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滅びの魔女は、今日もおにぎりを頬張る  作者: バネ屋
第九章 現世での生家
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#63 孤独な青春の成れの果て


 三人が制服から学園指定のジャージ等に着替えていると、柿本さんが冷たい飲み物を用意してくれたので、休憩しつつ、私も着替えた。


「で、でた!噂の体操服!」


「胸に『六』とありますが、校章ですか?」


「ろ、六・・・不吉な数字」ぐふ


「不吉とは失礼ですね。こう見えても地元では有数の進学校、県立六頭首高校の体操服ですよ。見た目は変でも、動きやすくて着心地は良いのです」


「まぁ、母校の体操服は文系インドア女子にとってはユニフォームみたいなもんですよねー」


「私も中学の体操服を、今でも家で着てますね」クイッ


「わ、私も」ぐふ


「それにしても先生って、スタイルめっちゃ良いですよね!」


「ダサい体操服だと、逆にスタイルの良さが際立ちますね」


「い、いい匂いも、する」ぐふ、ぐふふ


「そうそう!ずっと気になってたけど、先生っていい匂いするんだよね!クラスの男子とかもよく騒いでた」


「体形はあまり気にしていませんが、子供のころからいい匂いがするとはよく言われましたね。香水などは苦手なので、そういった類は一切使ってないんですけどね」


「生まれ持ってのモテフェロモン?名家のお嬢さまで凄く綺麗でスタイルも抜群なのに、恋愛に興味が無いとか、なんか勿体ないですね」


「これだけ凄い名家なら、お見合いとかもたくさん申し込まれているんじゃないですか?」


「それがですね、祖父が『真乃本人が結婚したくないのなら、そんなことまでせんでいい!』と言ってくれて、そういった申し入れは全てお断りしているんですよ」


「やっぱり名家だとお見合いの話はあるんですね。お母さまも凄くお綺麗ですけど、お見合い結婚だったんですか?」


「母の実家は病院を営む代々医者の家系なんですけど、私が聞いている話では、表向きは政治的な婚姻ということになっていますが、どうやら母が仕組んだお見合いだったらしく、実際には母の意向が強く働いた結婚らしいですよ」


「名家同士だと色々と苦労とかしがらみがあるんですね。 あ、そうだ!先生の卒アル見たい!」


「私も興味あります。是非見せてください」


「せ、先生、絶対、び、美少女。きっと、で、伝説級」ぐふ、ぐふふ


「そんなことないですよ。高校時代は野暮ったい風貌を装っていましたので。たしか押し入れの中にしまっていたかな。ちょっと待っててください」


 6畳間のほうの押し入れを開けるとピンフが突入していったが、気にせずにゴソゴソと探して、中学時代と高校時代の卒業アルバムを取り出し、三人に渡した。


「うわ!やっぱ先生って美少女!滅茶苦茶カワイイ!」

「本当に『深窓の令嬢』そのままですね。これは絶対にモテますよ」

「ま、周りの生徒と、お、同じ中学生に、見えない」ぐふ


 中学の卒業アルバムには、今より少し短いセミロングで、完璧なお澄ましフェイスの私が写っている。


「幼少期より色々ありましてね、この頃の私は異性どころか同性を含めた周り全てと距離を取ってましたから、学校では完全に浮いていましたね」


「リアルで高嶺の花だったんですね。でもこの頃に『雨月物語』のあの論文を書いてたんですよね。なんだか見た目と凄いギャップが。それに比べて、高校時代のほうは・・・」


「野暮ったく装ってますけど、狙いすぎですね」


 高校の卒業アルバムには、三つ編みのおさげに黒縁の眼鏡をかけた私が写っているが、その表情は、目を細めて閉じた口を左右に引きつらせている。自分でも、なぜこんな顔をしているのか記憶が定かではありませんが、我ながら変な顔だと思う。ウケでも狙っていたのでしょうか。


「め、眼鏡が、に、似合ってない」ぐふ


「普通逆ですよね?中学のころは地味だった子が、高校でオシャレになったりするなら分かりますけど」


「これにも色々と事情があって、伊達眼鏡なんですけど、あえて地味なデザインのものを用意してました」


「そういえば、気になったんですが、これだけの家柄のお嬢さまなら、普通は有名私立のお嬢様学校とかに行くと思うんですけど、先生って中学も高校も公立なんですね」


「こちらの地域は公立思考が根強いので、私立高校はあっても『私立は公立に行けない学力の子が行く学校』という扱いで、更科学園のような学業に熱心な私立高校はないんですよ。それでも、県庁所在地などの都市部まで行けば有名私立もあるのですが、通学が面倒で、特に悩むこと無く公立を志望しましたね。でも、中学まで異性からの求愛だとか付きまといとかで散々な目にあっていたので、高校に進学する際に野暮ったい女子を装うようにしてたんです。効果はあまりありませんでしたけど」


「先生みたいに綺麗な人に憧れるけど、モテるのも考えものかも」


「日常生活が送れないほどのモテ体質とか、不幸でしかないですね」


「里子さん・・・私の辛さ、分かってくださるのね。いつもはあんなにも辛辣なのに」


「で、でも、高校時代の先生、わ、私と、お、同じ臭いがする」ぐふ


「ええ、この頃には、すでにどこへ出しても恥ずかしくないほどの立派な文系インドア女子でしたからね」


「少しは恥ずかしいと自覚したほうが」


「私たちって自覚しているからこそ肩身の狭い思いをしてるのに、先生って逆に堂々としてますよね。『文系インドア女子ですが、なにか?』って言いたげなほど、堂々と」


「ええ、当たり前じゃないですか。文系インドア代表の国語教師と自負していますので。体育会系総本山の剣道部に見学に行った時も、文系代表として一歩も引かずに立ち向かったんですよ?」


「先生って、体育会系のことすっごく敵視してるよね」


「だから、牧田先生のことも『野生の体育教師』って、イジり倒しているんですか?」


「いえ、野生の体育教師の場合は敵視というよりも、私の物差しでは測れない未知の生物に対する好奇心?ヒトを始めとした哺乳類は、他の動物や虫などにはないその好奇心があったからこそ、進化を遂げて文明を築き上げたんですよ。だから、好奇心こそヒトを繁栄させた源なんです」


「ようは、気になる存在だと?」


「あー!そういうことなんだ!どら焼きでコロっといっちゃったんですね?」


「こ、恋の、よ、予感」ぐふふふ


「なに馬鹿なことを言ってるのですか、あなたたちは。この私が恋?あの濃い老け顔の体育教師に?300パーセントありえませんよ。なんでしたら今から体育教師に『勘違いしないでください!』と横っ面にどら焼きを叩き返してきましょうか?ええ、そうしましょう。生徒にあらぬ誤解を抱かれたままでは笹錦家の人間として恥以外のなにものでもありませんし、今後の教員生活にも悪影響が出てしまいます。さっさと叩きつけて野生の体育教師を黙らせてやりますよ」


「せんせー、ムキになりすぎー」

「ムキになるほど怪しくなりますね」クイッ

「せ、先生が、つ、ツンデレ」ぐふふ


 くっ、だから色恋話は苦手なのです。

 昔からどんなに否定しても、こんな風にからかわれてしまうんです。

 しかもそれが教え子たちにだなんて・・・しょせん、私の恋愛知識なんて、現役女子高生にも劣るのですよ。








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