第1話 平和交流学園の日常
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人工島、平和交流学園。総面積、約1800000km2。総人口約500万人。全人類の平和交流の為に設立された巨大学園である。過去の歴史で、人類は大きく3つに分かれた。月に移住した月人類。ヒトクローン技術により、生まれ育ち、代を重ねたヒトクローンの新人類。そして、人類はヒトクローン新人類から旧人類と呼ばれていた。
2250年頃にヒトクローン同士の間に生まれた子供達が超能力を持つと確認され、ヒトクローンの子供達を軍事に使う計画が発動されたのが、恐らく全ての元凶だろう。その証拠は歴史が証明している。10年後の2260年初頭、ヒトクローン達が新人類宣言をする。その数十年後に、旧新人類混合連合軍と、新人類軍の間で核兵器を使用した全面核戦争が勃発。それにより、多くの文明が滅亡した。
それから数百年後。長い月日を経て、3つの人類は同じ学園で共存している。現在では、人類が月人類、旧人類、新人類の3つに分かれた事実は過去の物となっている。
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銀色に揺らめく――月のようだと思わせる銀髪。太陽に照らされ月明かりを放つ銀光。光の具合で白銀にも見える美しい髪、それに負けない整った顔立ちと美しい肢体。チャームポイントは黒い瞳と泣き黒子と言い張るサナ・L・アマシキはその美貌を全て台無しにする機械オタクだった。
「銃火器に求めるのは圧倒的な破壊力よ。モンスター相手にちまちまやってちゃあ、いけないわ。一撃必殺が望ましいわ!」
「いや、だからって部品をトラックに積み込んで現地で組み上げなきゃいけない兵器なんて使えねーし。トラックが一台でも現地に到着出来なかったらゴミになるぞ」
「私だったらその場で新しい兵器を作り出すわよ」
「いやいや。それが出来るのはお前だけだろ」
「私だけのオンリーワン。ワンオフ兵器ね。ロマンじゃん」
「モンスター産業は確かに数百年は持つだろうけど、ロマンに金をだす企業はねーぞ」
「うるさいわよ、ハッキング兄貴」
「一般論だろ、機械オタク妹」
美しいと言えば、サナ・L・アマシキの実兄であるシュウイチ・L・アマシキも男とは思えない美貌を持っている。どちらも日系月人類の技術屋家系に生まれ育った。この兄妹のせいで月人類の生徒は変な目で視られているが。月人類達は気にしてない。彼らは自分の世界を持っているし、自分の腕を信じている生粋の技術屋なのだ。
ネット内では口さえ開かなければ――。というスレッドは沢山あったのにいつの間にか無くなっていた。シュウイチ・L・アマシキは情報工学科所属の天才ハッカー。学園内でのネットは無法地帯化しているが、ストレスの捌け口になっているので教師は黙認している。無法地帯化しているが、誰がどの書き込みをしているかなどは学園のログに全て残っているので、裏で何を書き込んでいるのかを全て知られている。ある意味ネット性格診断の結果は成績表の人物評価に加味される。そして、書き込みログから誰が何を書いている、それを性格診断として人物評価に加味している、これらの事実は公表している。それでも無法地帯化しているが。天才ハッカーはそのログすらも残さずに自分に関わるスレッドを消し去ったのだ。その事実は暗黙の了解的に知られている。公然の秘密というやつだ。証拠がないのでどうにも出来ないらしい。
「話は変わるが、サナ。俺達と同じく飛び級クラスに進学してきた奴らはどうだ?」
「殆どパッとしない奴らばっか。月人類と違って超能力者がいる学園ってどんなんだろうと思ったけど、遥々月の高等部から飛び級してこの学園に転校してきたけど、交流学園って平和過ぎてねぇ。編入テストでモンスター討伐したけど、ここの学生って殆ど討伐経験なし。ある奴は大抵超能力者よ。私のクラスじゃロリ巨乳のアカツキさんが非戦闘系能力者だけど討伐経験者ね。それ以外は皆未経験者だったわ」
「ふむ。まるで俺が別クラスみたいな言い方だけど同じクラスだ。兄を忘れるな」
「いやよ。で、まあ超能力者の中でオムロって筋肉ダルマと竜児って女男がピカ一ね。オムロと竜児は付き合い長いみたい。受けが――」
「そこまでは聞いてない。そして、本人を目の前に、筋肉ダルマとか女男とか言うな。だから機械以外に優しくないと言われる」
学園テラスでティータイムを優雅に過ごしたかった。1つのテーブルに5人か。まあこのテーブルは6人用だからいいけど。
「ロリ巨乳……フフッ……ロリ……」
「筋肉ダルマか。間違いない」
「女男か。言われ慣れてる」
アカツキさんは嬉しいのか? 笑ってる。よく分からん人だ。オムロは悪口を悪口と分かってない。俺は女男って言われるの慣れてる。男子用制服着てるのに女子かと聞かれるのにも慣れている。身長か? 身長が低いから間違われるのか?!
