幕、上がる
すみません、最終回のつもりだったんですが、かなり長くなるので分割させて頂く事にしました。
後編は早ければ今日の夜に投稿したいと思っています。
178-①
……その日、アナザワルド王国の人々は空を見上げた。
夕暮れの空に、突如として不気味な笑い声が響く。
男も女も、大人も子供も、王侯貴族も平民も、皆が空を見上げた。
……空に、城の広間のような空間が映し出されている。
人々が不安げに空を見つめていると、どこからともなく発生した霧が、空に映し出された空間を覆った。
「我に刃向かう愚かな人間共よ……」
不気味な声と共に、霧が一瞬で晴れ、霧の向こうから、漆黒の鎧に身を包んだ武光扮する魔王シンが姿を現した。
「我が名はシン……全ての魔族の頂点に立つ、地獄の底から蘇りし魔王ぞっっっ!!」
魔王の背後に雷が落ち、激しく炎が吹き上がる。人々は、空に浮かぶ巨大な魔王の姿に恐怖した。
「貴様らに最上級の絶望をくれてやろう……男も女も!! 老人も赤子も!! 王侯貴族も平民も!! 地獄ですら生緩いと思う程の苦しみと恐怖の果てに、一人残らず息の根を止めてやる……貴様らは皆殺しだッッッ!!」
泣き叫ぶ者、崩れ落ちる者、声も無く立ち尽くす者、怯え震える者……魔王の皆殺し宣言によって王国中の民が恐慌に陥りかけたその時だった!!
「お待ちなさいっっっ!!」
ナジミとリョエンを引き連れてミトが颯爽と現れた!!
「そんな事はさせないわ、魔王シン!!」 声:魔穿鉄剣
「お前の好きにはさせない!!」
「この国の民は……アナザワルド王国第三王女、ミト=アナザワルドが命に替えても守ります!!」
現れたミト達を魔王は鼻で笑った。
「良かろう、まずは貴様らから血祭りだ!!」
宝剣カヤ・ビラキを魔王に向けたミトの凛々しい姿は、民衆達に勇気と希望を与えたが、それはすぐに絶望へと変わった。
ミトの護衛の二人は魔王にたった一撃で倒され、残ったミトも奮戦虚しく魔王の凶刃の前に膝を着いてしまった。
民衆達の視線の先では自分達を守ろうとして魔王に立ち向かった姫君が、殴られ、蹴られ、投げ飛ばされて、残虐に痛めつけられている。
「ま、まだよ……命ある限り……私は戦う……愛する人々に……手は……出させない……私が……絶対……に……守って……うぐぅ!?」
「フン……小娘が!!」
魔王がふらつくミトの顔面を鷲掴みにして身体を高々と持ち上げ、そのまま後頭部を勢い良く床に叩きつけた。床に敷き詰められた大理石に亀裂が走る。
もちろん芝居なので、実際には武光は寸止めをしており、床の大理石がヒビ割れたのもミトの後頭部が床に触れるのに合わせて武光が神地術で割っているだけだ。
なので、実際にはミトはノーダメージなのだが、武光とミトの迫真の演技を前に、民衆達は『もうやめて!!』『誰か姫様を助けてくれ!!』と悲鳴を上げ、国王ジョージ=アナザワルド3世は愛娘の危機を前に、アナザワルド城最上階のバルコニーから思わずその身を乗り出し、危うく落下しそうになった所を側にいた大臣達が取り押さえて事無きを得た。
魔王はミトの顔面から手を離すと、グッタリとしているミトを剣の先で差し示した。
「人間共よ、その目に焼き付けろ……我に刃向かう愚か者の末路を!! 抗っても無駄だ……叩き潰し、殺す!! 逃げても無駄だ……捕まえて、殺す!! 隠れても無駄だ……探し出し、殺す!! 許しを乞うても無駄だ……容赦無く、殺す!! 生き延びられるなどと夢にも思わぬ事だ……」
出番を控えたリヴァルとショウシン・ショウメイは物陰に潜んでいた。『グワハハハハ!!』と、高らかに笑う武光を見てショウシン・ショウメイが呟く。
〔リヴァルよ……凄いな、彼奴は。我よりもずっと魔王らしい〕
「当然だ、武光殿はプロだぞ? それにしても……武光殿には敵わないな」
〔うん?〕
