【アリアの絵画】
はじめまして。
降野椛葉と申します。
気まぐれで読切・短編小説を書いていこうと思うのでよろしくお願いします。
初作として【アリアの絵画】というのを連載します。
気に入っていただければ幸いです。
〈アリアの絵画〉
ペンキが跳ね、血が飛び散るように散る。
王都から少し離れた集落の古小屋を
自らのアトリエに改築し、絵を描いていた。
「ーーー!」
筆が走る。
「ーーア!」
筆が走る。
「ーリア!」
筆が走る。
「アリア!!」
筆が止まる。
「アリア!いつまで描いてるのよ!」
「あぁ、ごめんお母さん」
私、アリア・アーマネットはしがない画家…だった。
数ヶ月前、聖都で行われた絵画展覧会で
私は出展予定の絵画をすっかり出し忘れていた。
その展覧会は王族や貴族が鑑賞する国家規模のもので、
絵画を出し忘れた私は画家業で食い繋いでいた
聖都付近の家も追い出され、今は実家で暮らしている無職だ。
今はアトリエで絵を描きながら新しい仕事を探している。
私は食卓へ歩き、椅子を引いて座った。
「アリア、いつになったら仕事が見つかるのよ」
お母さんがビーフシチューを掬いながら言った。
「いつかは見つかるよ」
私はスプーンを持ち直し言った。
「はぁ」とお母さんは溜め息を吐き、ビーフシチューを食べ進めた。
(仕事仕事って…そんな簡単に見つからないよ)
ビーフシチューに映る濁った私の顔を見つめた。
この上なく惨めに見え、いっそのこと罪を犯して
処刑台で世を発つ方が人のためになるだろうという思考が頭をよぎった。
ただ、そんな淡い思考さえも人間すぐどうでも良くなる。
本当に消えたいだなんて思っても行動に移せる人はほんの数ミリ程度だろう。
という間にビーフシチューを完食し、皿を片した。
皿を片したのち、私は家を飛び出しアトリエへ帰った。
その時だった。
私が重い足取りで歩いていると郵便局から手紙が届いていた。
手紙に付いている赤いシーリングスタンプを剥がし、中身を見た。
そこには達筆な字で、
「親愛なるアリア画伯。此度は絵の依頼をしたく存じます。
次週にある我が国の展覧会で其方の国と共同の絵画の展示を行う故、
その絵画をアリア画伯にお描き願いたいのです。
絵のテーマは『アネモネ』と呼ばれる花です。
期限は次週の展覧会前日×日までに、
ジェマーレ王国の王都にある展覧会場までお届け願います。
展覧会責任者メラン・モーティ」
と書かれている。
(ジェマーレ王国って、本当に?)
ジェマーレ王国とは私が住んでいる国の隣の隣の国である。
また、私が住んでいる国は縦に長い半島で、南に私たちの国。
北にジェマーレ王国があって、その間に教皇領という宗教が
自治している国家がある。
(どうやって持って行けと…)
生憎、現在ジェマーレ王国と教皇領は戦争中で、教皇領からジェマーレ王国へ
渡るなんて芸当は不可能に近い。
そして、おそらくだが今回の展覧会でジェマーレ王国は私たちの国と
同盟関係を結んで教皇領を挟み討ちにするのであろう。
国家の展覧会となると報酬金は絶対弾むはず。
今、職がない私にとってこの依頼は受けないほかない。
私は駆け足でアトリエへ戻ってパレットを持ち、描き始めた。
「ここの輪郭はこうした方が特徴が出るな。
あ、ここにデイジーも描けば平和も象徴して国家間の
展覧会では良い企画になりそう。
なら構図をこんな風にして…」
私は思うがままに絵を描き続けた。
気がつけば辺りは暗く、夜が訪れていた。
月光が私に飛び散ったペンキを照らしていた。
「アリア!また絵描いてたの!?仕事は!?」
母が食器を並べながら言った。
そう言われた私はニヤけながら、
「そんなのとっくの昔に得ているよ」
と言い夜ご飯のラザニアを一瞬で平らげ、アトリエへ戻った。
筆を走らせ、走らせ、走らせた。
そして時が経ち、展覧会前日。
私は完成した堂々たる絵を筒に入れて、家を出た。
家を出た、が肝心のジェマーレ王国までの行き方を考えていなかった。
思考を巡らせ、私は考えた。
海路があるが私に代金を払える銭は無い。
辺りを見渡していると、向いの家に馬が居た。
(あれだ!)
私は向いの家のおじさんを訪ねた。
「おじさん!」
「おぉアリアか。どうした?」
「馬を借りたいんだけど、良い?」
「あぁ、良いぞ。それにしても、何処に行くんだ?王都か?」
「うん。王都は王都でも、ジェマーレ王国のね!」
「ジェマーレ王国か…ジェマーレ…!?アリア、ジェマーレに行くのか!?」
「大仕事だからね。じゃあ!」
「あ、おい!」
私は馬に乗って駆け出した。
小さい頃からおじさんの馬を借りて乗馬術を習っていたから操ることはできる。
私は馬に乗り、広大な草原を駆け抜けていった。
だが、移動手段は手に入れたものの教皇領を渡る術を考えていない。
教皇領は戦時中のため国境警備隊が私たちの国の境にも置かれている。
一般の民なんて渡らせないだろう。
あっという間に国境沿いの川にたどり着いた。
(ん?警備隊居ない?)
