西洋館の怪
夏夜のひんやりとした静けさと、忍び寄る恐怖を描いたホラーショートストーリーです。
月明かりのない夜、使われていないはずの洋館から響く不穏な音。静寂を切り裂く怪異の恐怖を、ぜひ音の臨場感と共にお楽しみください。
セミの鳴き声が途絶えた真夏の夜、僕たちは町の外れに立つ洋館を目指していた。噂では、月が出ない夜、誰もいない館から「ある音」が聞こえてくるという。
鬱蒼とした森を抜けると、闇の中に朽ちた赤煉瓦の建物が浮かび上がった。鉄門をくぐった瞬間、肌を刺すような冷気が立ち込める。懐中電灯の光が照らす重厚な扉の前に立ち、僕らは息をのんだ。
「……ねえ、もう帰ろうよ」
友人が震える声で呟いたその時、館の奥から音が響いた。
――ギギギ、ギギギ……
それは古い車輪が軋むような、けれどどこか生々しい肉擦れに似た音だった。壁を抜け、耳元へと一直線に近づいてくる。真夏のはずなのに、全身の血が凍りつく感覚に足が竦む。
逃げ出そうと振り向いた僕たちの背後で、今度は静かな囁き声が重なった。
「見つけた」
音はもう、僕たちのすぐ耳元で鳴っていた。
【了】
お読みいただきありがとうございました。
真夏の夜に感じる「理由のない冷気」と、静寂の中に響く「音」の生々しさを意識して執筆しました。
暗闇の中で耳を澄ませた時、もしあなたの部屋のすぐ外から小さな音が聞こえてきたら……どうぞ後ろを振り返らないよう、お気をつけください。




