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滅びの魔女は、今日もおにぎりを頬張る  作者: バネ屋
第十三章 旅先の災厄
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#89 おやつタイムと宿の夜更け


 店内は、カウンター席が五つと四人掛けのテーブルが四つほどで、テーブル席は全て埋まっていた。

 一人でカウンター席に座る野生の体育教師は、私が店内に入ってきたことに気付いていないようですが、私もカウンター席に座れば当然気付くでしょう。

 なのに知らぬふりをして、あとで「気付いていたなら、声をかけてくださいよ~」とでも言われるくらいなら、こちらから声をかけておくべきですよね。


「お疲れ様です。牧田先生」


「ヒィィ!ご、ごめんなさいッ!」


 背後から声をかけると、体をビクッとさせて両手で頭を押さえて、なぜか怯えた様子で謝罪をされた。

 それにしても、カウンター席に座る男性がこれほど絵にならないのは、野生たる所以でしょうか。


「なにに対しての謝罪ですか?私ですよ、笹錦です」


「えッ!?さ、さささ笹錦先生ッ!?」


 私が名乗ると、ようやくこちらを向いて、驚きの表情を浮かべている。

 しかし、相変わらず声が大きい。他のお客さんからジロジロ見られて恥ずかしいので、「お隣、いいですか?」とひと言断ってから座ることにした。


「ど、どうぞ!どうぞ!」と言って、汚れているわけでもないのに手で埃を払うようパタパタしてから隣のイスを勧めてくれたので、そこに座り、メニューを手に取って開き、眺めながら会話を続けた。


「一人でお食事だったのですか?」


「いや、あ、そ、そうなんです。見回りしてたら食べ損ねてしまったんですが、集合前にどこかで食べないとと思って僕もついさっき来たばかりで・・・だからサボっているわけではありませんよ!って、笹錦先生もですか?」


「それで先ほどは謝っていたのですね。大丈夫ですよ。サボっているだなんて思っていませんから。ちなみに私はサボりなんですけどね」


「ええ!?」


「お昼はしっかり食べたのですが、スープカレーはそのお店に無かったんですよ。明日朝には札幌を離れますから今日しかチャンスはないので、3時のおやつ代わりにここへきました」


「えぇ?3時のおやつ?」


「せっかくの札幌なんですから、いいじゃないですか。それよりも、牧田先生はなにを注文されたのですか?」


「え、あ、ち、チキンのスープカレーとラッシーです」


「あ、ラッシー、いいですね。じゃあ私は、牛ホルモンのスープカレーとマンゴーラッシーにしようかな」


 ちょうど店員さんがお冷とおしぼりを持ってきてくれたので、注文を伝えてメニューをしまうと、その後は会話が続かなくなった。

 そもそも、隣の席の職員室でもほとんど会話は無いですからね。というか、いつもこの人、腕組みして目をつむって瞑想ばかりしてますからね。気を使う必要のない先輩ですし、無理に会話をしようとはせずに、店内に流れるFMラジオに耳を傾けていると、体育教師のほうから話しかけてきた。


