三話 口元にクリームと書簡
「いっただきまーす!!」
二人同時に元気よくあいさつし、パンケーキにかぶりつく。
鳥の姿でなければ、コムギと神さまは何だかんだ仲が良いのだ。
「アファトもふぇいちょうしたよねえ、あんなおおひなとりかご、ふぇんせいできるようになっふぇさ」
「口の中がいっぱいなのに喋らないでください師匠。
僕が成長したのは、毎日毎日飽きもせず神さまを狙ってくれる師匠のおかげですよ」
「イヤミー。イヤミでたー」
「師匠に魔法使われたら、止められないですけどね。
次は魔法を無効化する術式を埋め込もうかと思ってます」
「うんうん、師匠としては弟子の成長はうれしいよ。
これからもどんどん襲うね!」
和やかに笑う僕ら。
神さまが目を釣り上げる。
「ちょっと待てぇ!貴様ら!妾を修行のだしに使うでない!!
アサト!貴様当初の目的を忘れておるのか!?」
怒っているが、鼻の頭にクリームがべったりついているので、怖くも何ともない。
「もういいじゃん、神さま。死ぬわけじゃないんだし。」
「死ぬわ!いずれ死ぬわ!うわあ〜ん、みんなが妾をいじめる〜!」
「はいはい、ごめんね神さま。鼻にクリームついてますよ、取りましょうね〜」
僕は神さまを抱っこし、クリームを拭い取ってから頭を優しくなでる。もう慣れたものだ。
「お、なんだ。また泣いてんのか神さま。
アサトォ、あんまりいじめんなよ、うちの神さま」
声のした方向を見やると、入り口に男が立っていた。
くたびれた黒スーツをだらしなく着こなし、無精髭は生え放題。ひょろりと高い背丈と引き締まった痩躯は痩せた狼を思わせる、どうみてもカタギではない男だ。
「ガイルさん、おはようございます。
僕はいじめてません。むしろあやしてます」
「あやすとか言うな!妾は神だぞ!失礼な!」
「はいはいごめんなさい神さま。パンケーキまだ残ってますよ、食べちゃってくださいね」
神さまは素直に席につき、残りをたいらげ始める。
食べ終わった師匠がガイルさんに話しかけた。
「何の用?ガイル」
「お、コムギ。相変わらずの露出狂っぷりだな。口元にクリームまでつけちゃって。
いくら?」
「死ね。用ないなら帰ってよ」
「用がなきゃ、こんな健康的な場所来ねえよ。タバコも吸えないんだぜ?
王がお呼びだ。昼ごろ城に来いってよ。ほい書簡」
師匠が放り投げられた書簡をキャッチし読み始める。
「アサトも、ちよっと見ないうちにまたでかくなったな。お前いくつになったんだ?」
ガイルさんが親戚のおじさんのように話しかけてきた。
ガイルさんはこんな姿形をしているが、神さまを祀るこの世界の宗教の筆頭護衛神官で、彼とほんのわずかな神官しか神さまの住まう<礎の樹>の島に入ることが出来ないのだ。
ガイルさんをみていると信仰って何だろうと遠い目をしたくなるけれど。
どう見てもチンピラでヒモのような風貌だし、実生活は似たようなものらしいし、何でこの人が筆頭護衛神官なんだろう。宗教って不思議。
「13歳になりました。でかくなりましたかね、自分としてはもうちょっと伸びて欲しいですけどね」
「話し方はなんつうか年季入ってるけどな。コムギと神さまの子守りしてるからか?
まあ、すぐに色々でかくなるだろ。13っつったらそろそろ…」
「アサトに変なこと言わないでよ、クズ神官」
読み終わった様子で師匠が
顔を上げた。
師匠、口元のクリーム拭こうよ。
ふきんを渡そうと師匠に近づくと、ニヤリと笑みを浮かべている。
「アサト、<街>に降りるよ」