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滅びの魔女は、今日もおにぎりを頬張る  作者: バネ屋
第十四章 生者の責任
93/99

#93 6人との対話


 熱が下がり体力が回復すると、軽傷の私は五日で退院することができたので、その足で、野生の体育教師が搬送されている札幌市内の病院へ見舞いに行くことにした。


 母も付き添うと言ってくれたが、断って、一人で向かった。

 本人との面会はできなかったが、お母さまとお話しすることができたので、火災現場での出来事を話し謝罪すると、「あなたが無事だったのなら、息子は本望だと思う。あの子が自分の意思で行動したことだから、あなたが気に病む必要はないのよ」と、私のことを責めるどころか、優しく気遣ってくださった。

 容態に関しては、骨折や火傷などは順調に回復する見込みなのに、意識が戻らず、予断を許さない状況のために、退院どころか転院すらいつになるのか分からないとのことだった。


 飛行機で帰途に着くと、空港から直接ペットホテルへピンフを迎えに行った。

 ピンフは十日ぶりだというのに、相変わらず愛想は無くダルそうにしていたけど、普段と変わらないその態度には、かえって気が休まり癒された。


 翌日には美容院へ行き、焦げて不揃いになった髪を整え、あとは毛ガニなどの荷物を引き取りに不在通知を持って、宅配業者の営業所へも行った。


 そして火災から七日後、退院して二日後には、職場に復帰した。

 七日経っていても学園内は保護者やマスコミの対応に追われ、火災事故の影響が尾を引いており、学園全体が以前のような活気が感じられず、生徒たちからもどこか暗い雰囲気を感じた。


 そんな中でも読書部の三人は、私を心配してくれて朝礼前に職員室にまで会いにきてくれたが、短くなった私の髪を見て、悲しむ表情を見せていた。

 特に遠藤さんと里子さんは、あの時に私が一喝して怒ったことも気にしている様子でしたので、「髪などすぐに伸びます。生徒の命に比べれば、安いものです。この程度のことで悲しむ必要などありませんよ」と元気づけるつもりで声をかけたが、三人とも涙を浮かべて頷いていた。


 学園内では、生徒も職員も皆さんが口を揃えて「笹錦先生のおかげで、みんな助かった」「笹錦先生は、学園を救ったヒーローだ」などと持て囃すのですが、毎回言われるたびに「その言葉は牧田先生に言ってあげてください」と返した。


 古文の授業を再開しても、2年生の生徒たちはどこか覇気が無く、そんな生徒たちになにか言葉をかけるべきだとは思うのに、私自身も覇気が湧いてこないので、どうしたら良いのか分からなかった。


 そんななんとも言えない空気が漂う中、復帰初日のお昼時間に、あの逃げ遅れた6人の男子生徒が私に会いに来たので、他の職員や生徒の前ではお互いに話しづらいと思い、空き教室へ移動して話をすることにした。


「あの時、助けに来てくれて、ありがとうございました」


 あの極限状態を体験しているのだから仕方は無いのでしょうが、6人とも元気が無く項垂れていた。それでもこうして学校へ来ているのだから、彼らなりに立ち直ろうと頑張っているのでしょう。


「生徒を守るのは教師として当然の勤めですので、礼には及びません。ただ私は、皆さんが今回のことを教訓にしてなにかを学んでくだされば、それで満足です」


「学ぶもなにも、人生観、変わりましたよ・・・」


「人生観が?どのように変わりました?ここには他の先生も生徒もいません。ぜひ、本音を聞かせてください。口は堅いので遠慮なく、吐き出してください」


「なんて言うか、今まで楽しいと思ってたことが、全く楽しくなくなったね・・・」

「ゲームとか始めても、すぐにやめちゃうよな」

「テレビでお笑い芸人見てても、全然笑えないんだよね」

「ご飯も美味しくない。焼肉とか前なら食べ尽くす勢いだったのに、今は少し食べたら、もういらないってなるな」


 私も、札幌で購入した毛ガニやイクラなどを受け取っても食欲が湧かず、冷凍庫に入れたきり一度も食べていない。どうやら、火災を体験したあとの倦怠感は、私だけではなく、この子たちも同じようだ。