「あ、あの!クイズ大会の司会!よ、良かったです!ウチのクラスの生徒たちもみんな、すごく盛り上がって楽しんでますた!」


 あ、また噛んでる。


「ありがとうございます。あの時は、船酔いが酷くて盛り上げるのに必死だったので、自分を捨てて福留アナになりきっていました」


「え?福留アナ?だ、だれ?」


「知りませんか?福留アナ?色黒でニカッと笑うアナウンサーですよ?」


「テレビはよく見るほうですが、み、見たことないですね」


 なぜか福留アナの話題を続けていると、二人ともスープカレーがきたので、手を合わせて「いただきます」をしてから食事を始めた。


 腕時計で時刻を確認すると、15時20分。

 ここから集合場所のホテルまで、徒歩でも10分かからない。

 けど、職員が集合時間ギリギリでは、また怒られてしまうでしょう。

 いくらお気楽講師を振舞っているとはいえ、生徒達の前で野生の体育教師と一緒に怒られるだなんてまっぴら御免なので、静かにお淑やかに超特急でスプーンを口に運んだ。


「ごちそうさまでした。ではお先に失礼しますね」


「え!?もう食べたの!?」


「集合時間前にはホテルに戻ったほうがいいですから、牧田先生も急いだほうがいいですよ」


「え、あ、はい」


 キッチリ別々にお会計を済ませると、まだ食事中の野生の体育教師を置いたまま、集合場所のホテルへ向かった。



 ホテルでの夕食も残さず平らげるとさすがに限界で、20時から引率職員が集まっての打ち合わせ中は虫の息だった。

 幸い、船酔いの影響が残っていると勘違いしてもらえたので、咎められることはありませんでしたが、夜には就寝時間の22時を過ぎてからと、0時過ぎの見回り当番があり、私は0時過ぎのほうの当番となったので、それまでにお風呂を済ませて休むことにした。


 このホテルでは、3組担任の坂下先生、4組副担任の山崎先生、養護教員の伊崎先生、そして講師の私の女性職員四人の同室で、一人だけ先に部屋に戻るついでに災害時の避難経路も確認して、部屋に戻るとメイクを落としてシャワーを浴びてから、四人分の布団を敷いて、スマホでアラームをセットしてから一人で横になった。自分の分だけ布団を敷いて休んでいたら、後輩なのに感じが悪いですからね。


 今日の札幌観光、じゃなくて引率としての見回りは、存分に満喫することができた。最優先事項だったスープカレーと味噌ラーメンも食べることができましたし、イクラ丼やザンギも堪能できた。さらには、カニやイクラなどのお土産も買えましたし、文学館やもいわ山へも行けて、観光気分を満喫した。


 実際に訪れると、また来たいと思えるほど、北海道は良い土地だと思う。

 次にまた来るときは、もう少し温かい季節が良いですね。

 そんなことを考えていると、いつの間に寝ていた。


 スマホのアラームで目を覚ますと、他の3人が起きてしまわないように急いでアラームを止めた。

 時刻は23時50分。まだ眠かったのですが、寝る前に比べてお腹のほうはだいぶ落ち着いていた。

 見回り当番は0時からなので、顔を洗ってからカーディガンを羽織って、廊下に出た。


 すぐに男性職員の部屋から4組担任の大城先生も出てきたので、私が女子生徒の部屋で大城先生が男子生徒の部屋を分担して、端から順番に見回りを始めた。

 このホテルは5階建てで、更科学園は4階を貸切りで宿泊している。生徒はひと部屋に6人で、当然男子と女子は別々に合計で30部屋ある。そして、施錠してはいけないルールなので、職員はいつでも生徒の部屋へ入れるようにしてあった。

 ほとんどの部屋では静かに寝ていたが、途中で二部屋ほどまだ起きていたので、「早く寝ないと、明日辛いですよ」と声だけかけて、小言は言わずに次の部屋へ向かった。

 女子生徒の部屋を全て終えると、男子生徒の部屋があるほうの廊下で男子生徒数名が正座をさせられ、大城先生がお説教をしていた。どうやら、規則違反でもしていたのでしょう。しばらくはお説教が続きそうでしたので、大城先生に確認して、残りの男子生徒の部屋を私が見回りすることにした。

 残りの男子生徒の部屋では、特に問題はなく静かに寝ている部屋ばかりで、男子生徒の部屋も終わるころには大城先生のお説教も終わり、正座させられていた生徒も解放されたので、見回りを終了して、職員の私たちも部屋に戻って就寝することにした。


 けど、中途半端な時間に寝てしまったのと、見回りをしていたら眠気が覚めてしまったせいで、なかなか寝付けなかった。

 それでも目を閉じてじっとしていると、ウトウトするのに眠りが浅いのか、すぐに目を覚ましてしまう。何度か繰り返していると、ようやく意識が朦朧として、今度こそ眠れそうな睡魔が襲ってきた。


 しかし、突然背筋が凍るような感覚に襲われて、ハッと体を起こした。



 




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