奇跡的に川の橋に警備隊が居なかった。
(チャンス!)
私は馬を走らせ、国境の橋を渡った。
(このまんま北上していけばジェマーレ王国だけど、
このまま真っ直ぐ行くと教皇領の聖都に突っ込んじゃうな)
すると向いから大軍の騎馬隊が走ってくるのが見えた。
(やばい!)
私は咄嗟に馬を山間部へ走らせた。
(!この山間部を走って行けばジェマーレ王国との国境にいける!)
教皇領の軍がこの細い山間部を通らないのは見て取れる。
明らかに整備が行き届いていないためだ。
私は無我夢中で馬と共に駆け抜けた。
全ては平和…と金のため。
私は描いた絵の中での最高傑作を握り締め、駆けた。
辺りが暮れそうになった時、やっと国境の関所が見えた。
(この手紙を見せれば通れるよね!)
私はポッケに忍ばせていた手紙を取り出し中身を確認した。
(これで億万長者も夢じゃないよね)
手紙をよく確認していると剥がしたはずの
赤いシーリングスタンプが押されていた。
触ってみるとどうやら押されて間もないのか液状だった。
いや、シーリングスタンプは押された時にすぐ乾くはず。
じゃあこれは一体…
少し気を休め考えようとすると、下腹部が強い痛みを放っていた。
下腹部を見るとそこからは赤く染まった剣と、血が流れていた。
「なん…で…」
後ろを力一杯に振り向くと騎馬隊の兵が鉄剣で私の下腹部を刺していた。
「教皇様、侵入した者はこちらに」
兵が私を指すと、後ろから派閥な服を纏ったおそらく教皇が現れた。
「なんだ。我が国の国境を越えそれを騎馬隊が見失ったと言うのだから
どんな強者かと思えばただの小娘ではないか。さっさと殺せ」
「はっ」
そう言うと同時に私はもう一回刺され、その剣を抜かれたのち落馬した。
もうなんの力も入らない。
「教皇様、この者こんな筒を持っていますが」
「寄越せ」
教皇は私が描いた絵を開いて、広げ見た。
「これは花か。おい、この花はなんだ」
と教皇は側近に聞いた。
「ふむ、これはアネモネとデイジーですね。平和という花言葉があります」
「ほう。これを持ってジェマーレとの和平を目論んでいたわけか」
(私もそれは憶測だけどバレてるか…)
意識が薄れ、視界が暗くなってくる。
「この絵をジェマーレへ持って行け」
と教皇は側近に言う。
「!教皇様良いのですか?これを持っていけば…」
(持っていってくれるなら…)
と側近は言い、私も思った。
「はっはっはっは!」
教皇は笑い出し、こう言った。
「名義は私に決まっているだろうが。この絵をジェマーレに渡し和平に持ち込め」
(は…?ふざけんなよ…)
私は草の根を掴み、もがいた。
「わかりました。それで、この者の後始末はどうされますか」
「ん?そんなのそこらへんで燃やしとけ」
「はっ」
(ふざけ…る…な…私の…絵…なの…に…)
私、アリア・アーマネットは齢二十一で世を去った。
死後、アリアが描いた絵は教皇名義で展覧会に送られ、
ジェマーレ王国は絵を非常に気に入り教皇領との和平を結んだ。
展覧会も無事開かれ、アリアの絵画は大目玉として教皇領とジェマーレ王国の平和の証となった。
アリアに依頼を頼んだ展覧会責任者のメラン・モーティも
その絵画がアリアのものだとは思わなかった。
なぜなら、メラン・モーティがアリアに依頼した絵は『アネモネ』で、
アリアが描いた絵は『アネモネとデイジー』だからである。
結果的にアリアの絵画は平和をもたらした。
だが、教皇領とジェマーレ王国が同盟を結んでしまい、のちにアリアが
住んでいた王国は教皇領とジェマーレ王国の同盟軍によって滅亡してしまう。
結果的にアリアの絵画は平和と崩壊を催してしまった。
儚い恋のように繋いでしまったのだ。
アリアのアトリエは軍によって破壊され、
パレットのペンキはアリアの血のように飛び散った。
〈アリアの絵画ー終わりー〉
アリアが描いた絵画は、結果として『平和』と『崩壊』を催しました。
どちらも国家間によるものです。
アリアの絵画は世のため人のためとなりましたが、
果たしてこれは本当に『必要な犠牲』を生めたのでしょうか?
良ければ今一度、必要なものを考えてみてください。




