騎士、吼える
39-①
コウカツが飛び去った三日後、ボゥ・インレの南に魔将コウカツ率いる軍勢が現れた。その数、およそ三百。コウカツは軍勢を三つに分け、街の東・西・南に軍勢を配し、三方から侵攻してきた。
街の東門の防衛を担当していたミトは、コウカツ軍団の雑兵共に囲まれていた。
守備隊十一名に対して、東門に押し寄せた魔物はおよそ七十体……まさに多勢に無勢。ミト達は七倍もの数の敵を相手に奮戦したものの、斬れども斬れども次々と現れるオークに消耗戦を強いられ、周囲の味方は既に壊滅状態だった。
〔姫様、お逃げ下さい!! これ以上は……後ろです!!〕
「くっ!!」
「ギャアッ!?」
ミトは背後から斬りかかってきたオークの一撃を躱し、すかさず斬り捨てた。
「……ここで私が逃げたらこの街の人々は魔物共に蹂躙されてしまいます!! 守るべき民を置いて逃げるなど……王家の者として断じて出来ません!! ……たぁっ!! やぁっ!!」
右から飛びかかってきたオークを袈裟掛けに斬り捨て、返す刀で左から突進してきたオークを真っ向に斬り下したものの、疲労の蓄積でミトは片膝を地に着いてしまった。仮面の下の額には玉のような汗が浮かび、息もかなり上がっている。
甲高い奇声を発しながら三体のオークが飛びかかってきた。
ミトは剣を構えようとしたが重くて腕が上がらない……ダメだ、死ぬ!!
ミトは死を覚悟した。
「……ウオオオオオァァァァァッッッ!!」
その時、獣のような咆哮と共に、三体のオークが両断された。ミトが振り返ると、そこには大薙刀を水平に構えた巨漢がいた。
「……大丈夫か? ジャイナ?」
「ベン!!」
ミトの絶体絶命の危機を救ったのは、街の西門を守っていたベンだった。
「ベン……西門の防衛は!?」
「大丈夫、西側の敵はおれがやっつけた。ここはおれに任せて、ジャイナは下がって少し休め」
ベンはミトを守るべく、鬼の形相でミトの前に進み出た。その威圧感にオーク達も思わず後ずさり、手を出せずにいる。
〔……ここは彼の言う通りにしましょう〕
「嫌です!! 私も一緒に……!!」
〔……聞き分けなさいませ!! 今の姫様では……クソの役にも立ちません、彼の足手まといになるだけです〕
「だってカヤ……ベンは……ベンはあんなにも深手を負って!!」
ベンの背中には幾本もの矢が突き立ち、身体のあちこちに一目で重傷と分かる傷を負っていた。
西の方から延々と真っ赤な線が続いている。
〔戦士の覚悟に水を差してはなりません。彼を救いたいのなら、少しでも早く体力を回復させて戦線に復帰するのです〕
「くっ……分かりました、一旦下がります……ベン=エルノマエ!!」
ミトは正体を隠す為の仮面を投げ捨て、ベンの名を呼んだ。仮面の下の素顔を見たベンは目を丸くした。
「ミト姫様……? ジャイナが……姫様!?」
「ベン=エルノマエ!! アナザワルド王国第三王女、ミト=アナザワルドの名の下、貴方を……私の騎士に任命します!!」
「おれが……ミト姫様の騎士に……!?」
「私の騎士に任命されたからには私の命令は絶対です、ベン=エルノマエ……騎士として、兄に代わってこの街の人々を守るのです。私が戻るまで死ぬ事は許しません……死んだら主命違反で処刑ですからね!!」
「……お任せ下さいなんだな!!」
ナジミを……ナジミを呼んでこなくては!! ミトは涙を拭うと、カヤ・ビラキを杖代わりにしてよろよろと走り出した。
走り去るミトの姿を横目で見送ったベンは、改めて大薙刀を構え直した。
(にいちゃん……おれ、騎士になったよ。この街のみんなは俺が……守る!!)
「おおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
オークの大群を前に、天に向かって騎士は吼えた。
「ここから先は……アリの子一匹通さねえ!!」