「アカツキさんは剣術の達人で、モンスター討伐を刀1つでこなす、と? 刀の素材はなんですか?」
サナは興味津々で聞いてた。そこは俺も知りたい。噂じゃレアメタルだとか。
「ん? ウルツァイト窒化ホウ素とロンズデーライトとダイヤを上手い具合に練り合わせて作られた刀よ。戦場で絶対に折れず、曲がらず、刃毀れせずの思想から作られた刀で、何を切っても切れ味も落ちない優れものよ」
それってロストテクノロジーじゃね?
「それって……」
「家宝ね。ギリギリ、ロストテクノロジーの部類かも? ネットで試しにオークションかけたら一瞬で億超えたから取り消したわ」
「あの事件の犯人はアカツキさんか。ロストテクノロジーがネトオクに出てるって話題になってたな。出品時間10分で100億円こして伝説化しているが。出品者の謎の取り消しで虚偽出品ではないかとも言われていたが……事実だったのか」
「犯人って違法行為はしてないわよ」
「そう。全くもってその通りだが、ネット界隈で今でもまた出品しないかってスレが残っていたはず。ネットトレジャーハンターなる職種もできた昨今じゃあ取り消しにいちゃもん付けてくる奴もいるので気をつけた方が良い」
と言いつつもシュウイチはSSNを始めた。
「仮想キーボードデバイスか? なんだってそんな古いもんを……?」
「言語入力と脳波入力は詰まらん。昔ながらのキーボード手打ちはな、とても良いんだ」
「オタクのこだわりって奴よ。兄貴はネットオタクだから、意味のない事に妙なこだわりをするのよ」
「お前だって変わらんだろうが……アカツキさんのネトオク関係は処理しといた」
「処理?」
「さっきアカツキさんが言っていた通り、価値を知りたくてネトオクに出したって事にしといた」
どうやったのかさっぱり分からん。それに過去の出来事を改ざんするってどういうレベルの技術なんだ?
「あれ? 私のネトオクアカウント教えてないのに、出品者からのコメントが改ざんされてるんだけど?」
「ハックしてアカウント抜いた。コメントは当たり障りないのにしたから」
「? 出品した日時ってコメントすると更新されるんじゃ?」
「更新されないようにハックした」
「?? まあよくわからないけど、どうにかなったならいいわ」
「それで、驚愕の事実を知ったのだが、アカツキさんの実年齢は――」
ゴンッと鈍い音がしてシュウイチは、糸の切れた人形の如く崩れ落ちた。
「年齢の事は言うな。殺すぞ」
シュウイチは死んだ。数時間後、目を覚ましたシュウイチは記憶の一部が無くなっていたのだ。あの時、アカツキさんの実年齢を知ったシュウイチは死んだのだ。そういう事にしないと俺達が死ぬと感じた。