けいおくきょう》ですか……?」


 武光は、枕元に置いてあった自分のリュックの中から、タブレットを取り出し、過去の稽古の様子を撮影した動画を再生して、ナジミに手渡した。


「あっ、あれはあの悪党達!? ……って言うか、武光様あいつらとめちゃくちゃ仲良いじゃないですか!? あれ? 何かさっきから、武光様斬られてばっかりなんですけど……よ、弱ーっ!?」

「あのなぁ……斬られ役も楽ちゃうねんで?」


 ナジミは両手と両膝を床につきガックリと項垂うなだれた。マンガだったら間違いなく頭上に『ガーーーン!!』という文字が出ている事だろう。そのあまりの落ち込みぶりに少し同情した武光だったが、連れてこられたのが手違いだと分かった以上、一刻も早く帰してもらわねばならない。武光はナジミの前に屈み込み、声をかけた。


「あー、落ち込んでる所悪いんやけど……そういうわけやから、元の世界に帰してくれへんか?」

「えっと…それが……その……」


 ナジミの目は泳ぎ、手は震え、額からは、それはもう滝のようにダラダラと汗が流れていた。武光は嫌な予感がしまくりだった。


「ごっ……ごめんなさいっ!! 出来ませんっ!!」

「何ぃぃぃぃぃー!?」


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