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滅びの魔女は、今日もおにぎりを頬張る  作者: バネ屋
第九章 現世での生家
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#61 異界、笹錦家


 駅から実家まで車で10分ほどの距離ですが、少し遠回りをして消防署と町役場にも寄ってもらい、挨拶を済ませてから実家に向かった。


 林道の緩い坂道を上り実家の門前まで来ると、「せっかくですから、ここから歩いて行きましょう」と車を停めてもらい、読書部の三人と降りてピンフもキャリーから出して、寺内さんには荷物だけ先に運んでもらうことにした。


「ここから本邸まで結構歩きますからね、ゆっくり案内しながら行きましょう」


 寺内さんが運転する車が先に行き、狭いところからようやく出れたピンフがのんきに伸びをしていると、車中では大人しかった三人も、ようやく喋り出した。


「なんか、思ってたのと違うね・・・」

「お嬢さまだとは思ってましたけど、スケールが違い過ぎる」

「さ、サマーウォーズ、みたい」ぐふ


 まだお昼過ぎで日差しが強いので、日傘をさした。


「アニメ・サマーウォーズは私も何年か前に拝見しましたが、確かにあれが近いかもしれませんね。この門は江戸末期に建てられたものなんですよ。徳川幕府からは門や城壁を作ることが厳しく制限されてましたので、長いこと建屋だけだったのですが、戊辰戦争の際に自衛目的で里をぐるりと包囲するように防壁が作られて、この門もその時に作ったそうです。結局、戊辰戦争でも太平洋戦争でも戦火を免れ、今は役目を失った防壁は一部しか残っていませんが、この六枚の笹の葉が描かれた家紋を掲げた門は今も残して、ここからが笹錦本家の自宅という目印になってますね」


「自宅の目印ですか?」


「ええ、もともとはこの里一帯が笹錦一族の土地なんですよ。ここから見える景色はほぼ全て笹錦のご先祖様が開拓した土地でしたからね。だから分家や里の住人との区別をつけるために、この門を入ると笹錦本家の自宅ということになるんです」


「もしかして、乗ってきたローカル線も笹錦家が線路を引いたんですか?」


「鉄道事業は笹錦グループではありませんよ。でもこんな田舎にまで線路を引いてもらうために、相当な出資をしたそうですけどね。昭和の高度成長期のよくある話です」


「地元に駅を作るとか、やっぱりスケールが違い過ぎます」


「さぁ、ここから歩きますよ。祖父自慢の庭園や迎賓館、あとは目的の蔵や歴史資料館などもありますから、歩くだけでもきっと面白いですよ」


「え?ここから自宅なんですよね?自宅の敷地内に歴史資料館まであるんですか?」


「ええ、例の私が笹錦の家系を調査した際に、その成果を見た祖父が『これを笹錦の正史とする!』と張り切ってしまいましてね、家系や歴史、代々伝わる武具などを紹介するための歴史資料館まで、建ててしまったんですよ」


「れ、歴史資料館、た、滾る」ぐふ、ぐふふふ


 本邸まで続く舗装された道とは別の植木に囲まれた石畳の歩道を、三人とピンフを伴って歩いていると『笹錦歴史資料館』の案内板があり、その先の平屋の建屋の前にやってきた。歴史資料館と言っても滅多に来館する人はいないはずですが、綺麗に掃除は行き届いているようだ。


「中は明日にでもゆっくり紹介しますね。母たちが待っていますので、まずは本邸へ向かいましょう」


「先生!写真撮ってもいいですか?」


「ええ、どうぞ。せっかくの夏合宿ですからね。記念にたくさん写真に残すのもいいですね」


「あ、私も」

「い、一眼レフ、持ってきた」ぐふ


「さすが栗ちゃん、気合入ってるね!」


 遠藤さんと里子さんはスマホで、栗林さんはバッグから取り出した一眼レフのデジカメを手に撮影しつつ歩くと、今回の合宿の目的である蔵の前にやってきた。


 笹錦家の家紋が掲げられ、白塗りの壁に瓦屋根の蔵が、石畳の歩道を挟むように左右に三棟ずつ計六棟並ぶのは、笹錦家繁栄の象徴とも言える光景ですが、子供のころは『大きな蔵』というイメージだったのが、大人になるとそれほど大きくは感じなくなっていた。


「蔵って六つもあるんですか!?」

「ここが因果の根源、まさしく聖地・・・遂に来ることができた・・・」

「お、おおおおお」カシャ!カシャ!カシャ!


「これだけあると、書物だけでもどれほどあるか分かりますよね。それでも私が子供のころからコツコツと整理したり、武具などは歴史資料館に移したので今はだいぶマシですけど、20年ほど前までは本当にごみとガラクタばかりの状態で、忍び込んでは母に『危ないでしょ!』とよく叱られたものです」ふふふ


「ジップロックに頼りたくもなりますね・・・」


「今、手元に鍵がないので、中は明日じっくり案内しますね」



 蔵からさらに歩いて生垣に囲まれた洋風の建屋の前にやってくると、ピンフが生垣の隙間から中へ入っていった。

 すると、「お、ピンフか?姉ちゃんが着いたのか」と、玄徳の声が聞こえてきた。

 

「ここは明治時代に建てられた迎賓館なんですが、多分、祖父と弟が居ますので、少し挨拶していきましょう」


 日傘を閉じて門をくぐり庭へ回ると、芝生のスペースにパラソルを立ててイスに座る祖父と、植木の手入れをしている玄徳が居た。


「お久しぶりです、お爺さま。ただいま帰りました」


「おお、真乃か!よく帰ってきた!元気そうじゃな!」


 今年で65の祖父は、立ち上がると背筋も真っすぐで背丈は私よりも高く、笹錦家の現役当主としての威厳と風格を感じるが、私を見た途端に表情を崩して好好爺になった。


「お爺さまもお元気そうで、なによりです。教え子も連れてきてますので、ご迷惑おかけしますが、五日間お世話になります」


「何を言っとるんじゃ!真乃の家だろうが!勤めに出るようになって疲れとるじゃろ?ゆっくり休め。こら玄徳!お前もこっちに来て挨拶せんか!」


「へいへい、姉ちゃんお帰り。生徒さんたちもゆっくりしていってね」


「こちらが笹錦の当主を務める祖父で、コキ使われているのが弟の玄徳です」


「あ、はい!よろしくお願いします!」ペコリ

「お世話になります」ペコリ

「よ、よろしくお願い、し、します」ペコリ


「遠いところをよく来なさった。さすが真乃の教え子たちじゃ。みな、利発そうな子ばかりじゃのう」


 生徒の手前、祖父に礼儀正しく挨拶したのに、玄徳は相変わらずマイペースだ。


 迎賓館を後にすると、三人がひそひそと話すのが聞こえてきた。


「先生の弟だけあってめっちゃイケメンだけど、先生に比べて扱いが・・・」

「兄弟そろって美形なのに、お姫様と使用人くらい差があったね」

「あ、跡取りなのに、す、スパルタ教育」ぐふ


 むしろ、跡取りだからこそ厳しく育てられているのですけどね。

 祖父も父も、同じように厳しく育てられたと聞いている。それが代々のしきたりであり、笹錦繁栄の秘訣でもあるのでしょう。







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