第6話 平和交流学園の休日
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平和交流学園のカレンダーは、旧時代よりも遥かに休日が多い。その理由は、学生結婚を推奨しているからだ。週に3日休みである。その3日間で、男女交際をしろ、婚姻相手を見つけ出せ、という事だろう。それは学生自身も親から言われているし、暗黙の了解的に学園でそういった話が広がっている。学生結婚のメリットは大きい。様々な援助と免除。子供は人類の宝であると認識できる位に様々な支援が受けられる。
”平和の象徴は、子供達の賑わう声と笑顔である。”
学校の教訓にも示されているのだ。また、異性交流及び、集団異性交流をする場合様々なサービスがされる事が多い。
例えば、異性交流ならば、多くの施設が割引をしてくれる。集団異性交流であるならば、団体割引サービスプラス、集団異性交流割引を受けられる事が多い。
月人類の言葉を借りるなら、限界集落の町コンよりも力入れている、だそうだ。
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「いつもヒーロー株式会社からの依頼を受けてくれてありがとうね」
「うん。大丈夫。あたしは超能力者じゃないからモンスター討伐でポイント稼ぎたいし」
「誰? めっちゃ可愛いんだけど」
アカツキさんはロリ巨乳で年上だけど、この子の姉に見えるくらいに幼い顔立ちだと再認識。
「アンリ・フォン・オルレアン12歳です。今年高等部に飛び級しました。普通なら中等部らしいです」
「おふぅ……。リアルロリね。私はサナ・L・アマシキよ」
「俺はシュウイチ・L・アマシキだ。アンリちゃんは、二次元世界に興味はないかい?」
兄に妹が、割りと本気に見えるボディへの攻撃をしたところで一息。
「アカツキ・エンドウよ。お姉ちゃんって呼んで? 超能力者よ。能力名はサイコメトリー。能力内容はその名のまま、情報を読み取る能力ね。遺跡ハンターで、この間ヒーローに正社員として採用されたわ。これから顔を合わすことが多くなると思うから、困ったことがあったらすぐに連絡してちょうだい。これ、私の連絡先ね」
アカツキさんは異常に手早くアンリと、半ば強引にも見えるが連絡先を交換していた。しかし、能力は最低限しか伝えないあたり、しっかりしているらしい。
アンリは幼いけど、狙撃手として俺たちと何回もモンスター討伐を行っている少女だ。超能力者ではないが、目が異常に良い。詳しくは知らないが、超人化計画の関わった家系の子孫らしい。20キロ近い狙撃銃を軽々持ち運びするから、退廃前の人間から見れば充分超能力者に見えるんだろうな。
「オムロお兄ちゃんから今日は沢山モンスター討伐するって聞いたので、頑張りますね」
「かーわーいーいー」
サナとアカツキさんは騙されている。強化制服を着ているとは言え、狙撃銃2丁に弾薬沢山。あと、手榴弾に、手投げ閃光弾持ってるんだぞ。
たぶん太もも辺りにナイフも装備してるはず。以前にどんな武器装備してるのって聞いたら無防備にスカートめくって見せてくれたからな。記憶に焼き付いてるぜ。あのナイフ、毒仕込めるからな。
「平和交流学園から出て、西方第一大陸の西部領域で中型以下のモンスター狩ります。車はあちらに配送済み。あとは、学園のテレポートサービスを使って移動。移動費は会社持ちで、必要な物も配送済み。現地到着後はパーティー編成を組んで、まずは小型モンスターでパーティー戦の訓練です。アンリちゃんは、訓練中はパーティーの援護を担当。その後、訓練終わり次第、次々とモンスター討伐という流れです。今日の目標は、最低でも中型モンスターを10体。小型モンスターを20体以上です。では出発」
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学生の特権は、テレポートサービスを使える所にあると言っても過言ではない。フリーランスのテレポーターでなおかつ長距離移動可能となると探しだすのにも一苦労な上に、移動費が馬鹿にならない。だが、学生で、更に集団異性交流風を装ってモンスター討伐による親交を深めるとか申請出せば割引サービスを受けられるのだ。まあグレーゾーンだけどな。学園側は黙認してる。実際、過去にこういった男女均等でモンスター討伐してたパーティーの男女全員が結婚したって実績があるからな。アンリちゃんは年齢的に婚約は可能だけど、高等部の学生だから結婚も可能なのだ。去年までだったら、結婚不可能だったのにアンリちゃんが頑張って飛び級してくれたから更に割引サービスが充実。
「竜児お兄ちゃん。三キロ先に小型モンスターいるけど、どうしよう?」
「この辺りだと、野犬?」
「うん。5体確認できるよ」
「えっ?」
アマシキ兄妹と、アカツキさんの疑問の声が重なった。だから、見た目に騙されているって。
「野犬5体か。あんま金にならんが、竜児。どうする?」
「パーティー戦の訓練には持ってこいだからそのままで。3人ともぼうっとしてないで、車に乗り込んでー」
運転は俺。助手席はアンリちゃん。後ろ2つは兄妹で1番後ろがオムロとアカツキさん。トランクには道具や消耗品などの必要備品が積んである。
「ねえ、アンリちゃんってどれだけ目がいいの?」
サナが俺に質問してきた。運転中だからオムロに聞けよ。
「相当良いよ。狙撃手だし。10キロ先くらいまではっきり見えるって聞いてる」
「視力は10.0以上ありますよ? 日常生活中は2.0まで落としてます。見え過ぎると疲れます」
「そ、狙撃範囲10キロって下手な超能力者より凄いんじゃねーのか?」
シュウイチが驚いた声で言ってるが、俺とオムロは慣れたものだ。肝心の本人は何処吹く風。
