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第2話 平和交流学園の授業風景


 ◆


 平和交流学園の授業は、自分の好きな項目を選んで受ける選択制授業だ。一方で、共通授業がある。それは飛び級クラスでも同じだ。


「歴史授業は共通授業だ。何故なら、歴史を学ばなければ過去の過ちを再び起こしてしまうからだ。遥か昔にも歴史の授業はあった。しかし、人類は戦争をやめなかった。それは何故か? そう、この沈黙が過去の人類は何故戦争をやめないのか、の答えだ」

「すると現在と未来には何故戦争をやめないのか、の答えがあるんですか?」


 アルベルト先生の歴史授業は人気がある。それは当然だ。数百年前の彼の先祖が遺した言葉が現在まで残っているからだ。


「現在にはある。未来は君達次第だ」


 現在、何故戦争が起こらないのか。

 アルベルト先生は答える。一人ひとりに語りかけるように、優しい父親のように。


「まず、現在の我々には敵がいる。それはモンスターと呼ばれる生物の変異体達の事だ。地球上は彼らに支配されている。その支配を覆す為に人類は、戦っている。その次に、人類の総人口だ。遥か昔は100億人はいた人類が現在では地球上に約1億人。月に約10億人しかいない。この人口数で戦争なんぞすれば人類は崩壊する。何故なら、戦争に必要な物資が圧倒的に不足しているからだ。今戦争が起きれば確実に地球は食糧危機になる。そして、月政府から見放され地球上の人類は餓死するだろう。地球での食糧配給は現在では月に相当頼りきっているからな。勘の良い生徒は気付いているだろう。そう、現在地球では戦争を起こしたくても起こせない状況にある。そしてこの状況は少なくとも数十年、もしくは数百年は続く」


 先生は一呼吸置いて、続けた。


「そして、現在の地球政府と月政府は互いに未来永劫戦争を起こさないと公表している。戦争防止法案も考えられているが、未来の事は誰にも分からない」


 空恐ろしいものを感じた。俺は、戦争を起こせない状況にある現在でも超能力を使えば戦争を起こせてしまう。たった一言。戦争を起こせと命令すれば、きっと起こる。


「超能力者の諸君。君らの中に戦争を起こせてしまう力を持つ者もいるだろう。だが、心配はない。月人類から学ぶが良い。彼らはこの800年間戦争を起こしていない。彼らは戦争を起こせる超能力は無いが、戦争で使える技術があった。なのに、戦争を起こしていない。彼らの技術は惑星開拓に使われている。兵器も作るが、基本彼らは自分の技術力向上に重きをおいている。自分自身が何が出来て何が出来ないかを完璧に把握しているのだよ。つまり、超能力者の諸君も自分自身が何が出来て、何が出来ないかを完璧に把握し、超能力に使われるのでなく、超能力を使いこなすと心構えを持てば、きっと全人類の役に立つ人物に成れるだろう」


 ……使いこなす、か。俺は、ワンオーダーを使いこなせているのだろうか。


 ◆


「皆様、はじめまして。一条姫(いちじょう ひめ)と申します。道徳の時間です。道徳は歴史の授業と同じく共通授業です。飛び級クラスで、しかも自分のような年齢で道徳が必要か? と思われる生徒もいるでしょう。私は必要だと思います」


 なんだろう、この大和撫子は。たぶん俺と同じく日本人家系の人間はそう思っただろう。


「私は超能力者です。能力名はサトリ。能力内容は人の心を読む、です。ああ、大丈夫ですよ。使う時は使うと言いますから。では使いますね」


 剛気! 意外にも剛の人か? 絹のような黒髪ロングで着物。狙ってるとしか思えん。それに一条ってめっちゃ名家じゃん。爺が一条家に出入りしてたような記憶があるが、俺は一条家に行ったこと無いはず。たぶん。


「あら、燈色竜児君は私と会った事ありますよ? 貴方が2歳くらいの時に。20年ぶりでしょうか。大きくなりましたね」


 教室がざわってなった。アレ? 先生いくつだ? 学生じゃないから30歳過ぎだろうが、ががががが。


「女性の年齢を探るのは禁止です。ああ、忘れてましたね。私の能力は人の心を読むことと、人の心を乱すことが出来ますので、不埒な事を考える子は、脳みそ壊しますからね?」


 あれ? 数秒間の記憶がない。先生と俺は会ったことあるところまでは覚えてる。ん? 生徒、特に男が白目だな。なんかあったんだろう。


「……道徳は大切です。分かりますね?」

「ハイ!」


 なんか皆、良い返事だな。


「では授業を続けます。多かれ少なかれ、生徒の皆様は力を持っています。それは、超能力者であってもそうじゃない人も、力があります。非超能力者でも退廃前の人類に比べれば遥かに力があり、寿命も長くなっています。その理由はヒトクローン技術の確立による遺伝子工学の発展と、ヒトクローン技術から生まれた人間と、普通に生まれた人間とが結婚して子供ができます。その子供の多くが超能力者でしたと、習ったと思いますが、超能力者が無くともヒトクローン技術で生まれた人間は、軍事運用される予定だったので、普通の人間よりも強くできています。そうですね。退廃前の人類は石ころを砕く事は出来なかった。しかし生徒の皆様は簡単にできるでしょ? ええ、女の子でも全力を出せばできますね。恥ずかしがることではありません。それが進化であり、力を持っているという話になります」


 ヒトクローン技術と超人化計画の話か。でも現在じゃどちらも失ったけど、生まれてくる子供が既に超人化してる件。でも瞬間的に出せる出力が大きくなっただけで、それ以外は退廃前とあんまり変わらないと言ってたような。あと月人類は普通の人類なはず。ただ、技術力が俺たちよりも圧倒的に高いが。それが力か。


「……何人か同じ事を考えているみたいなのでお答えします。血筋と超能力の因果関係についてですが。現在の科学的証明では血筋と超能力は関係ないと証明されています。しかし、名家の血筋に強い超能力が宿るというのは確かにあります。私も名家出身で、超能力も割りと強いですが……一般的な血筋で一般的な家系でも強い超能力が宿る事があります。その為に、名家の血筋のみが強い超能力を宿すという理由に至っていません。超能力者家系における超能力の遺伝はありませんが、似たような能力に偏るという結果は出ています。そしてそれもまた科学的証明はなされていません。子が親に似る。それは良い事なのか、悪い事なのか。今日は、その辺りを授業でお話し合いをしましょうね」


 先生の授業を皆、真剣に聞いた。他所事考えてると注意されるってどんだけだよ。


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