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七話 球と黒髪の美少女

「そういえば君、名前はなんていうの?」

「人に聞く前に自分が名乗ったら?」

「はい、すみません…。僕はアサトっていいます」

「変わった名前。私はクロエ」


「いい名前だね。僕は変わってるけど。

えーと、クロエ。ちょっと考えたんだけどさ、僕らが脱出するチャンスは、この部屋から出される時だと思うんだ。

だから僕が君の名前を呼んだら、君は目をつぶってほしいんだ、僕がちゃんと指示するから」


「…あなた、逃げる気なの!?」


「う、うん。このまま売り飛ばされるわけにはいかないよ。ひと待たせてるし」


「…そんな理由!?

…なら、あなただけ逃げてよ。私には誰もいないし、あなたを逃がすくらいなら協力できると思う」


「え!?そんなこと出来ないって!一緒に逃げようよ!」


「逃げたって私はひとりぼっちなんだから!!あなたみたいに誰も待ってない!」


暗がりで彼女の顔はよく見えないけれど、きっと泣きそうな表情をしているのだろう。

家族も友人もおらず、この島でひどい生活を送ってきたのであろうことは想像は出来る。

でもこのまま見捨てて行っても彼女はもっと酷い目に遭う。


「ここに君を見捨てて行くわけにはいかないし、大人しく売り飛ばされるわけにもいかないんだ。

だから一緒に逃げてよ。後のことは後で考えよう」


クロエは思い切りため息をつき

「…あなた適当ってよく言われるでしょ」


えっ⁉︎適当の代名詞は師匠であって、僕はむしろきっちりしていると言われてきた。こんなことを言われるとは心外だ。

もしや僕の周りには超適当なひとしかいないのか?


「まあ、下手に熱血な言葉言われるよりは良かったかも。いいよ、一緒に逃げてあげる。失敗したら殺されるより酷い目に遭うと思うけど、自信あるの?」


「あー、…うん。大丈夫だと思うよ」


「…ホント適当ね、あなた」


言われてみれば、前世の頃はろくに人生設計も立てず漫然と学生生活を送り、なんとなく就職して人生を送っていたし、適当といわれても仕方ないかもしれない…。

だけど何の勝算もないわけではなく、僕は師匠の次にチートキャラらしいから、作戦が上手くいけば何とかなるだろうと思っているのだ!

…適当か、やっぱり。

まぁ、やるだけやってみよう。


「クロエ、一個だけ手伝って欲しいんだけど─」


♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢



どのくらい時間が経ったか分からないが、壁から光が漏れて射しこむように部屋に光が溢れた。


眩しさに目を細め、光の方を見ると男二人の影が立っているのがわかった。

ドアを開けて入ってきたようだ。


どうする?子どもだ、いらないだろう、とボソボソ話し合っている。


ここで騒いでも警戒されるので大人しくしていよう。


チャンスは外に出てからだ。


クロエと僕それぞれに男が無遠慮に近づいてきて、無言のまま乱暴に僕の首をつかみ、首輪をつけられた。


掴まれた時に息が止まり、軽く咳き込む。

それから足かせを外された。


首輪には鎖がついていて、リールのように男が鎖を持ち、引っ張り上げ僕を無理やり立たせる。


息が詰まり、苦しい。

横目でクロエを見やると彼女も顔を歪めている。


そのまま男たちは僕らについている鎖を引っ張って、歩くように促す。

僕は引っ張られる方向に足を突き出す形で無理やり歩かされる。


外に出ると、鬱蒼とした森だった。夜は更けていて、周囲は闇。

僕らが閉じ込められていた箱?のようなものがうっすらと光り、周囲をかろうじて照らしている。

不思議な箱だ。

魔法でつくりだしたのだろうか?この二人組がそこまでの手練れだとは思えないのだけど…。


「さっさと歩け!」


男が僕に繋がれている鎖を引っ張る。

僕は思わずよろけたような形で、握りしめていた右拳を開き、男の方向に球を転がした。

球はコロコロと転がり、男に近づいていく。

男も転がるものに気付いたのか、訝しげに下を見た─


「クロエ!!目をつぶって!!」


僕が叫ぶと同時に球から閃光がほとばしり、強烈な光が男たちの目につき刺さる。

特に僕の鎖を持っていた男は直にくらったので、ひとたまりもないだろう。


目ガッ目がぁぁっ!クソガキなにしやがった!!


