第4話 時代が変われど……
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2850年代。全人類の男女平均寿命は、約250歳である。過去、地球にいた人類の思想は長く戦える兵士を作るために寿命を延ばそうと考えた。月に移住した人類は己の技術力を高める為に寿命を延ばそうと考えた。思想の差異はあれど、寿命を延ばす事には成功したのだ。
そして、近年は人口を増やすために寿命を伸ばし、いろんな意味で現役でいられるよう老化を遅らせる技術を使っている。老化防止の技術自体は数百年前から確立されていた。だが、本格的に老化防止の技術が使われたのは近年である。
人種は様々いるが、多くの人間は人間らしく年を重ね死にたい、という考えがあった為に、近年まで使われなかった技術は果たして全人類にとって幸か不幸か。それは神のみぞ知る。
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燈色竜児とオムロ・ビガ・コンダは今年22歳になる。彼らの年齢ならば普通、大学部に所属しているのだが。彼らは優秀だったために、成人部に飛び級している。
平和交流学園を卒業するには満30歳にならないと卒業試験を受けられない。これは、どれだけ飛び級しても絶対に覆らない物である。地球の教育機関は平和交流学園しかない。つまり、現状満30歳未満で学生を抜け出したい場合、月の教育機関へ編入して然るべき教育を受けた後に卒業するしかないのである。逆に、長く学生で有りたい場合や更に学問を学びたい場合、月から平和交流学園へ編入する場合がある。
それが、アマシキ兄妹である。シュウイチ・L・アマシキは今年18歳。サナ・L・アマシキは今年16歳。2人は平和交流学園で言えば高等部に所属しているはずの人間である。だが、2人はとても優秀であった。実のところ2人は最年少で高等部、大学部を飛び級し、成人部へ編入した人物でもあった。
アカツキ・エンドウはその4人よりも遥かに優秀である。彼女は今年28歳になるが、その見た目は中学生にか見えない。だが、よくよく見れば、豊満な身体をしているし、会話をしてみればとても上品で大人だ。
そんな彼女が、飛び級していない理由は1つ。遺跡ハンターの仕事に重きを置き、必要最低限の授業しか受けてこなかったからだ。遺跡は、人工島から遥かに離れた大陸、それも大陸奥深くに多く存在しており、そこに辿り着くまでの道のりはとても険しい。そして何よりも、辿り着いた先の遺跡にはとても強いモンスターが棲みついている。地球政府から大陸開拓の使命を帯びている軍隊ですら遺跡は後回しにしている程だ。
彼女自身、自分の実力は高いと自負しているものの、それでも最低4人は遺跡発掘のパーティーに必要としている。遺跡発掘は、当たれば報酬は大きいが、反面危険が大きく外れもあるのだ。外れとは、遺跡にロストテクノロジーがない、遺跡に文明的価値がないなどである。
今まで、彼女の遺跡発掘……遺跡ハンターの仕事は1年に良くて2回、悪くて1回しか行えなかった。その理由は、危険度が高いため人員が集まらない。何より、移動費にある。大陸奥深くへ行くには、専用の車が必要だ。そして最悪は徒歩。車を用意する資金がない。危険度が高いため人員が集まらない。その2つの理由で彼女の遺跡ハンティングは滞っていた。
「そして、何より、報酬の支払い。外れだったら大赤字。借金しても払えないわ。最悪この刀売るしかないわね」
「フリーランスの遺跡ハンターを見つけるのも大変だ。それに学業があるから大陸へ渡ると考えると夏と冬の長期休暇しか働けない、と」
「そうよ。で、どうなの?」
