表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
滅びの魔女は、今日もおにぎりを頬張る  作者: バネ屋
第十三章 旅先の災厄
84/95

#84 二学期初日の攻防


 9月初日の朝。

 昨日で夏休みが終わり、今日から二学期が始まる。


 タイマーをセットしておいた炊飯ジャーのフタを開けると、湯気と共に炊き立てのご飯の香りが食欲をそそる。お弁当のおにぎりを三つ握ると海苔を巻いて冷ましてから1つずつラップに包み、仕事用のバッグにしまう頃になると、ようやくピンフが起きてきた。


「今日は会議があるから、帰りは少し遅くなるわよ」


「・・・」


 声をかけても私のことなど気にも留めずにジャンプしてシンクに上り、水を飲み始めた。相変わらずマイペースな猫だ。

 

「じゃあ、行ってきます」


 玄関でパンプスを履いてからキッチンに向かってもう一度声をかけて、出勤した。


 二学期初日は、始業式やホームルームが午前中にあり、午後は授業は無く、会議があった。

 お昼休憩が終わると始まった全体職員会議では、夏休み中の各学年の生徒の事故や事件などの有無と詳細などの報告から始まり、各種部活動の大会などでの実績と今後の見通しの報告があり、部によっては来年度入学者のスカウト状況にまでおよび、続いて夏休み中に開催された来年度の入学者向けの学園見学会でのアンケートから、入学希望者の調査内容なども報告された。


 お気楽講師の私には直接関係の無い話ばかりでしたが、新米教師らしく背筋を伸ばして澄まし顔で、聞いているフリして2時間にも及んだ会議を耐え抜くも、全体職員会議が終わり20分の休憩を挟み、会議室へ移動すると、次は、二年生の学年会議が待ち構えていた。

 こちらの会議では私も直接関係のある話も多いので、気が抜けない。特に試験に関しては、一学期と同じく古文担当の私は試験問題作成と採点がありますからね。あとは私は直接関わらない修学旅行や学園祭などの行事もあるので、学年会議も長引くことが予想された。


 しかし、父から『肝の据わった子』と言われ続けた私でも動揺を見せてしまうほどの衝撃的発表が、会議の冒頭で学年主任の甘利先生から告げられた。


「副担任の折原先生がこの度ご懐妊されたので、10月の修学旅行は大事をとって休んでもらい、代わりに笹錦先生に参加してもらう予定です」


「えぇ!?ご懐妊!?私が修学旅行!?」

「あら、おめでたいですね!」

「おぉ、おめでとうございます!」


「ありがとうございます。色々とご迷惑お掛けしますが、よろしくお願いします」ペコリ


 会議出席者の皆さん、驚きながらもお祝いの言葉を交わす中、私だけお祝いの言葉を忘れてしまうほどの衝撃を受けていた。


 そう、私にとって今回の修学旅行は『行きはフェリーで船旅』という地獄にも勝る行程。

 だからこそ、村上教頭から外部研修に行くように言われて、二つ返事で了承したのだし、代理で出席と言われても、簡単に「分かりました」と言える話ではないのです。

 すぐに気を取り直して、お祝いの言葉を述べてから甘利先生に確認をする。


「ところで甘利先生?私が代理で修学旅行へ同行とのことですが、教頭先生から外部研修へ行くように言われていまして、日程が修学旅行と被っているのですが」


「ああ、その件は村上教頭には相談済みで、研修のほうをキャンセルしてもらうことになるよ」


 むむむ

 なんてことでしょう。外部研修という大義名分がすでに封じられている。

 修学旅行に行かなくて済むと安心していたのに、まさかこんな展開が待っていたとは。


「あの、ウチはペットがいるので、旅行はちょっと」


「預かってくれるところ、探してくださいね」


「あ、はい」


 ペットでは、言い訳としては弱すぎましたね。


「あの、ちなみにですが、私だけ行きは飛行機と言うわけには」


「何をまたバカなこと言ってるの!引率の意味がないでしょ!」


 非常識なことを言っていると分かっていても、船舶全般ダメな私としては必死にならざるを得ない。


「で、では、全員フェリーでの移動を取りやめて飛行機に変更するか、もしくは行き先の北海道を止めて本州内に変更するのはどうですか?無理して北海道に行かなくても、カニなら北陸とかでも食べられますし」


 必死に食い下がるも甘利先生からはギロリと睨み返され、周りの先輩職員の面々からも呆れた視線を向けられ、ここでの抵抗を諦めざるを得なかった。

 ちなみに、野生の体育教師はいつもの会議と同じように、腕を組んで目を瞑ったまま一言も発言しなかった。


 今日ほど、教師の仕事の理不尽さ、そして残酷さが身に染みたことはありません。

 もういっそのこと、教師のお仕事を辞めようかしら。

 9月末での退職にすれば、ひと月は引継ぎ期間がありますからね。この際、古文教師の天命や笹錦家の名に恥じぬなどと言っている場合じゃありませんからね。


 いえ、さすがに『船に乗りたくないから仕事を辞める』というのは天命とか家名などの前に、ヒトとしてどうなんでしょうか。それに、せっかく慣れて居心地の良い職場でしたのに、簡単に辞めるのは惜しい。読書部の皆さんとだって交流を深めたのに、ここで辞めてしまったら失望させてしまいますよね。


 ならば、奥の手を使うしかありません。

 私はこの更科学園内において、太いコネクションを持っている。

 そう、お調子者の更科理事長です。理事長には色々と貸しもありますし、父からの根回しも効いていますからね。こういう時こそ、このコネクションを存分に使うべきでしょう。

 ということで、学年会議が終わるとその足で理事長室を訪ねて、修学旅行へ行かなくて済むように直訴した。


「ああ、えーっと、そのことなんですが、村上君から折原先生のご懐妊の報告があった時に、笹錦先生を代理にする話もあってね、もし笹錦先生が拒もうとしても甘やかさないようにと念を押されてね。だからその、お役に立てず、面目ない」


「くっ、先に根回しされていたとは!さすが人工毛髪の教頭!侮れませんね・・・」


「こらこら、村上君の毛髪問題は禁句ですよ。思っても口に出したらダメですよ」


 こうして抵抗虚しく、10月中旬の四泊五日北海道への修学旅行に、引率として参加が決定した。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