第8話 平和交流学園の恋愛事情
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全面核戦争により、地上から地下へ生活圏を変更した人類達は数少ない文明と技術を地下に持ち込み、いずれ地上に戻ることを願い続けながら長い月日を過ごすことになる。
人類達は、地下に移り住んだ。そして地下国家ではなく都市とした。その理由は、1つの国家なら内部分裂の恐れがあるが、都市ならば分裂がないと考えたからだ。旧人類と新人類にわかれていた人類達は、この地下都市での長い生活と長い時間により互いに交わり、そして同じになっていった。
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「体育は実技が、主にモンスター討伐。これは学園を卒業後に殆どの生徒が地上を取り戻す為にモンスターを駆逐する仕事に就職するからだ。というか、モンスター討伐と地上開拓により人類の文明を取り戻す、は全人類の目標になっているからな。また、学園関係の仕事に就職するにせよ、モンスター討伐の実力はある程度必要になってくる。人工島の学園だが、外部のモンスター達は普通に空、海から襲ってくるからな。まあ、どちらも月の技術力で迎撃できるが……」
体育の教師は、月の技術力は高いが迎撃の費用などの愚痴をほんの少し吐いたが、失言だと思ったのだろう。話を戻した。
「でもって、体育の座学は保健体育。ヒトクローンだとか、超能力者だとか、月人類だとかは一旦置いておいて。身体の作りは皆同じだからな。共通授業だが……成人にもなって保健体育が必要かどうかは成人なのだから自分で判断しろ。じゃあ保健体育の授業を始める」
はてさて、成人にもなってどんな保健体育を教わるのやら。
「少し歴史の話をする。過去に人類はわかれた。ヒトクローンと人類。あとは月人類な。で、例外はあるが……現代じゃ自分がヒトクローンの子孫なのか、純粋な人類の子孫なのかが分からんくらいに月日が経過している。月人類は純粋な人類の子孫だがね。そして、現代ではセックス無しで子供を作るヒトクローン技術はない。……一応、成人部の保健体育だから隠語やら思わせぶりな用語は使わん。男子は余り無駄撃ちするな。女子は生理周期を乱さないよう生活リズムを作れ。避妊具は販売しているが、できることならなるべく結婚前提で付き合うようにしてほしい。正直に言えば避妊具は使うな。性病の類は月の医療技術で回避できるし、治療できる」
ズバズバと、言いたいことを言うなぁ。体育の先生はオムロみたいな益荒男じゃないが、性格は似てる感じだ。
「現代じゃ美男美女が多い。その理由は過去の戦争時にあるらしい。遺伝子工学的に優秀な遺伝子を残す遺伝子操作の影響だと言われているが、詳しいことは歴史の先生か、遺伝子工学の先生に聞け。俺は知らん。ともあれ、過去よりも面構えの標準レベルは高い。まあ、顔よりも中身だが。話を戻すと、学生の内に結婚しとけ。援助が出るし、若い方が子供を産む際のリスクが低い。月政府に習って地球政府もハーレム法案が成立しているしな。とは言え、俺は奥さん一筋。子供は5人。俺みたいに幸せな家庭を築いてくれると幸いだ」
一夫多妻制、その逆もあり。歴史的に考えると先進国だと一夫一妻だったそうだが。それは人類の総人口が多かったとか、宗教的な理由でそうだったとか。まあ時代が違うから価値観も違うわけで。
「1人が複数人と付き合っている、という生徒は結構いるが、付き合っているだけの状態だと援助は出ないからな。まあ、その分甲斐性ある人間だということだが。何時の時代でも色恋沙汰による事件がある。節度を守るのも必要だ」
「質問でーす。学園で過去に色恋沙汰で大きな事件まで発展したのってあるんですかぁ~?」
クラスメイトの女子が聞いた。周りの女子達も興味があるようだ。正直、どうでもよかったが。どちらかと言うと、人類とヒトクローンの遺伝子交配で何で超能力を持つ子供が生まれるのか、とか人類とヒトクローンの違いとか。その辺りを聞いてみたかったのだが。
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「――保健体育の授業とは関係なくはないけど、竜児とオムロは彼女いるわけ?」
サナが聞いてきた。放課後、学園テラスに集まるのが日課になりつつある今日このごろ。仕事の話以外もよくする。というか、男女が揃っているので、学園テラスのサービスが使えるから集まっている、という感じだが。
「俺と竜児、二人共々彼女はいないな。告白されることは……」
「いや、その悲惨な顔でわかったわよ。筋肉ダルマと女男とは言え、お金は持ってるんだから彼女作れそうなんだけど」
「時に事実を包み隠すのも必要だぞ」
「オムロはともかく、竜児君はかわいい系で年上女性からモテそうだと思うけどね。……歳のことを言うな!」
自爆して怒るなよ。
「そういうサナとアカツキさんは彼氏いるのか?」
「うっ……」
「お兄ちゃんは妹が彼氏を作ることを認めません!」
「バカ兄貴は無視して。私は男よりも機械の方が好きだから。機械よりも魅力のある男がいれば考える」
「人生=彼氏いない歴ですが何か?」
アカツキさんが殺気と共に、刀に手を添えているのでこの場の正解は沈黙だろう。
「ちなみに、俺は脳内彼女が100人以上!」
皆、それなりの年齢なのに彼氏彼女無し。というか、清い身体でいるわけだ。それを悲しく思うのか嬉しく思うのかは個人の自由だ。
「俺はともかく。アカツキさんはモテそうなんだが。実際どうなんだ?」
オムロよ。茨の道というか、死の道を行くか!
