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滅びの魔女は、今日もおにぎりを頬張る  作者: バネ屋
第二章 現世での営みと再会
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#09 学園探索


 2階の職員室を出ると1階へ降りて、まずは同じ本校舎にある食堂を目指した。食堂は生徒に限らず職員も自由に利用できるらしい。

 基本的にはお弁当おにぎりを持参する予定だけど、やっぱり気になる。どんなメニューがあるのだろう。高校生の好みを考えると、洋食やジャンクフードがメインだろうか。和食もあるとよいのだけど。飲み物のバリエーションも気になる。

 私の母校は田舎の県立高校で食堂なんてお洒落なものは無かったので、この学園に赴任が決まってから密かに楽しみにしていた。


 職員室を出て5分もかからず食堂に到着したが、残念ながらこの時間はまだ開店していなかった。

 しかし、厨房では白い調理服を着た何人ものスタッフさんが忙しく働き、フロアでも3名のスタッフさんが手分けしてテーブルの拭き取りをしたり、箸やスプーンなどの食器の準備をしていた。

 作業中のスタッフさんに訊ねると、朝は8時から開くそうだ。

 邪魔にならないように厨房を覗くと、白米を炊く熱気と匂いがしてくる。

 それだけで、何故だか安心してしまう。農家の娘に生まれた性分だろうか。

 調理台にはトレイと器が並べられ、何人もの調理スタッフさんが順番に盛り付けをしていた。今日は授業がないので、部活動や明日の入学式の準備に登校した生徒や職員の為の朝食だろうか。

 受け取りカウンターの横にあるホワイトボードには、『本日の献立 焼き魚、大根の味噌汁、ほうれん草のおひたし』と書かれていた。

 大学の学食をイメージしていたけど、どうやらメニューは決まっているらしい。日替わりランチのようなものだろうか。要は、公立の小中学校の給食と同じなのだろう。少し残念だ。

 でも、ドリンクは充実しているようだ。フロアの壁際には、コーヒーやジュースなどの各種ドリンクサーバーが多数並んでおり、自由に飲めるようになっている。


 職員会議までの見学時間は限られているので、次へ向かうことにした。次に目指すのは、今居る5階建ての本校舎の最上階。

 食堂を出て上の階へ続く階段へ向かうと、出勤してきた他の職員数名と遭遇した。

「おはようございます」と会釈しながらすれ違うと、「今の子、新任の子?なんか良い匂いがした」と聞こえてきたが、あえて聞こえないふりをして階段を上がっていく。


 私立更科学園は創立から50年を超え、それなりに歴史のある学園だが、本校舎は築年数が5年ほどで比較的新しくて綺麗だ。

 5階まで階段を上がるのは少し大変だったが、最上階の廊下は窓が開けられ風が抜けていて、朝の空気が吹き込み気持ちが良かった。最上階である5階には、家庭科教室と地学科教室にそれぞれの準備室があったが、教室も準備室も施錠されており、入ることは出来なかった。

 仕方がないので廊下の窓から外を覗くと、眼下のグラウンドの他に視界一杯に市内の街並みが広がり、視力が良いお蔭で遠くの山々の木々まではっきりと見えた。


 この私立更科学園は、郊外の小高い丘の上に校舎が立つため、さらに最上階の5階ともなれば、視界を邪魔する物はなく見晴らしは良い。

 3年ほど前に、祖母と母と私の3人で訪れたフランスのモンマルトルの丘から眺めたパリ市街の景色を、何故だか思い出した。フランスのモンマルトルの丘でも感じたが、まるで物語の中の王様にでもなった気分にさせる景色だった。

 やはり、センチメンタルになっているのだろうか。

 それとも、新しい環境に飛び込み、期待で高揚でもしているのだろうか。

 ただの高所好きなだけではない、と思いたい。


 腕時計を確認すると、7時半を過ぎたところ。もう1カ所は周れそうだ。

 静かにそして速やかに3階まで降り、隣の校舎へ接続している渡り廊下を通り、図書室を訪れた。

 ここは施錠されてなかった。

 静かに扉を開けて入ると、多くの書架が並ぶ図書室は、独特の紙の匂いがした。お米を炊く匂いも好きだけど、本の匂いも好きだ。 


 母が言うには、物心つく前から本をいつも手放さず、文字ばかり眺めていたそうだ。

 私の本好きは、本能的なものかもしれない。特に古い書物が好きで、実家の蔵に所蔵していた古い書物ばかり読んでいたのが高じて、地元を離れて国立大学の文学部国文学科へ進み、4年間を古典文学の研究に費やした。

 今、こうして私立更科学園の古文教師として教壇に立つことになったのも、その延長だろう。






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