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滅びの魔女は、今日もおにぎりを頬張る  作者: バネ屋
第十四章 生者の責任
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#96 言葉の力と屁理屈と意地と誇り


 ここからが第二関門。

 出席者全員を認めさせなくてはいけない。

 国語教師としての言葉の力。

 文系インドア女子の屁理屈。

 そして、笹錦の者としての意地と誇り。

 私が持つものを総動員して、挑むしかありません。


「いや、笹錦先生だってケガして復帰したばかりだし、まだ1年目で経験不足じゃないですか」


 真っ先に反対したのは武田学園長だ。


「ケガは軽傷でしたので、ほぼ完治しています。経験を重要視なさるのは分かりますが、1年目から担任を任されている教職員は、何人もいらっしゃいましたよね?」


「確かにそうですが・・・」


 物事を表面でしか見ていないヒトの言う言葉には、なんの説得力もありませんよ。


「笹錦先生は、いつも定時になったら帰ってしまうから、やる気がないイメージあるんだよなぁ」


 揚げ足を取るような意見を言うのは、3年の学年主任である熊倉先生だ。


「やるべき業務は全て完遂させて定時に上がることに、問題があるとは思いません。それとも熊倉先生は、日中ダラダラと仕事して、定時になっても終わらせないで残業ばかりする教師のが、やる気があって有能と判断されているのですか?その考え方こそ改めるべきかと思います」


「そ、そんなことまでは言ってない!」


「では、残業実績は担任代行の選出基準に加味しないということで、よろしいですか?」


「くっ・・・そうですね」


 その程度の揚げ足では、私を黙らせることはできませんよ。


「でも、色々理屈こねてるけど、笹錦先生だって女性だし、しょせん結婚するまでの腰掛け程度にしか考えていないんでしょ?」


 恥ずかしげもなく女性蔑視するような意見を言うのは、1年の学年主任である木田先生だ。


「木田先生のご意見は女性蔑視に聞こえましたが、セクシャルハラスメントと受け取ってよろしいですか?そんなものが許されるのは、未だに前時代的で閉鎖的である教職現場だけですよ?一般企業でそのような発言をすれば一発アウトで、良くて減給処分。下手したら左遷や降格処分ですよ?そろそろ更科学園も世情を鑑みて、コンプライアンスの意識改革に取り組むべきではありませんか?」


「いや、そんなつもりじゃ」


 新米の小娘だと思って舐めてかかるから、返り討ちにあうのですよ。


「まぁまぁ、皆さん落ち着いて。笹錦先生も喧嘩腰にならないで」


 荒れそうな空気をなんとか宥めようとするのは、甘利先生だ。


「ここは話し合いの場だと思いましたが、私の申し出に対して頭ごなしに否定的な意見しか出てきませんので、誤った認識を指摘しているだけです。前向きな意見を下されば、私もそれに合わせて意見を述べます」


「僕にまで噛みつくなよ。僕は担任代行を笹錦先生に任せても良いと思ってるんだよ?」


 こう見えても私は、生徒達から「見た目はお嬢様なのに、屁理屈ばかりで面倒臭い教師」と言われた新米教師。学園上層部相手にダダをこねてでも、担任代行を認めさせる意気込みですからね。


「笹錦先生が仰る通り、皆さん否定的に考えずに、まずは笹錦先生の考えを聞きましょう。担任代行に立候補する理由を聞かせてもらえますか?」


 いつも通りにニコニコと笑顔を浮かべながら、冷静に話を進めようとするのは村上教頭。毛髪に闇を抱えているのは、伊達ではありませんね。


「はい。今の学園内は火災事故の影響が尾をひく中で、教職員も生徒さんたちも気持ちに余裕が無い方ばかりです。特に、ここに居らっしゃる学園長をはじめとした役職のある方々は、生徒だけでなく保護者やマスコミなどの対応もしなくてはいけませんので、猫の手も借りたいのが本音ではないでしょうか?」


