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第5話 機械オタク娘


 ◆


 月人類は技術屋の集まりである。根っからの技術屋集団だ。その歴史は、2230年代まで遡る。

 2050年代に第三次世界大戦が始まったが、この戦争は一度、2200年代に一時休戦状態となる。その理由は、資源枯渇問題が大きくなったためである。その問題は、人類が月に移住を始めたことにより、解決されてしまう。後世の歴史家がこんな言葉を残している。


『月に移住した人類が、月に資源は無かった、月で資源が確保できなかったなどと嘘を付いていれば、戦争は呆気無く終戦していただろう。月に移住した技術屋集団は正直過ぎた』


 2230年代、月に人類が移住を始め、人類が月に移住したのが月人類の起源だ。当時から、技術屋と言えば、日本の名前が上がるほど、技術力の高かった日本人が多く月に移住した。その為、月人類の技術力は当然と言えば当然高く、同時に食文化も優れている。また、日本独自の文化が強く現在まで残っている。その証拠が人型アンドロイドであることは間違いない。


 ◆


「誠実で堅実な仕事をする日本人の血を引いてるけど、同時にヘンタイの血も引いているのがネックね」


 俺は月の事情は教科書に載っている程度しか知らない。サナが言うには綺麗に着色されて良い感じに表現、評価されているけど、教科書にはヘンタイの文字がないから間違っているとのこと。


「そもそもの間違いは、ヒトクローン技術の確立に対抗して、何故か人型アンドロイド技術を確立させたことね。当時から頭のネジが数十本は抜けてるか壊れてたのよ。人型アンドロイドの老舗である、ロボコ制作所株式会社は610年の歴史があるけど、ヘンタイの血筋が600年以上途切れていないって、ある意味恐怖ね。でも、人型アンドロイドを軍事利用させないってロボコの初代社長の決めつけを律儀に守っているからねぇ……そこは尊敬できるけど、月政府は地球上で起きてる戦争に手を出さないって決めちゃってたから意味なんだけど」


 何が言いたいのかよく分からない。俺が聞きたいのは月の人間が何を考えて行動しているのか、とか月の一般常識なのだ。


「情操教育は俺達の世代だと、両親が半分、子育て専用人型アンドロイドが半分だ。月の共通語は月語だが、日本語と英語と地球語を幼少期に覚えさせられる。日本語と英語は過去に月に移住した先人達の母国語だ。昔の機械はプログラムが英語で書かれていたり、説明書が日本語だったりするから機械を扱う上で必須になってくるらしいが。今じゃSSN(スタンドスカイネット)の発展で不必要だと言われている。まあ、最悪の状況に陥った場合、頼れるのは己の知識だから、知識は沢山あったほうが良いがね」

「知識の蓄積をネットにさせるんじゃなくて、自分の頭にもさせることで機械では出来ない事をさせるってね。機械に出来ない事は新しいモノを創造すること。人型アンドロイドがいくら人間に近づいても、何かを創り出すという一点に置いてはまだまだ、人間は負けないわよ」

「現在の人型アンドロイドは人間と殆ど変わらないと聞いてるが、何か決定的な差はあるのか?」


 意外にも、オムロが鋭いこと聞いたぞ。進歩だ。


「あるわよ。そうね~。機械で言えば、量産性じゃアンドロイドが勝つけど、品質や突き詰めた性能を求めるなら人間の方が遥かに高いモノを作り出せるわ。例えば、ネジ一本にしても職人が作るネジとアンドロイドが作るネジには違いがあるの。標準規格のモノは作れるけど、標準規格以上のモノは作れない。その差は大きいわ。そして、それは突き詰めれば最終的に辿り着くのは理論なんだろうけど、理論を超えた人間の感覚が理論では説明できないモノを創り出す」

「だが、ソレは職人が生涯を通しても創り出せない時もある。その意思を、何か新しいモノを創り出すという意思は継がれていくんだ。ヘンタイという血筋でな」


 クソッ、良い事言ってると思った俺が馬鹿だった。


「で、まあアレだ。どんな物であれ作られた意図や作った人達の思いみたいな物をある程度なら分かるつもりだ。それは俺達の以外の月人類達も同じで、物を大切にするって考えが根付いている。日本の血を引いている竜児なら分かると思うがね」


