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プロローグ
殺風景な部屋に一人の男が立っていた。長らく使われていない部屋だ。六畳ほどのフローリングには薄く埃が積もっている。家具はない。くすんだ白い壁におまけ程度に窓が取り付けられているだけだ。窓からは厚い雲に覆われた冬の空が見て取れた。埃を被ったフローリングからは突き刺すような冷たさが上ってくる。
男は白い息を吐き出すと、徐に懐から封筒を取り出した。宛名も模様もない無機質な白い封筒である。封は既に開いていた。便箋と一緒に何か固い物が入っている。男は便箋の方を取り出し、静かに読み上げた。
「拝啓、水無月紅様――」