「そうですね。正直言いまして、猫どころか犬の手も借りたいくらいですね」


「そのような状況のなかでも、担任も副担任の業務も無い今の私は、更科学園のなかで最も手が空いていると言えます。なら暇な私がやれば皆さんの負担を軽減できると考え、立候補しました」


「なるほど。でもそれは建前じゃないですか?本音は別にあるんじゃないですか?」


 さすが村上教頭。見抜かれているようですね。

 修学旅行の引率を必死に回避しようとした私を、あの手この手で強引に封じ込めただけはありますね。


「本音を話してもよろしいのですか?」


「ええ、聞かせてください」


「では。私は、火災現場で牧田先生に助けていただいたおかげで、今こうして生きています。ですが、牧田先生が意識不明で救助されたと聞いて以来、ずっと後悔と自責の念に囚われていました」


 本音を話すように言われたので、正直に話すことにした。


「私を助けるために瓦礫に足を挟まれて、それでも私に逃げろと言ってくれた牧田先生を置いて逃げたことを、ずっと後悔しています。あの火災現場に、私は自分の誇りまで置いてきてしまったと、悔やんでいます」


「でも、笹錦先生のおかげで生徒は全員無事だったわけですし、先生自身もケガをしていたのに、ホテルの外に出てすぐに消防隊に牧田先生の救助要請をしたと聞いていますよ?そのおかげで、牧田先生の救助は間に合ったんじゃないですか?そうですよね、甘利先生」


「はい。あの時の笹錦先生の判断も、牧田君の判断も、私は間違ってはいなかったと思います。むしろ、自分は学年主任なのに、正しい判断ができていなかったんじゃないかと、今も悩んでいます」


「でしたら、笹錦先生はご自分のできることをしっかりとやった上での結果なのだから、誇りまで置いてきたなんて、気に病む必要も無いと思いますよ」


「皆さん、『笹錦先生のおかげで、みんな助かった』と、私に言うんです。でも、それを言われるたびに、『牧田先生を置いて逃げた私には、そんなことを言ってもらえる資格など無い』と思うのです。それは牧田先生が受けるべき称賛なんです」


「気持ちは分かりますが、それが担任代行を立候補する理由ですか?」


「それだけではありません。今日、あの時に逃げ遅れた6人の生徒と話をしました。自分たちが逃げ遅れたことで、私や牧田先生がケガをしてしまったと、彼らも私と同じように自分たちを責めていました。しかし、国語教師なのに、私には彼らを慰める言葉が見つかりませんでした」


 逃げ遅れた6人の話題が出ると、場の空気が少し緊張するのがわかった。


「ですが、彼らの本音を聞かせてもらい、気づきました。言葉で慰めるのではなく、同じように自責の念を抱えながらも、顔を上げて前を向く姿勢を見せないといけないのだと。私は教師であり、生徒の見本にならなくてはいけないと」


「なるほど。笹錦先生の熱意は分かりました」


「笹錦先生の気持ちは分かりますが、だからと言って、担任代行は重責ですよ?特にいまの2年5組の生徒達は、火災現場を経験した心の傷と、担任である牧田先生のことでも不安を抱えていますから、非常にデリケートな対応を求められますよ?」


「だからこそ、適任じゃないですか?笹錦先生は、生徒の心を掴むのが非常に上手いです。古文の授業を受けている2年の生徒達は、みんな笹錦先生を慕っています。私も最初は、生徒との距離を詰めてうまいこと取り入っているのかな?としか思ってませんでした。ですが、夏期講習のライブ配信授業を見学して、視線を引き寄せるというか、耳を傾けてじっくり聞き入ってしまうような、笹錦先生の天性のカリスマみたいなものを強く感じました」


 普段は厳しい上司の甘利先生ですが、味方になってくれると心強いですね。


「うーん、しかしだね、保護者の対応などもあるからね・・・」


 甘利先生が後押ししてくださっていますが、やはり、火災事故の影響なのか、保護者の対応を気にしてしまう空気は根強いようですね。


 最初に比べれば、かなり風向きはよくなっていますが、まだなにかが足りないのか説得しきれない。

 ここは、新たな一手が必要ですね。







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