 俺の実家に絶滅寸前の骨董品があるのは黙っていた方が良さそうだ。


「そりゃ分かるさ。なんたって竜児の実家には機械仕掛けの古時計が未だに現役であるもんな」

「なんで言うかな~。このバカは……」

「嘘、マジで!? もしかしてアナログ時計? 分解させて!」

「針動いてたからアナログ時計だよな?」


 いや、そうだけど……。たぶんめちゃ骨董品だから触らしてくれんよ。


「そうだけど、爺が大切にしてる家宝っぽいから家族以外は触れんと思う」

「ぐぬぬっ。なら家族になるわ。アナログ時計って言ったら800年以上前の代物に違いないわ。それを分解できるならば……」


 ぶっ飛んでいるな。機械オタクって凄いや……。


 ◆


「対モンスター用兵器の基本骨子は殺傷能力にあるわ。まあ人間相手にドンパチやってた頃から兵器に求められていたのは殺傷能力ってね。それで、モンスターの強靭さやら生命力を削ぐには破壊力がいる。対モンスター用電磁兵器(レールガン)が軍で主力な理由は第一に破壊力。第二に使いやすさ。第三に耐久性と整備性。第四に燃費の良さと武器その物の安さ。安いって言っても一般常識に当てはめると高いけどね。破壊力は中型モンスターまでなら一撃必殺。使いやすさは自動照準が付いてるから小学生高学年の男子くらいなら訓練無しで1時間もしない内に中型モンスターを狩れるくらいにはなる。耐久性と整備性は凄く良い。1年中整備無しで使い続けても壊れないくらいには良い。燃費は太陽光エネルギー充電機能付きでバッテリパックあれば1カ月間は使える。これでお値段500万ゴールドです」

「たけーよ!」


 オムロ。お前は漫才師になれ。


「えー。大型モンスターに使う戦車と対モンスター用徹甲榴弾より安いよー。この前作った対モンスター用電磁兵器(レールガン)は二発撃てれば充分って感じの未完成品だったわけだしぃ。新品が欲しいなぁって。買って? 買うよね?」


 サナには車どうすればいいかって話の相談してたはずだ。ヒーロー会社にある武器を見るなり文句から始まって、講義になってた。明日モンスター討伐の仕事なのにね。今、買っても届くの大分後だぞ。


「会社の資金的に無理。大陸用の車バカ高いし」

「軍用のお下がりとは言え、全輪駆動トラックでキャンピング仕様車だもん。キッチン、トイレ、お風呂、6人の居住スペースを確保するって要望に答えた品はそりゃ高価ですよ。特注した方がもっと高いけど。まあ3000万ゴールドは適正価格と思うよ?」

「おいぃ、竜児。どうなんだ?」

「今ある車を売ると大体300万ゴールド。現在、会社で使える資金は2000万ゴールド。残りは俺の貯蓄とオムロの貯蓄で賄う予定。で、幾ら貯蓄ある?」

「500万ゴールドくらいかな」

「ワォ。筋肉ダルマって金持ちじゃん」


 口うるさくいざという時の為に貯蓄しとけって言っといて良かった。


「で、竜児は幾ら貯蓄してるのかなぁ~?」


 サナの目が金になってる気がする。


「1000万ゴールドくらいだな」

「倍! なんでそんなにお金持ってるの?」


 使わないからだよ! あと、モンスター討伐で稼いだ金の殆どは貯蓄に回してるからだ。


「350万ゴールド出し合うか?」

「いや、最悪俺が全額負担するが。明日のモンスター討伐で恐らく500万ゴールドくらいは稼げるはず。で、明後日に社員3人でモンスター討伐すれば賄える予定」

「そりゃあ、竜児が本気出すって意味でいいのか?」

「出さなきゃならんだろうね」


 オムロは良い奴だ。長年の腐れ縁も捨てたもんじゃない。


「なら決まりだ! 明日、明後日をモンスター討伐に使って金を稼ぐ! でもって車買う! 夏休みに遺跡発掘!」


 単純明快でよろしい。これこそオムロの持ち味だな。サナの妙な視線は無視しておこう。


 ◆


 ――

 ――――

 ――――――――

 ――――――――――――

 暗黒の時代。2275年代に起きた、全面核戦争により、人類は地上での生活を捨て、地下に避難した。この時代より前から人類は核戦争を予期しており、地下深くに都市を築いていた。だが、そこに住める人類は少なかった。100億人いた人類は、地下都市に移り住む頃には数百万人まで減っていた。幸か不幸か、生き残っていた人数が少なかったおかげで、奇跡的に誰一人として地上に置き去りにされることはなかった。

 いや、死んでいた方が楽であったかもしれな。その後、人類は地下都市で様々な問題と対面し、数百年の歳月を過ごすことになるのだから。

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