「火事のあと、みんなそうなんじゃない?」

「俺たちだけじゃ無くて、クラス全体そんな感じだよな」

「2年生全体がそうかもだね」

「みんな、真乃先生がケガして救急車で運ばれるの見てるし、マッキーが意識不明って聞くと、元気に振舞えないって」


「やっぱ、それって俺たちが逃げ遅れたせいだよな・・・」

「真乃先生とマッキーがケガしたの、俺たちのせいなんだよな」


 この子たちも、竹林で話を聞いた時の里子さんと同じだ。

 後悔と自責の念に囚われている。


 そしてそれは、今の私も同じ。

 野生の体育教師を置いて逃げた自分を、責め続けている。

 そんな私が生徒に、どのような言葉を伝えれば。

 里子さんの時のように真剣に考えても、あの時のようには言葉が出てこない。


 船酔いで苦しんでいる時ですら、下らない屁理屈をあれほど吐き出せたのに。

 国語教師が言葉で伝えられないだなんて、私は無力だ。


 6人の話を聞きながら自分の無力さに苛まれていると、ふと三田君の言葉に耳が留まった。


「やっぱ、元気ない真乃先生の姿見るのが、一番つらい」


「私?」


「うん。だって、真乃先生って、いつも背筋伸ばしてキリっとしたお嬢さまって感じなのに、授業とかだと活き活きしてて楽しそうだと思ったら、視察に来てた理事長追い出して泣かせちゃうし」

「お昼の食堂で理事長とか学園長と話してる時も、微笑み浮かべながらボケたり毒舌ぶちこむから、学園長怒らせて周りで聞いてた生徒みんな爆笑させてるし」

「音痴なのに合唱部で熱唱してたとか、他校のジャージ着て剣道部に道場破りに行ったとか、な?」

「修学旅行のクイズ大会だって、いきなり甘利先生失格にしてさ、俺らみんな大爆笑してたよな」

「4月に来てからフリーダム無双で伝説残しまくってる真乃先生が、今みたいに肩を落として暗い顔してると、俺たちが迷惑かけたせいでって、やっぱつらいですよ」


 皆さん、どうして私のことを「見た目はお嬢様なのに中身は毒舌」だとか「フリーダム無双」などと言うのでしょうか。私はただの文系インドア女子で平凡な国語教師なのに。


 でも、三田君だけではなく他の子からも、次々と私に対するイメージが言葉として出てくるということは、私に自覚がなくとも、それが周りから見えている私の姿なのでしょう。

 ならば、その姿が『私らしさ』と言うのなら、今の私にもできることがあるはず。


「なるほど。では、私が元気な姿を見せれば、君たちも元気を出せますか?」


「え?」


「私が毒舌で学園長を怒らせれば、君たちは笑えますか?」


「いや、学園長に喧嘩売ってほしいわけじゃ」


「私が背筋を伸ばして胸を張れば、君たちも後悔と自責の念に囚われてばかりではなく、背筋を伸ばして顔を上げて、堂々とできますか?」


「そりゃ、真乃先生が元気になってくれたら、嬉しいよなぁ?」

「俺たちも、ウジウジしてたらダメだって思うかな」

「散々迷惑かけたのに、これ以上はもう迷惑かけたくないし」


「わかりました。私も自責の念に囚われていましたが、一旦、それは棚上げしましょう。

 皆さんのおかげで、腹を括りました。こう見えても、文系インドア女子代表の国語教師です。お淑やかにエレガント且つ、笹錦家の長女としての威厳と風格。そしてこの身に宿らせたササニシキ魂を、君たちに見せつけてあげましょう」


「いや、そこまでは」

「ササニシキ魂って」


「だから下を向かずに顔を上げて、しかと見ていてください。明日からの笹錦真乃を」








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