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滅びの魔女は、今日もおにぎりを頬張る  作者: バネ屋
第九章 現世での生家
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#65 実家の賑わい


 軽くシャワーで汗を流して自室に戻ると、待ち構えていた母と柿本さんの二人がかりで浴衣を着せられ、髪も結われてメイクまでされてしまった。ちなみに私が着せられたのは、笹の模様が入った浴衣だ。


「ふぅ、見てくれだけはなんとか整いましたね。本当に、幾つになっても手のかかる子ね。こんなことで高校の教師が務まるのかしら」


「こんな時間から、なんのために浴衣を着てメイクまで」


「パパに見てもらうためでしょ!」

「真乃お嬢さまのお姿を見れば、旦那さまもきっと大喜びされますよ」

「先生、めっちゃ綺麗!」

「和装がこれほど似合う女性はそうはいませんね」クイッ

「た、滾る。写真撮る、です」ぐふ、ぐふふ


 今回の夏合宿は、私が高校教師として立派に勤めていることを家族に見せるのも目的の1つでしたが、浴衣になる必要などないはず。

 しかし、口うるさい母にはそんな理屈は通用しませんので、大人しく従うしかない。


「そろそろお夕飯の準備もできるでしょうから、行きますよ」


 そう言ってピンフを抱き上げた母が部屋を出て行ったので、私たちも部屋を後にした。


 母に付いて行くと食堂ではなく、親戚などが集まった際に使う広間だった。今夜は家族だけでなく読書部の三人も一緒なので、こちらで食事をするのだろう。

 上座にはすでに祖父と祖母が座っていたので、まだ挨拶を済ませていない祖母に三人を紹介した。


「お婆さま、お元気そうでなによりです。それで、この子たちが私の教え子です」


「おじゃましてます!」×3


「遠いところをよく来ましたね。なにもないところだけど、ゆっくりしていって頂戴ね。それにしても、真乃さんはきちんと先生のお仕事出来ているのかしら?この子は頭の出来がいいのに他が抜けているから、おばあちゃん心配だわ。あれはいくつの時だったかしら?ほら、真乃さんの姿が見えないって里じゅうで大騒ぎになって、駐在さんやら消防団やら総出で捜索しようって話になって、でもこの子ったら、蔵の中で暗くなっても懐中電灯を点けて、ずっと本を読んでたのよ?猫ちゃんが知らせに来てくれたから気づくことができましたけど、ほっといたら朝までずっと一人で蔵の中でうんたらかんたら」


「それは4、5歳の頃のお話ですよ。今はもう成人した大人ですから、ちゃんとしています」


「あらそうなの?でもあの時だって、ほら、中学生のころだったかしら?玄徳を連れて秋祭りに行った時だって」

「お婆さま、生徒の前ですので昔話はその辺で」


 これ以上祖母に話をさせるのは得策ではないと判断して早々に切り上げ、指定された席に座って、家族が揃うのを待つことにした。

 すると、すぐに父がやってきた。普段は仕事から帰って来るのはもう少し遅い時間ですが、今夜は私が帰省しているからと早めに仕事を切り上げて、帰ってきたらしい。


「おぉ!?真乃が浴衣なんて着て、どういう風の吹きまわしなんだ!?」


 確かに嫌々浴衣を着せられていますが、実家を出て立派に働いている娘が久しぶりに里帰りしているというのに、第一声がそれなのは、我が父親ながら失礼じゃないかと思う。


「真乃が『パパにお見せしたいの!』と張り切って、着たんですよ?」


「えぇ!?いつ私そんなこと言いました!?誇張が酷い」


「そーかそーか!気難しい子だったけど、なんだかんだ言って実家を離れて寂しいんだな!パパやママが恋しくなっちゃったか!?」


「いえ、ちっとも寂しく無いし恋しくも無いです。実家を離れて独身の教員生活を思う存分謳歌してますよ」


 家族が揃ったので食事が始まり、父と噛み合わない会話を続けていると、読書部の三人が、ヒソヒソと会話するのが聞こえてきた。


「先生って学校だとフリーダム無双だけど、家だと押されっぱなしだね」

「むしろ、あのフリーダムさは親譲りなのでは?ご両親のが圧倒的にパワフル」

「せ、先生の家族、みんな、個性が強い。先生が、ふ、普通に、見える」ぐふ


 三人ともなにを言っているのだろうか。文系インドア女子代表の地味な国語教師の私が普通に見えるのは当然のこと。ウチの両親と比べること自体、ナンセンス。


「でもやっぱり、似てるよね?」

「うん、似てるね」

「み、見た目も性格も、お、お母さま、そっくり」ぐふ


「黙って聞いていれば、どこがですか?私はあんなに気が強くて横暴ではありませんよ。なにせ、文系インドア女子代表の国語教師ですからね」


「そう思ってるの、先生だけだって」

「雰囲気だけは深窓の令嬢っぽいですが、実際には文系インドア女子と言ってよいのか疑問を覚えるほどの奔放さですからね」

「さ、更科学園で、一番目立ってる。し、四月に理事長、泣かせた伝説、一年生でも、み、みんな知ってる」ぐふ

 

「この一学期、お仕事頑張ってきたのに生徒からのイメージが酷い・・・それに、ただの噂が伝説扱いになってる悲劇」


「噂じゃなくて、泣かせたのは事実じゃないですか」


「お、そうだ。更科理事長はご健勝か?」


 三人との会話に理事長の話題が出てきたら、なぜか父が理事長のことを聞いてきた。


「理事長はお元気ですが、なぜお父さまが理事長のことをご存知で?」


「ああ、4月だったか『真乃のこと、どうぞよろしく』って学園に寄付したら、こっちまで会いに来てくれてな。ママと一緒に面会したんだが、更科さんもマノン姫の夢を見たって言うから意気投合したんだよ」


「ちょ、ちょっと待ってください!?寄付???面会???いつの間に!?」


「お?珍しく真乃が動揺してる」ふふ


「笑い事じゃありませんよ!教職員の保護者が寄付するだなんて聞いたことありませんよ!」


「別に良いだろう。その寄付のお陰で真乃の好きな図書室の本がたくさん買えるのだから」


 くっ、それを言われては反論できない。

 さすが父、私のことを良くわかっている。


「あーあと、高校の教員だと男も多い職場だからな、変な虫がつかないようにお願いしたら、『大切なお嬢様、いえ、姫様のことは学園の総力を持ってお守りします。どうぞこの更科源三郎にお任せください』って言ってくれてな。働きやすくなっただろ?」


「はぁ!?」


 お調子者の理事長が、調子のいいことを言っている姿が目に浮かんだ。


「お?真乃が今度は驚いてる。社会の荒波に揉まれて成長した証しだな」ふふ


 そういえば、大学を卒業するまで異性からの求愛だの求婚だの大変でしたが、更科学園に赴任してからはそういったことが全く無くなっていた。

 まさか父が裏で手を回していただなんて、思いもしなかった。


 確かに、異性からのアプローチが無くなって気楽に働けているけれども、いい年した社会人なのに親が寄付してただとか、変な虫が寄り付かないようにと手を回していただとか、過保護にも程がある。

 それに、幼少期から私のことを『焦りや緊張を知らない肝が据わった子』と言っていた父のこの様子。


 まさか・・・

 私が動揺したり驚く姿を見たいがために、そこまでした疑いすら。


 我が父ながら、げにおそろしや、笹錦家十八代目。








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