背後
秋に近づいている空から光る太陽が、優子の影を長細く映し出しているだけで、誰もいない。
電柱が数メートル先にはあるが自分の影を見て優子は、隠れていれば影が自分と同じように出ているはず。
もう一度確認するが影は無い。
一筋の息をお腹の底から吐きだすと、先程同じ歩調で歩きだした。
だが、優子の歩調に合わせて人が歩いている。優子の足音だけでは無く、音が二重に聞こえてくる。
少し早めに歩くが、その足音も同じ速さで追いかけてくる。
怖くなった優子は思いっきり十メートルほど走り、立ち止まるとゆっくりと自分の履いている水色の靴へ目線を移し、グレーのコンクリートへと少しずつ後ろへ向く。
向きたくないのに、確認したいという好奇心が勝ったのかもしれない。
心臓が耳の横でドクドクと鼓膜をゆらし、呼吸を荒くしながらゆっくり、ゆっくりと首を回した。
首の回転がこれ以上いかないと言う所で、グレーのコンクリートの上から来た道を振り返ったやはり誰もいない。
気にし過ぎているいのだろうか。だが、何を気にしているのかがハッキリと自分でも分からず、
それがまた不安を煽っている。でも空は明るいのに優子の背後だけが不気味な空気がある。
気のせいだと頭を振りながら優子は、今度は全速力で帰るべき家へと走った。
家に着くなり靴を脱ぎ捨て自分の部屋のベッドに潜り込んだ。下からは、
「優子、帰ったの? 優子?」
帰って来ない返事を不審に思ったのか、母親が優子の部屋に入って来ると、
「どうしたの? 具合でも悪いの」
「……」
「優子」
「何でもない」
「そう……あそうそう優子。おばあちゃんが明日から来るわよ。おばあちゃん優子に会えるのを楽しみにしてるみたい。優子もおばあちゃん好きだもんね」
「……」
「……晩御飯になったら呼ぶから、その時は下りてらっしゃい」
布団越しに聞こえる母親の声は、友達二人をなくした娘をいたわる優しい声だった。
母親に言いよう無い不安、人ではない何かにつけられているような事を言うべきか迷ったが、
何と説明すればいいのか分からず言う事が出来なかった。
そのまま布団を頭から被った優子は暗闇の中、分からない緊張で疲れたのか、いつの間にか眠ってしまっていた。