「近接戦闘だと簡単にオムロお兄ちゃんに負けます。竜児お兄ちゃんには戦う前に負けますよ?」
そんな事はないはずだ。アンリちゃんに長距離射撃されたら普通に頭ぶち抜かれて死ぬ自信がある。
「アンリちゃんの言ってる事は条件が限定された場合だ。俺と近接戦闘で戦えばまず俺が勝つだろうが、それは近距離で戦闘が開始した場合であって、長距離で戦闘が開始したらアンリちゃんに勝てる訳ない。1、2発は狙撃に耐えれるだろうが、その後がない」
「2キロ圏内であれば中型モンスターの頭を簡単に吹き飛ばせる威力の狙撃銃を1、2発耐えれる時点でおかしいです」
「竜児には戦う前に負けるってのは、どういうことだ? ワンオーダーって命令できる能力だから、考えられる限りで言えば、戦闘前に降伏しろとか命令すりゃ、そりゃ負けるだろうけど……」
シュウイチはそれ以上があると思っているらしい。
「まあ、ある意味反則的な使い方を挙げれば、竜児が戦闘前に沢山の人間にアンリちゃんを監視しておいて敵対行動したら制圧しろとか、敵対するなとか命令しとけば戦う以前の問題になるわなぁ。まあ、本当の怖さは明日の楽しみにとっとけ」
「おいおい。それじゃ俺が怖い人間に聞こえるじゃないか」
全く失礼な。オムロの苦笑をバックミラーで見ながら、安全運転で大陸を進む。
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「成果として、パーティー戦はまずます。近接戦闘が2人いるだけでこうも違うか。それに、アマシキ兄妹の銃火器による援護も良い。加えて、狙撃の名手がいるからモンスターに撃ち漏らしが無くて済んだ」
「で、竜児は何もしてないっと」
「運転した。的確な指示をした、はず。あとは、飯作った。素材剥いだ。周囲の安全を確認した」
オムロは皮肉を使いやがった。でも、本気で貶している訳じゃない。俺の本番は明日だ。
「目標の数は達成したけど、どうするの?」
サナが聞いてきた。まだまだやれるって感じだ。それにシュウイチとアカツキさんも同様らしい。
「どうするって、学園に帰るよ。明日は大型モンスター中心に狩るし。その準備がいるし。それに、まだ行けるはもう危ない、だ。目標を達成したら終わり。追加は一切ない」
「竜児お兄ちゃんはいつもこうなので、理解してください。目標を達成したら執着せずに帰る。それが大切だ。っていつも言ってますので」
「不測の事態の排除ね。見誤ると皆、死んじゃうわね」
アカツキさんはすぐに理解を示してくれた。兄妹もそうだ。何時、何が起こるか分からない。安全が確保できている内に帰るのが良い。万が一があっても、余力があるので最悪の場合を回避できる可能性も高くなる。
「つまりは、安全第一。何か起きても余力があるから対処はできる。そして、万が一の可能性で最悪の状況が起きても切り札は取ってある今の状況で帰還するのが1番だよ」
オムロは深く頷いた。前に痛い目あったからな。主にオムロが。
全員、帰還準備を終えて車に乗り込み移動を開始。
「で、切り札って? 早く車に乗り込めって竜児が圧力かけてたから聞けなかったけど、切り札があるんでしょ?」
サナが俺に聞いてきた。バックミラーを見ると、オムロ以外は聞きたいようだ。明日の事もある。話しておいた方がいいな。
「学園外だから話す。出来れば秘密にしておいて欲しいが。まずは説明をしよう。俺の超能力ワンオーダーは公的には1日に1回なんでも命令できる能力と情報開示されている。人間ってのは面白いもので、能力管理局は俺の能力を"人間に対して"なんでも命令できる能力だと思っているらしい」
「えーと。それは能力詐欺にならないの?」
「ならない。公的に1日に1回なんでも命令できる能力と情報開示されてるって言ったじゃん。それが、人間以外にも命令ができるってだけだ。騙してないから詐欺じゃない。それに、能力登録した時には人間にしか命令できなかったし」
超能力者は1番素直で、大人に嘘を付けない年齢の時期に能力登録をする。確かにその時は人間にしかワンオーダーは効かなかった。後天的に能力が進化する、なんて事実は公表したくとも出来んだろうし。するとしても、然るべき時期を見るだろう。と付け加えた。
「と言う事は、私にもまだ伸びしろがある?」
「どうだろうな。後天的に超能力が進化するって話は俺以外で聞いたことはない。さっきも言ったが、俺以外にいたとしても公表は避けるだろうよ。だってさ、自分の超能力がさらに強くなる、進化できるって知ったら超能力者達はどうにかして強くなろうとする。そして、その先に待ってるのは超能力者同士の格差による争いだ。爺にこのことを相談したら、数十年か数百年は公表を避けるだろうって言われた。まあ、俺みたいな奴が沢山出てきたらそれとなく公表するかもとも言ってたが、今んとこ爺からは聞いてない」
「竜児のお爺さんって政府関係者の護衛だっけ? だとするとお偉いさんはこの事実を……」
「知ってるかもしれんし、知らないかもしれん。十中八九知ってるだろうけど、極一部だろうね」
さて、どうだ。うん。アマシキ兄妹は珍しい事聞いたって顔。アカツキさんはこの話を胸に秘めておこうという顔。良かった。
「竜児お兄ちゃんは、信頼できると思って話しました。この話が漏れたら、たぶんワンオーダーでこの話の記憶を消されるです」
「そこまではしねーって。アンリちゃんは俺を極悪非道人と思ってんの!?」
後天的に超能力が進化するなんて話は、信じたくても信じれないだろうよ。だって、超能力者は皆、超能力をどう使うか、どのように付き合っていくかを教わって生きてきた。そして、超能力が進化するなんて誰からも教わることは無かったのだから。