俺は、アカツキさんの面接を行っていた。オムロは眉目秀麗でロリ巨乳年上女性を即採用だと言っていたが、面接は必要、本当はオムロが面接するはずだったが、実年齢をオムロには知られたくないとかで俺が面接してる。アカツキさんは見る目があるね。あいつは嘘が下手だが口は固い。しかし馬鹿だからどこかで口を滑らすかもしれん、と感じたのだろう。
「アマシキ兄妹みたいにアルバイトじゃなくて、社員応募の理由はなんですか?」
アマシキ兄妹は、以前俺達が会社やってるって話の時にアルバイトで参加したいと言ってきたので、採用した。技術屋は欲しかったし落とす理由も無かった。
「考古学はお金がいるのよ。遺跡ハンターは儲けは他ハンター職業に比べると当たれば大きい。けど、外れると大赤字。で、ヒーロー会社は社員だと赤字を何とかしてくれるんでしょ?」
「そうですね。アルバイトを使う時は安全で確実に儲かる仕事しかしませんからね。万が一失敗しても会社のプール金でアルバイト料は払えます。そして、今のところ社員、アルバイトで軽い怪我はありましたが、病院に運ばれるような大怪我はないのが良い実績です」
遺跡発掘となると、病院に運ばれる大怪我を覚悟しなければならないだろうなぁ。今の御時世、大怪我くらいじゃ簡単に死なないけど、その分治療費は馬鹿高い。
「あと仕事内容を社員の意見を取り入れるってところも社員に応募した理由の1つね。私は遺跡発掘の仕事がしたいわ」
オムロは強いモンスターと戦いてぇしか言わないからこういう意見は貴重だ。あれ? 遺跡には強いモンスターがいる。オムロは強いモンスターと戦いたい。需要と供給が一致しちゃってますな。俺はどちらかと言うと、余り強いモンスターとは戦いたくない。だって怖いし。
「まず、伝えておくべきことを伝えます。アカツキ・エンドウさんは採用です」
ホッとしたような顔が可愛すぎる。妹がいたらこんな妹が欲しい。年上だけど。
「次に、まず遺跡発掘……遺跡ハンティングの仕事は行うとしたら夏、冬の長期休暇になると思いますが、現在目ぼしい遺跡発掘場所はありますか?」
「昔の呼び名でオーストラリア大陸。今の呼び名だと、南方第一大陸に飛行機と飛行機データが眠っているという噂があるわ」
「飛行機? 確か空を飛ぶ機械でしたよね? 航空技術は月人類の独占市場。地球産の航空技術が発見できれば買いたいと言う企業は沢山出てくるでしょうね」
今の地球じゃ飛行機なんてないからなぁ。月にはある。そして、昔地球を飛び回っていた飛行機を動画で見たことがある。けど、今の地球では飛行機と航空技術は失われている。月の飛行機と航空技術を持ち込んでも、機材運搬と重力調整に時間が掛かる。そもそも、飛行機と航空技術はあれば助かるけど早急にはいらないって感じだ。だが、あれば絶対に欲しがる。
「悲しい事に、あくまでも噂、よ。証拠はないわ。なんだったら軍隊が遺跡見つけたけどモンスターが強くて見捨てたって遺跡にする? なんでも巨大なトカゲに羽生やして、毒を吐いてくるって話だけど?」
「……そこには何が眠っているか分かりますか? あと場所は?」
「東第一大陸の西側。西域南道辺りね。昔シルクロードとか言われてた場所の近くよ。眠っているのはロストテクノロジー関係の何かじゃないかって話ね」
東第一大陸は大型モンスターが多い。てか、聞く限りヤバイモンスターだな。毒は内容によっては即死も有り得る。
「まあ、要調査ですかね。週末にハンターの仕事があるのでそこで訓練がてらに一度パーティー組んで戦ってみないとどうにも……」
「あの兄妹含めて? それとも3人で?」
「兄妹含めて5人で行います。車は今のじゃ大陸行くには性能が足りないので、サナに改造してもらうか新しいの購入するか相談もしておきたいので」
車内で寝泊まりも考えると軍用のキャンピングカーじゃないと大陸移動は難しい。
「あら、思った以上に前向きで嬉しいわ。ありがとう」
……何時の時代でも、男は女の笑顔に弱い。