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滅びの魔女は、今日もおにぎりを頬張る  作者: バネ屋
第十章 開かれた知識の蔵
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#68 古文教師の歴史授業


 到着すると日傘を閉じて、まずは左列の手前の蔵の中へ案内して、扉を閉めてから照明とエアコンのスイッチを入れると、三人はスマホやデジカメで撮影をしながら感想をこぼした。


「木造なのに、鉄筋で補強?思ってたよりも近代的ですね」

「内部は蔵というよりも、書庫や資料室に近いですね」

「え、エアコンのある蔵、聞いたことない、です」ぐふ


 六棟の蔵は作られた時代が異なるので、それぞれ内部の構造が微妙に違う。

 今いる蔵は一番新しく、二階もある構造だが階段ではなく、梯子で昇るようになっており、入口付近は土間と吹き抜けで、天井には滑車が残っている。


「私がいつも入り浸っていたので、小学生の頃に父が耐震工事と空調設備などを手配してくれたんです。一族には建築や内装関連の会社もありますからね。こういう工事はお手の物なんですよ」


「なるほど、ここにも笹錦家の力が。けど、因果の残り香が・・・しない」


「く、蔵は財力の、し、象徴。ろ、六棟もある笹錦家、は、ハンパ無い」ぐふ


「建てられたのは江戸時代なんですよね?六棟全部そうなんですか?」


「そうですよ。全て江戸時代に建てられました。それでは、読書タイムに入る前に、この蔵の歴史を勉強しましょうか」


「はい!お願いします!」


 靴を脱いで上がると三人は帽子を脱いで荷物を降ろし、私も含めた四人で輪になって板張りの床に座り、水筒を取り出して麦茶でノドを潤すと、教室で授業をするのと同じように講釈を始めた。


「栗林さんが言う通り、昔は蔵を持つことは財力と社会的地位を示す象徴的な意味もありました。一族がこの地に移り住んで、土地を切り開き田畑を耕して財を築きあげていく中で、財力と社会的地位というのは江戸時代とても重要だったのは分かりますか?」


「旗本の家柄だと・・・戦に出る為の資金?」

「幕府への献上や有力大名などへの援助ですか?」

「お、お金を貸せば、相手は、さ、逆らえなくなって、言うことを聞く」ぐふ


「皆さん、よくご存じですね。関ヶ原の戦以降の幕府は、譜代と外様を分けるほど、各大名や旗本の謀反を疑う時代背景がありました。そんな時代の中、大名や旗本はこぞって幕府への忠誠を誓い、それを証明するために献上したり、戦があれば何をおいても兵を出します。ですが、豊臣氏滅亡後の新興旗本である笹錦家は財力がありませんでした。開墾して田畑を耕すので精一杯で、ひとたび大雨に見舞われれば困窮してしまうほどで、治水工事をするにもお金が必要でした」


「確かに、知行地を与えられたからといって、すぐに裕福にはなれませんよね」


「ええ。なので、初代と二代目の時代は相当苦労をしたようです。ですが、苦労したことで、堅実な内政と外交が笹錦家の家訓となります。質素倹約という言葉がありますが、江戸中期まではかなり堅実な領地運営がされていたようですね」


「では、当時は貯蓄の為に蔵が作られたんですか?」


「機能的な用途としてはそうなんですが、時代の流れで別の役目も持つようになりました。太平の世が長く続くと、時代背景も価値観も変わっていきますからね。他家との交渉事などでは、武力よりも財力が物を言う時代になっていきます。なので『笹錦は裕福なんだぞ』と宣伝する目的もあったでしょうね」


「他家との交渉って、戦がないのにですか?」


「日本史でも習いますが、戦が無い江戸中期以降は文治政治といって、政治的な争いがメインになってきますからね。有力大名との繋がりを作ったり婚姻関係を結んだりするのに、物を言うのがお金なんです。だから、無名の旗本家が地位を確立するためには、財力を宣伝する必要があったんです」


「それで、六棟も建てたんですね」


「ええ。六棟の蔵は右列から順番に、三代目、五代目、六代目で、左列は八代目、九代目、十一代目の時代に建てられました。ですが面白いのが、最初は財産や食料などを保管していたようですが、代が変わるごとに人が増えて遺品なども増えていくものだから、古い蔵に要らない物を放り込んで、物置にしていました。そして、明治に入って日本にも金融制度ができると、財産は銀行に預けるようになりますので、六棟の蔵は誰が何を入れたのか分からないガラクタ置き場として、開かずの間となっていました」

 

「その開かずの間を開けたのが、先生だったんですね?」


「開けても物があふれてましたからね。危ないし片付けるのは大変ですから、誰も興味を示さず放置されていたというのが実際のところです」


「先生が話してくれた歴史は、例の小学生の頃に2年かけて調べて分かったんですか?時代背景とか高校の日本史よりも詳しいですよね?」


「家系に関しては、全て自分で調査したものですが、歴史的な背景は、当時お世話になった地元の大学の調査員に教わりましたね。その時に調査した書物や書簡、家系図などは歴史資料館に展示していますよ」


「大学の調査員にですか?」


「ええ。歴史資料館を作る際に、地元の国立大学に協力してもらったんですが、その際に教わりました」


「つまり、小学生の頃にはすでに高校生以上の日本史の知識も・・・凄い小学生ですね」


「教わったといっても、江戸時代だけですよ。書物の読解や分析のがよほど大変でした」


 遠藤さんは私の小学生時代の話を聞いて、感心した様子で蔵の中を眺めていた。


「先生は子供の頃、どうして蔵に興味を持ったんですか?」


「それがですね、私自身にも覚えがないんですよ。物覚えつくころにはすでに蔵に忍び込んでは、古い書物を漁って読みふけってましたからね」


「きっと、因果の力が作用して、導かれたのでしょうね・・・」


 里子さんは、相変わらず私と蔵を因果説で結びたいようですね。


「因果かどうかは分かりませんが、母の話では、幼児のころからいつも書物や書簡を持ち歩いて、読めもしないのに文字を眺めていたそうですよ」


「それで古い書物が絵本代わりだったと。まるで古典を研究するためのような環境で生まれ育ったんですね」


 確かに母校の文学部国文学科でも、これほど古い書物に囲まれた環境で育った学生は私だけでした。


「し、書物以外の物は、ど、どこへ?」


 この蔵だけでなく六棟の蔵全て、今は書物や書簡などしか置いてない。

 栗林さんは歴史好きだからなのか、書物以外にも興味があるようだ。


「武具類は専門業者へ依頼して修復してから歴史資料館で保管して、他の家具や食器などで状態の良いものは地元の大学へ寄贈しましたよ。あとのものは邪魔なので処分しました」


「し、処分・・・勿体ない」ぐふ


「読み物以外には興味がありませんでしたからね。でも、歴史資料館には色々と展示してありますので、あとで休憩がてら見学に行きましょうか」


「い、行きたいです。か、甲冑とか刀、滾る」ぐふふ








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