叫びながらのたうっている。

僕は目をつぶっていて状況が分からずキョトンとしているクロエの服を掴んで引き寄せた。

閃光はおさまり、周囲は再び闇だ。


「クロエ、もう目を開けて大丈夫だよ。上手くいった」


恐る恐る目を開けたクロエは目を押さえて苦しんでいる男たちを見て驚いている。


「あなた…何をやったの??魔法は使えないはずじゃ!?」


「目くらましってとこかな。

ちょっと待って。仕上げをしなくちゃ」


僕は左手を開いてもうひとつの球を落とす。


「食べちゃえ、パックン」


球はヒト二、三人はペロリといけるくらい巨大な金属製の球体、更に飲み込みやすいように上下で分かれて、大きな口を開け閉めしている、平たく言えば某パッ◯マンそっくりなものに変わった。というかモデルにした。


「え、な、なにこ…れ…」

「ええと、対バカ猫用兵器。さ、パックンやっちゃって」


パックンは口をカパカパさせながら男たちをあっという間に飲みこみ、口を閉じて巨大な球体に戻った。

彼らはまだ目が回復していないので閉じ込められたことも分からないだろう。


「ひとまずはこれで足止めしておいて、ここから離れようか」


「あなた、何者なの…?魔法をどうやって使ったの?魔法封じの手錠してるのに!」


「え?別に大したことじゃないよ。

クロエにポケットから出してもらった球にさ、魔法を閉じ込めてたんだ。

魔法自体は完成していて、あとは念じるだけで球から魔法が解放されるから発動させるときに魔力は必要ないんだ。

イメージとしてはレトルト食品みたいな感じかなあ。

あとはあっためるだけ、みたいな」


元ネタはホイ◯イカ◯セルとかモンス◯ーボー◯なんだけど。


「れとると…?よくわかんないけど、そんな魔法の使い方聞いたことない…」


そうなの?確かに思いついたのは独学だったけど、結構みんなやってるんじゃないかと思っていた。


「それなら、私でも使えるのかな、魔法…」


他人にやらせるのは思いついたことがなかった。


もともと対バカ猫用で考えたものだったからなぁ。


巨大すぎて置き場所に困ったから思いついただけで、発動に魔力が必要ないのは、むしろ副産物だったし。


「試しにやってみよっか。僕も気になる。

さっきと反対側のポケットに、もうひとつ球が入ってるから、手に取って念じてみてよ」


クロエは手錠のついた手で

僕のズボンのポケットに指先だけ何とか入れてまさぐっていく。

必然的に密着する形になって、何というか、おおぅ近い…。


近くで改めて見ると、クロエは肩で切りそろえた黒髪と汚れていてもわかる位の白い肌、大きくて黒々とした濡れた瞳と長いまつ毛を持つ美少女だった。


しかも、まさぐり方が、なんか…グイグイきます。

俺の中心に当たりそうで当たらないっ…!

どうしよう、俺は素人童貞だったけどロリコンの気はなかったのに…。


いや?今の俺は13歳だから、同年代の女子にドキドキしても、おかしくもなんともないのかっ!


思へば学生のころは落とした消しゴムを拾ってあげたのに眉をひそめられたりする始末、女子と話した記憶すらなかったなあ…。



…ちょ、ちょっとくらいなら触っても怒られないよね?


「…ふぅ、やっと取れた。

…何?顔近いんだけど。息も荒いし気持ち悪い。

暑苦しいから離れてくれない?」


「す、すみませんっ」


タイミング悪いんだよぉお、球っ。

























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