部屋
「……どうしたの美鈴」
「お前、何か、変じゃないか?」
優子はこの部屋を取り囲む異質な雰囲気から出たくて仕方が無く、出る事ばかり考えていた。
「……」
「美鈴、何とかいいなさいよ」
愛もこの部屋から出たいと思っているのか、語気が強くなっている。
「……えるの」
消え入るような声で美鈴が何かを言ったが、三人には聞きとれずもう一度、愛が口を開いた。
「もう一度言って。聞こえない」
「聞こえるのよ! ずっと私の部屋で歌が。その声が段々と増えてるのよ!」
さっきの消え入る声では無く、叫ぶような声で話し出した美鈴に慄き、優子は驚いて手を
正座していた体勢から、後ろに着いてしまった。
「歌なんて聞こえないぞ」
「優子、あんた何か聞こえる?」
長い髪が揺れ、大きな真っ直ぐな眼差しを優子に向け、愛が話を振って来た。
「あ、えっと……何も聞こえない」
「私も」
「何言ってるの……ずっと聞こえてるよ。合唱みたいに! 」
「何の歌だよ」
「……」
「何の歌かって聞いてんだよ」
透は何かに背を突かれたように美鈴に怒鳴った。
「カゴメの歌だよ」
三人の時間が一瞬止まった。呼吸音も、服が擦れる音も無くなったかの様に部屋が氷の様な冷やりとした空気が部屋を纏った。
「馬鹿馬鹿しい。皆、帰ろ」
愛が二人を促し一番に立ちあがると、優子も透もそれに続いて部屋を出た。
階段を下りきったところで美鈴の母親が、階段の足音で気付いたのか、玄関まで見送りに来てくれた。
「あら、もう帰るの。今日は早いのね。明日は学校に行かせるから今日は」
「ぎゃあぁぁーーーーーっ!」
美鈴の母親が話している定かに、今さっきまでいた二階の美鈴の部屋から、ガラスが割れる様な音と
美鈴の声とは思えないような、恐怖と苦痛を伴った様な声が鳴り響き、
母親は顔色を変えて娘の名前を呼びながら駆けがって行く。
優子達三人も、いつもと違った美鈴の声に引き寄せられるように階段を掛け上がった。
部屋の前では母親が必死に扉を開けようとドアノブを何度も回し押している。
「美鈴! どうしたの! 開けなさい!」
「おばさん、中から鍵が掛かってる」
「何言ってるの! 美鈴の部屋の戸には鍵なんてないのよ!」
戸を必死に開けようと体を使い何度も押しているが、一向に開く気配が無い。
戸はピクリとも動かず、そこにはめ込まれているようだった。
(鍵が無いのに、どうして開かないの? 何にかが押さえているから? 誰が?)
優子は自分の考えに無意識に出てきた「何かが」という言葉が恐ろしいように思えて、
頭を左右にふり、それを吹き消す様に美鈴の母親がしている事と同じ事を、戸に向かって始めた。
しかしそれも直ぐに手が止まった。
なぜなら部屋の中から、うめき声が聞こえてきたからだ。
だが優子が止めると、今度は透と愛が叩き始めた。
どれくらいたっただろうか。多分そんなには時間が経過してはいないが、
三十分、一時間と感じられた時間だった。