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滅びの魔女は、今日もおにぎりを頬張る  作者: バネ屋
第十章 開かれた知識の蔵
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#67 六棟の蔵


 夏合宿、二日目。朝早く、目が覚めた。

 昨夜、ピンフがお腹の上で寝てしまい、私も疲れから浴衣のまま寝てしまったけど、私が起きた時にはピンフはお腹の上ではなく、足元で体を丸めていた。

 体を起こして点けっぱなしのクーラーをリモコンで止めると、読書部の三人はまだ寝ていた。三人共、浴衣からパジャマに着替えているので、私が寝ているあいだに柿本さんが三人をお風呂に入れて、着替えさせてくれたのだろう。

 時計を見ると6時を過ぎたところ。ゆっくり熟睡できたおかげで、体の疲れは残っておらず快調でしたので、すみやかに起き出して、窓を開けて外の空気を室内に取り込み、布団を畳もうと思ったけど、ピンフが寝ていたのでそのままにして、着替えを持ってお風呂へ向かい、朝風呂を済ませた。

 髪にドライヤーで風をあてて乾かしていると、ふと『せっかくだから、朝の涼しい空気にあてて乾かそう』と思い立ち、ドライヤーを止めて、髪がまだ少し湿ったまま家族用玄関からサンダルを履いて外に出た。


 体を伸ばしながら深呼吸をすると、都会では味わえない田舎の澄んだ空気がひんやりとして気持ち良い。

 外へ出たついでに散歩がてら蔵まで歩いて、朝のうちから換気をしておくことにしようと、玄関に置いてあった鍵の束を取ってから、石畳の歩道を蔵に向かって歩き出した。

 実家を出るまで気づけなかったけど、田舎には田舎の良さがある。空気は澄んでいて水も綺麗。夜になれば満天の星を見ることができ、野菜やお米、川魚や山菜も新鮮でおいしい。

 せっかく田舎へ合宿に来たのだから、都会では味わえないこういったものを三人に味わってほしい。今日は晴天で雲1つ無いので、今夜は三人を連れ出して、星を見ながら散歩をするのも良いかもしれませんね。


 朝露に濡れた植木を眺めながら歩いて蔵に到着すると、持ってきた鍵の束から1つを選んで、左列の手前の蔵を解錠して、扉を全開にしたまま中へ入ると、むわっとした湿気を帯びた空気が充満していたので、壁にあるスイッチで換気扇を回した。


 この空気と臭い、久しぶりで懐かしい。最後に訪れたのは、今年の正月に帰省した時だったか。

 外観は古いままですが、中は耐震工事により鉄骨で補強され、換気扇だけでなくLEDの照明や冷暖房を兼ね備えた空調設備も設置されており、スチール製の棚が並び、作業用のデスクなどもある。私があまりにも入り浸るものだから、小学生の時に膨大な資料を整理する約束で、父が手配して内装工事をしてくれたものだ。

 おかげで、それまで口うるさかった母も小言を言わなくなり、私の蔵籠りを認めてくれるようになりましたし、ここで学んだことを活かすために、県外の大学進学も賛成してくれた。

 そういった経緯もあり、この六棟の蔵は私にとって特別な場所であり、今もその想いは変わらない。それを読書部の三人が興味を持ち、こうして実際に訪れてくれて紹介できることは、誇らしくもあった。


 順番に他の蔵の扉も解錠して、扉を全開にして換気扇を回していると、使用人の柿本さんが「真乃お嬢さま、朝食の準備ができました。生徒の皆さんも起きて、今、顔を洗ってらっしゃいます」と呼びに来て、ピンフも一緒に付いて来ていた。

 スマホは部屋に置いてきたので、呼びに来てくれたのだろう。「ありがとうございます。すぐに戻ります」と返事をすると、ピンフが六つ目の一番古い蔵の中へ入っていった。ピンフにとってもこの蔵は馴染みのある場所なので、懐かしいのだろう。


 ピンフのことは構わずに本邸に戻り食堂へ行くと、すでに読書部の三人と母と玄徳もいて、朝食を食べ始めていた。

 父は出勤したのだろう。祖父と祖母は敷地内にある別邸で生活しているので、普段から食事もそちらで摂っていて、昨夜のように来客や親類の集まりの時だけ本邸で食事をする。


「おはようございます。皆さん、ゆっくり休めましたか?」


「先生、おはようございます!」

「おはようございます。朝からドコへ行ってたんですか?」

「ど、読書してたら眠くなって、10時に寝た。せ、先輩もバタンキュー」ぐふ


 昨夜の夕飯でもそうでしたが、三人とも母や玄徳ともうまくやれているようで、食事をしながら賑やかにお喋りをしていたようだ。


「朝の散歩がてらに、蔵の換気をしに行ってきました」


 答えながら私も席について食事を始めると、隣に座る玄徳が声をかけてきた。


「姉ちゃん、ちゃんと先生やってんだね。三人とも姉ちゃんのことすげー褒めてるからさ、意外だったよ」


「意外だったとは失礼ですね。三人とも、変なこと話してませんよね?」


 玄徳なら別に良いですが、母も居ますので、変なことまで話さないように念を押した。


「授業のことと部活の顧問になってくれた時のことしか話してませんよ?」

「あと『雨月物語』の写本の話題が出たので、夏期講習のことも話しました」

「ろ、6本の、鼻毛のソウルは、ま、まだです」ぐふ


「栗ちゃん!それはシーッ!」


 さすが部長の遠藤さん。栗林さんが要らぬことを言い出したのを察知して、即座に制止してくれた。同僚の鼻毛伝説を生徒に話していたなんて母に知られたら、「あなたは生徒に何を吹き込んでいるんですか?教師としての自覚が足りません。笹錦の人間として恥ずかしい」とクドクドお説教されそうですからね。


「こういう場では忖度して褒めて褒めて褒めちぎるのが大人の付き合い方というものです。ですから、もっと褒めてください」


「いえ、ネタ切れなので、これ以上褒めることがありません」


「あ、はい」


 里子さんは、いつも通りドライで容赦がない。

 しかし、里子さんといつものように掛け合いをしていると、食事を終えた母がひと言だけ声をかけてきた。


「教師として頑張っているようですが、天命であることを忘れてはいけませんよ」


「あ、はい」


 口の堅い里子さんのことだから、普段のお気楽ぶりやマノン姫の夢のことは無闇に話すことはないでしょうけど、母の異常な洞察力はエスパー並みですので、すでに何か感づいているのでしょうか・・・


 食事を終えるとキッチンへ行って麦茶の水筒を用意してもらい、自室に戻って四人で敷きっぱなしの布団を折り畳んで片付け、準備を始めた。

 水筒やタオル、タブレットやデジカメ、ノートに筆記用具などを各々トートバッグなどに入れ、三人それぞれが首にタオルを巻いたり麦わら帽子を被って準備ができたのを確認すると、「準備ができたようなので、皆さんお楽しみ、目的の蔵へ行きましょうか」と声をかけた。


「はい!早く行きましょう!」

「ついに、因果の源流へ」

「ほ、本物の蔵、は、初めてです。き、緊張する」ぐふ


 昨日は移動日で一日バタバタしてて、蔵の中までは案内できませんでしたからね。三人とも目を輝かせて、早く行きたくて仕方ないという様子だった。








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