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滅びの魔女は、今日もおにぎりを頬張る  作者: バネ屋
第九章 現世での生家
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#64 若さを前にして


 畳の上で、読書部のみんなとゴロゴロしながら下らない女子トークで合宿気分を満喫していると、母が怒鳴り込んできた。


「真乃!あなた、挨拶回りはどうしたの!すぐに着替えて、暗くなる前にさっさと行ってらっしゃい!」


「今日は疲れたので、明日にでも」


「何バカなこと言ってるの!柿本さーん!真乃の着付けみてやって頂戴!」


「私にだって教師としての立場というものがあるのだから、なにも、生徒が居る前でそんなにうるさく言わなくても」


「あなたは教師である前に笹錦の人間でしょ!生徒さんの前だからこそシャキっとしなさい!」


 チラリと三人へ視線を向けると、先ほどまで一緒にゴロゴロしてたはずが、正座してビシッと背筋を伸ばしている。変わり身の早い子たちだ。

 そして、母の怒鳴り声に恐れをなしたのか、ピンフまでも押し入れから出てきて、母の足元で背筋を伸ばすように座り、お澄ましした表情をしている。裏切り者め。


「せめて着物だけはご勘弁を・・・自転車で行くのでワンピースに着替えます」


 渋々着替えて、持参した抹茶どら焼きの入った紙袋をいくつも両手で持つと、三人に「ゆっくりしていてください。何か用があるときは、柿本さんに聞いてくださいね」と言い残し、自室を後にした。


 これからご近所への挨拶回り。

 ご近所と言っても、どこもかしこも同じ笹錦の性が多く、この里に住む人はほぼ分家か旗本時代の家臣の縁者ばかり。なので、『本家の長女が里帰りしました。ご心配おかけしましたが、社会人として立派にやってますよ』と報告するための挨拶周りだ。


 ガレージに置いてあった高校時代に使用してた自転車のカゴに手土産を無理やり詰め込んで、まだ午後の日差しが強い中、すみやかに終わらせるために全力疾走でご近所を周った。

 気分は新聞配達屋さん。新聞配達をした経験はありませんが、きっとこんな感じなのでしょう。途中からテンションがあがってしまい、汗だくになりながらペダルを漕いで訪ねる家々で「ごめんくださーい!本家の真乃でーす!」とハイテンション挨拶をして周り、全て周り終える頃には力尽きて、自宅門前の緩い坂道を自転車で上がる余力は残っておらず、汗だくのままトボトボと自転車を押して家路についた。


 それにしても、どの家でも漏れなく「真乃ちゃん、ご結婚はまだなの?」と聞いてくるのはなぜだろう。そんなにも、私が結婚しないことがおかしいのだろうか。

 いえ、たんに興味本位?

 田舎特有の、噂にするネタ探し?

 ま、まさか、同情!?

 あ、憐れみなの!?

 そんなの、よけいなお世話ですよね。好きで、独身を謳歌してるのですからね。


 陰りはじめた陽を背に受け、伸びた自分の影を踏みしめながら歩いていると、高校時代の学校の帰り道を思い出す。

 あの頃は、自分が教師になるなんて想像すらしていなかった。他人と関わることを避けていたのに、まさか、多くの生徒に古文の授業をして、部活動の顧問までしているだなんて、当時の自分が知ったら、狂気の沙汰だと思うだろう。

 それが今や、生徒を連れて里帰りして、家族には立派な社会人としての姿を見せて、「私の教え子です!ふふふ、どうだ、参ったか!」ですからね。

 ヒトの価値観なんて、その場その時で都合よく変わってしまう、案外いい加減なものなのかもしれませんね。


 自転車を押しながら門をくぐると、ピンフが待っていた。


 裏切り者め。

 どうせ待っててくれるなら、一緒についてきてくれればいいのに。母の前でだけ良い子のふりして、現金なヤツめ。

 私が帰ったことに気づくと、ゴロリと寝転び、お腹を見せてきた。服従のポーズのつもりだろうか。

 いえ、ピンフが私に、そんな殊勝な態度はとらない。ただ遊んで欲しいのだろう。


「ほら、起きて。疲れたからシャワーを浴びてゆっくり休みたいの。帰るわよ」


 私が声をかけるとスクッと立ち上がり、本邸に向かってスタスタと歩き始めた。

 相変わらず気まぐれで、マイペースな猫だ。


 ガレージに自転車を戻して自室へ帰ると、母と柿本さんも居て、なぜか三人に浴衣の着付けをしていた。恐らく私のお古だろう。祖父や父がやたらと買い付けてくるので、洋服や着物がたくさんあるはず。私自身がそれらを着ることはありませんでしたけど。

 文系インドア女子ですからね。学生時代はオシャレになんて興味ありませんでしたし、母校の体操服があれば事足りるのです。


「ただいま戻りました」


「せんせー!お帰りなさい!」

「お勤めご苦労様でした」

「お、おか、お帰りなさい」ぐふ


「先生、私たちの浴衣、どうですか?似合いますか?」


 遠藤さんは紫陽花柄の浴衣で、いつものポニーテールではなくアップにまとめている。

 里子さんは朝顔柄の浴衣で、前髪をヘアピンで留めておでこを出している。

 栗林さんは向日葵柄の浴衣で、お団子ヘア。

 さすが現役女子高生。浴衣姿がキラキラと眩しい。

 それに比べて、汗みどろの私ときたら。


「ええ、とても似合ってて三人とも可愛いですよ。さすが現役女子高生ですね。文系インドア女子とは思えないほどキラキラして、十代の若さが眩し過ぎて直視できませんよ。それに比べて二十代の私はこの猛暑のなか汗水垂らして自転車で挨拶周りですからね。オマケにドコに行っても結婚がうんたらかんたら」


 私は汗だくでヘトヘトなのにキラキラで楽しそうな三人に、ちょっぴり僻みと皮肉を込めてぶつぶつ言いながら六頭首高校の体操服に着替えようとすると、母に思い切りお尻を叩かれた。


「痛ッ!」


「あなたはどうしてすぐダラしない格好をしたがるの!」


「だって、自転車で走り回ったので疲れたんです」


「だってじゃありません!笹錦の人間が言い訳しない!柿本さん!真乃の浴衣も出して頂戴!」


「はい、奥さま」


 わ、私にも浴衣を着せて、現役女子高生三人と並べと!?それは公開処刑なのでは!?

 我が母親ながら、血も涙もない仕打ち。


「せ、せめて、シャワーだけでも」








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