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滅びの魔女は、今日もおにぎりを頬張る  作者: バネ屋
第二章 現世での営みと再会
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#07 天命と黒猫


 私が産まれた日の前夜、母は夢を見たそうだ。

 なんでも、瞳が青くハニーブロンドのとても美しい女の子が、頭部ほどの大きさのサイコロを楽しそうに投げていたそうな。どのような状況なのかさっぱり意味不明ですが、その女の子は夢の中では『マノン姫』と呼ばれていたそうで、それを天命だと信じた母は、翌日産まれた私に『真乃』と名付けた。


 今朝、寝起きに微睡んでいると、幼少期より母から何度も聞かされたこの話を、久しぶりに思い出した。急に名前の由来を思い出すなんて、無意識に実家が恋しくてセンチメンタルになってるのかな。

 ベッドから起きようとすると、黒猫のピンフがお布団の中で丸くなって寝ていた。

 気にせずに勢いよく布団を捲り起き出すと、洗面所で顔を洗ってから朝の準備を始めた。

 時計を見るとAM6時を過ぎたところ。今日から社会人なので、メイクや身嗜みを整えてから出勤しなくてはいけない。でも、時間の心配は必要ない。なぜなら私は、メイクと身嗜みは時間が掛からない。母からは「女の子なんだから、少しは落ち着きなさい」とよく叱られたものだけど、要は私はせっかちな性分なのだ。


 タイマーをセットしておいた炊飯ジャーのフタを開けると、湯気と共に炊き立てのご飯の香りが食欲をそそる。お米は実家から送ってもらったササニシキ。田植えや稲刈りの時期になると、よく手伝わされたものです。実家は旧旗本家で、江戸時代からの地主で、広大な田んぼや畑だけでなく、敷地内には蔵まである。

 まだ熱いうちにボウルに拳2つ分ほど取り分け、塩を手にまぶしてからおにぎりを2つ握った。具は梅干し。今日のお昼用に持っていく分。海苔を巻いて冷ましてから1つずつラップに包み、仕事用のバッグにしまう頃になると、ようやくピンフが起きてきた。


「ピンフ、早くご飯を食べちゃってよ。最近いっつも寝坊助なんだから、片付かなくて困るわ。今日から私は仕事で留守なんだから、ちゃんとして頂戴ね」


 ピンフに向かって小言を言ってみたけど、私のことなど気にも留めずにジャンプしてシンクに上り、水を飲み始めた。相変わらずマイペースな猫だ。


 幼少期より母から何度も聞かされた話に、もう1つ不思議なエピソードがあった。私が産まれるとすぐに黒猫が我が家に迷い込み、居座ってしまったと言う。

 これだけならよくある話だけど、その黒猫が亡くなると、すぐに別の黒猫が現われて居座るのだ。

 母は最初の1匹目をイーペーコーと名付け、ペットとして、産まれたばかりの私と一緒に可愛がっていたそうだが、2匹目が現れた時に母は天命の夢を思い出し、これも何かの天命だろうとトイトイと名付けて、私の見張りをさせることにしたそうだ。なにせ、当時の私は親の目を盗んでは蔵に忍び込んで、先祖代々所蔵してた古い書物を漁って、夢中になって読みふけっていた。

 私が5歳の時に亡くなったイーペーコーのことは、なんとなく覚えている程度だけど、トイトイのことは良く憶えている。幼稚園や学校から帰って家に居る時は常に私にべったりで、私にとっては友達や家族以上の存在で、高校に上がったばかりの頃に病死した時は、一晩中亡骸を抱いて泣いた。


 そして次に現れたのが、ピンフだった。ピンフはトイトイと違ってマイペースな猫だったけど、高校卒業後大学進学の為に実家を出ることが決まった時だけ、何故か私から離れようとしなかったので、両親がペット可の今のマンションを手配してくれて、今もずっと一緒に生活をしている。

 朝食と身支度を終えると、もう一度ピンフに声をかけた。


「夕方には帰るから、それまでお留守番お願いね」


「・・・」


 やっぱり返事をしてくれない。いつものことだ。

 ピンフ(平和)なんて名前を付けられたから、鳴かないのかしら。






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