「まず私より弱い男は死ね。考古学の知識が低い男は死ね。私を年下として見る男は死ね。年上として見る男はもっと死ね」
どうしろってんだ。性格に難あり、か。見た目は可愛くて幼いが年上で、スタイルも良いのに。強さで言えば、俺が見た中ではオムロと同じ位か、場合によってはそれ以上。オムロの超能力、身体強化は単純が故に強い。人間を超えた人間以上の存在。モンスターを素手で屠る奴は人間じゃない。
「強さと言う一点で言えば俺なんてどうです?」
「なんか、無理」
見事に振られましたなぁ。ざまぁ!
「……というか。竜児とオムロは彼女を作ろうと努力していないように思える。俺は二次元かアンドロイドを嫁にするために努力しているから分かる」
ちょっと何を言っているのか理解不可能。だが、シュウイチの発言は正しい。
「俺はまあ、この筋肉で遠慮されがちだが、竜児はアレだ。彼女よりも欲しいものがあるからな」
「そうなの? で、欲しいものって何?」
サナが興味津々で聞いてきた。少々恥ずかしいが答えるか。
「まあ、夢というか。願いというか。……欲しいものというか。…………俺は俺の祖先たちの故郷。日本を取り戻したいんだよ」
「……!」
そりゃあ、驚くだろう。遥か昔、日本と呼ばれていた国は自然に富、四季がはっきりしていて、海に囲まれた島国。それが示す事は――。
「――楽園。それも、強力で凶悪なモンスター達の楽園じゃない。日本に住む小型モンスターは大陸の大型モンスターを食い殺すってくらいのパワーインフレしたモンスターの楽園を取り戻したい? マジ?」
「考古学の世界でも、日本の遺跡は歴史が長くて有名だけど……どんな凄腕の遺跡ハンター達でも探索を遠慮するレベルよ? いえ、遠慮じゃなくて、怖いのよ。過去に何回か、凄腕のハンターが日本に行ったけど、帰ってこなかったから……」
「俺達兄妹の先祖も日本人だが……。衛生の情報から日本は諦めろと言われ続けられている。日本を囲む、日本近場の海中に巨大モンスターが。空にも巨大モンスターが。陸は自然とモンスターが共存しているらしいが。衛生で得られる情報には限界があるからな。それでも、日本を取り戻す計算をさせたのさ」
そういや月に移住した人類の中に日本人が結構いたって習ったな。
「5年前……月の技術力で作った兵器を地球の全軍に配備し、日本のモンスターを駆逐させてみようという内容だったが、その内容で計算した結果は5年後に全軍が壊滅。人口推移やら技術力向上などを計算に入れて、その結果だ」
「知ってる。それでも、俺は見たい。先祖の国とその風景をね。まあ、昔とそれらは変わっているだろうけど。それでも、故郷の地に立ち、先祖と同じ視線で日本を見たい」
俺の実家に800年以上前の1枚の写真がある。なんてことのない、日本のどこかの公園で撮影された写真がある。写真に写っているのは、俺の祖先たちの家族だ。皆、幸せそうに笑っていて、それでいて……どうしよもなく、美しかった。
「――この写真の風景を取り戻したい」
SSNで写真データを皆と共有して、写真データを見せた。
「……これは、凄いわね。考古学的な価値は無いけど、博物館に寄与できるレベルの代物ね」
「どことなく竜児の家系って分かるわね。この女の人。顔立ちが竜児っぽい」
「母方の血を残しやすいのだろう。しかし、800年以上前でもやはり紙は残るか……。正確には紙ではないが。フィルムか? 古過ぎて分からんな。あとで月のデータベースにアクセスしてみるか」
「俺は竜児の夢を笑わないし、強いモンスターと戦いたいから協力を惜しまない。……この話と写真を見聞きした時に俺はこんな家族を持ちたいと思ったね」
無理は承知だ。それでもなお、俺はこの風景に焦がれる思いを止められない。