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滅びの魔女は、今日もおにぎりを頬張る  作者: バネ屋
第十四章 生者の責任
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#92 翌日の病室


 札幌市内のホテル火災のニュースは全国的に報道されて、修学旅行で宿泊中だった私立更科学園の名前も取り沙汰された。

 その内容は、『生徒は軽傷数名のみで全員無事で、引率の教職員が意識不明の重体1名と軽傷1名』

 野生の体育教師が身を挺して生徒や同僚の命を守ったことなど、伝わることは無かった。

 ですが、それでよかったと思う。無関係な人々の好奇の目に晒されることは避けるべき。忠雁の誇りをかけた蔵の建築と同じで、彼の勇気と行動は、生徒と私たちだけが知っていればいい。


 野生の体育教師は、救助隊に発見された時にはすでに意識不明で、すぐに札幌市内の総合病院へ救急搬送されたそうですが、まだ意識は戻っていない。


 なのに私は、生きながらえている。


 救急搬送された私は、ケガや火傷自体は軽傷でしたが、体力がないのに無理したせいなのか、それとも極限状態からの反動なのか、翌日の夜に高熱を出して、それから丸二日間眠ってしまい、熱が下がり目を覚ましてからも、しばらくは全身の筋肉痛に悩まされた。


 ◇


 火災のあった翌日、まだ私が眠ってしまう前に、父と母、そして更科理事長と村上教頭、甘利先生が札幌市内の病院まで見舞いに駆け付けてくれた。


 母は、私の焦げてしまった髪を見て、一瞬だけ泣きそうな表情を見せたが、すぐに優しい表情になって、「全て聞きましたよ。教師としての責務を、よくぞ全うしました。あなたは、笹錦の誉れです」と私の髪を撫でながら労ってくれた。

 母のあの表情は、昔、見た記憶があった。

 私が5歳の時に、笹切川で事故から助けてくれたイーペーコーが、翌日に息を引き取った時に、同じ表情で亡骸に語り掛けていた。

 父は終始笑顔で、「真乃が居たからこそ、多くの命が助かった。真乃はやっぱり特別な子だ。今はなにも考えずに、ゆっくり休め」と優しかった。


 そして、そんな両親に、更科理事長と村上教頭に甘利先生は、「大切なお嬢様をこのような危険にさらして、誠に申し訳ございませんでした」と三人揃って土下座して謝罪したが、「真乃は、笹錦の者として、教師として、当然のことをしたまでです。あなた方の謝罪は、真乃ではなく、生徒さんたちのご家族へ向けるべきではありませんか?こんな所で膝をついている暇があるのなら、生徒さんたちの傍でケアに努めるべきです」と、母にいつもの調子でド正論のお説教をされて、かなり落ち込んだ様子を見せていた。


 けど、この時に、甘利先生から火災当時の詳しい状況や生徒たちのことを聞くことができた。

 火の元はやはり2階の厨房だったそうで、あの爆発音も予想通りガスに引火してのものだった。それと、幸いなことに、更科学園以外の宿泊客やホテルの従業員には犠牲者が出ておらず、軽傷が数名のみだったそうだ。


 生徒たちについては、今は火災のあったホテルの近隣の中学校で、体育館を借りて避難をしているそうで、でも、火災の恐怖から不安な様子を見せたり、情緒不安定な生徒が何人も出ており、引率の職員でケアにあたっているとのことだった。


 また、早々に修学旅行の中止は決定したが、帰りの飛行機などの手配に難航して足止め状態になってしまい、その話を聞いた父がその場で「帰りの足、私がなんとかしますよ」と言ってどこかに電話をかけて、30分後には本当に200名が乗れるチャーター便を手配してしまった。

 私がお礼を言うと、父は「笹錦には、昔から貸しがある人がたくさんいるんだよ」と、ニヤリと不敵に笑っていた。 


 そして、甘利先生からは「本当なら、学年主任の私が最後まで残って確認するべきだった。逃げ遅れた6人だって私のクラスの生徒だったのに、外へ出るまで気付けなかった。全て私の責任です」と改めて謝罪をされたけど、「あの場では、学年主任が生徒の避難を先導するべきだと考えたので、私は自分の判断で残って最後の確認をしたのです。甘利先生は1組だけでなく2年生全員を避難させる責任を負う立場でしたので、学年主任として正しい判断だったと思います」と返すと、「ありがとう。本当にすまなかった」と言って、目頭をおさえていた。


 村上教頭からも、逃げ遅れて私に叩き起こされた6人の生徒や父兄が、私のお見舞いを希望していると伝えられたが、それは丁重に断った。


 野生の体育教師の容態は、右足を骨折していたのと、腕や背中などに火傷を負っていたが、検査の結果では脳や呼吸器などにはダメージは無く、意識がないのも恐らく、精神的なショックからではないか、とのことだった。

 両親や理事長たちと会話をしているあいだは、気が紛れたのでまだ良かった。

 でも、野生の体育教師の話は、聞いているあいだずっと、胸が痛くて辛かった。


 理事長たち三人は、この日の内に生徒達と一緒にチャーター便で帰ることになり、父も仕事があるので帰るため、母だけ付き添いで残ってくれた。

 そんな母が、父たちが帰ったあとに、色々な話を聞かせてくれた。


 ホテル火災の一報が入ると、父や母よりも祖父が真っ先に「真乃の元へ行く!」と騒ぎ出し、それを母が「お義父さまが行ったら真乃がゆっくり休めません!見舞いは私たちに任せて、大人しく留守番していてください!」と叱りつけてきたらしい。

 また、いつもマイペースの玄徳ですら、「姉ちゃん、生きてるんでしょ?死なないよね?あの姉ちゃんが死ぬはずないよね?」とかなり動揺していたらしく、玄徳もまた母に、「笹錦の跡継ぎたる者が、動揺する姿を見せるのではありません!」と怒られたそうだ。


 そして母は、天命のことも語った。


「マノン姫の天命は、きっとこの時のためのものだったのですね。あなたには長いこと、重い宿命を背負わせてしまい、ごめんなさい。これからは、あなたの思うまま、自由に生きなさい」







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