「もし、私が武光殿の立場だったら……間違いなくお前をへし折っていた。でも、武光殿はそうはしなかった。へし折るどころか、お前や私の一族の名誉を取り戻す為に、ああやって悪役を演じて……私にはとても真似出来ない、心から尊敬出来る友だ」
〔フン……〕
「さてと……そろそろ出番だ。行こう……お前と勇者アルトの名誉を取り戻しに!!」
リヴァルの視線の先では、武光がイットー・リョーダンをゆっくりと振り上げていた。ドスを効かせた声で武光が叫ぶ。
「これで……終わりだっっっ!!」
出番だ。真聖剣ショウシン・ショウメイを手に、リヴァルは叫んだ。
「そこまでだっっっ!!」
178-②
武光に言われた通り、リヴァルは背後に退魔光弾をぶっ放してからヴァンプとキサンを引き連れて現れた。
退魔光弾の光が収まったのを確認し、リヴァルは言った。
「そこまでだ魔王シン!!」
台詞を言いながら、武光に言われた事を思い返す。
〜〜〜〜〜
「ええかヴァっさん、今から教える台詞は、何気ないけど、めちゃくちゃ大事な台詞やから」
「はい」
〜〜〜〜〜
「敬愛するアナザワルド王家の姫君にそれ以上の狼藉は許さんっっっ!!」
……武光殿は言っていた。事あるごとに『アナザワルド王家を敬愛してますアピール』を入れろと。
〜〜〜〜〜
「ええか、ヴァっさんはめちゃくちゃ強くてイケメンやし、その上魔王を倒したとなったら英雄として讃えられまくるやろうけど、間違いなく面倒な事に巻き込まれる」
「面倒な事……?」
「ヴァっさんを担ぎ出して、王家に反逆しようとするアホやら、ミトの祖先みたいにヴァっさんの力を恐れて排除しようとするアホが間違いなく出てくる。だから、先手を打つ」
「先手……ですか?」
「先手を打って『アナザワルド王家を敬愛してますアピール』をしまくっといたら、ヴァっさんを利用しようとする奴らは担ぐのを諦めるやろうし、排除しようとする奴らの危機感も抑えられる筈や」
「武光殿……それほどまでに私の事を心配してくれるのですか?」
「ヴァっさんには助けてもらってばっかやし……友達やんか!!」
〜〜〜〜〜
「我が名はリヴァル=シューエン……アナザワルド王国を愛する者だ!!」
リヴァルは、ショウシン・ショウメイの切っ先を武光に向けた。
「魔王シンよ……我が剣、ショウシン・ショウメイで貴様を討ち倒し、この国に生きる人々も、この国を治めるアナザワルド王家も……私が守り抜く!!」
リヴァルの雄々しく、威厳に満ちた姿は、まさに伝説の勇者そのものだった。武光の思惑通り、勇者の登場に人々は沸き立った。
「……リヴァル!! 魔王は俺たちが引きつける!!」
「その間に姫様を助けてください!!」
ヴァンプとキサンが武光に突進した。ヴァンプの剛拳とキサンの鉄扇による怒涛の連続攻撃を、武光は流れるような動きで、紙一重で回避し続ける。
そして、ヴァンプとキサンが武光と激しい殺陣を繰り広げている隙にリヴァルはミトをリアルお姫様抱っこで抱え上げて救出した。そして、それを合図に武光はヴァンプとキサンに掌底を喰らわせてリヴァル達の近くに弾き飛ばした。(……と、言うかそういうふうに動いてもらった)
「……ぐうっ、バケモノめ……っ!!」
「何て力なのー!?」
リヴァルは丁重にミトを降ろすと、ヴァンプとキサンに預けた。
「ヴァンプ、キサン、ミト姫様を安全な所までお連れしろ!! 姫様……アナザワルド王国の為、人々の為に……魔王はこの私が必ず倒します!!」
「リヴァル=シューエン……貴方の一点の曇りも無い忠義、このミト=アナザワルド、決して忘れません!!」
ナイスアドリブ!! ミトの好アシストに、武光は内心ガッツポーズを取った。
ヴァンプとキサンに連れられて、ミトがハケると、残ったリヴァルと武光は向かい合った。
「行くぞ……魔王シン!!」
「来い!! 勇者リヴァルよ!!」
人々が見守る中、勇者と魔王の最終決戦の幕が上がった!!




