#06 姫様はせっかち
目の前に現れた四角い箱に両手を伸ばして掴むと、大きさの割に意外と軽かった。
これがサイコロという物なのですね。
水晶は、3回振って色々決めると言ってましたわ。
マノンはサイコロを両手で持ったまま頭上に掲げた。
「エイッ!」
「待つのだ!まだ説明が! あぁ」
水晶がなにか慌てていたが、マノンは気にすることなくサイコロを両手で放り投げた。
「はぁ、最初の出た目は6だな。って、慌てるな!」
「エイッ!」
「あぁ、待てと言っておるのに・・・次の目も6だな。って、だから待つのだ!」
「エイッ!」
「なんてせっかちなヒトなのだ・・・って、お?最後も6!滅びの魔女がマノン・シャルド・ヘンケ・ハインツ・ド・ササニシキ!そなた、凄いぞ!」
「3回振りましたわ。これで次の生が始まるのですね」
「いや、さっきから少し待てと言っておるだろうが。一旦落ち着くのだ」
「わたくしは、先ほどから落ち着いておりますわ」
「兎に角、まずはサイコロの結果から説明するぞ」
「はい。次の世はどのようなところなのでしょうか」
「6の世は、科学と宗教の世界だな。そなたの前世である魔術と宗教の世界よりも、文明が発達しておるぞ。ちなみに、新しい世界では魔術は無いから、古代秘術で国ごとぶっ飛ばすことは出来ぬからな」
「科学・・・聞いたことのない学術ですね」
「今は科学についての説明はせぬが、新たな生を受けたのちに自ら学んで身に付けよ。そして2回目の出た目も6。偶数だから新しい世でも女性と決まったからな」
「わたくし、魔女ですからね。女性じゃないとおかしな話でしょう」
「ふむ。そして3回目の出た目も6。6の運命は『古文の教師』なのだが、それとは別に6のゾロ目でフィーバーボーナスが発動されたのだ」
「コブンとかゾロメとか仰っていることが難しすぎて、ついていけそうにございませんわ。もう少し分かりやすく、説明して下さらないかしら」
「つまり、新たな世で生き抜くのに有利となる能力が、生を受けた時から身に付いている状態となるのだ」
「有利となる能力?それは具体的に、どのようなもので?」
「1や2のゾロ目なら身に着く能力の数も効果も大したことはなかったのだが、なにせ6のゾロ目だからな、このような事はこれまで幾千幾億の魂の裁定をしてきたが、初めてのことだ」
「そのようなことを仰られても、どれだけすごいことなのか、実感するのは無理ですわ。それよりも、その能力がどのようなものなのか、早く教えて下さいませ」
「相変わらずせっかちだな。まぁ良い。そなたに備わる能力は、全部で六つだ。1つ目は、声が綺麗。2つ目は、良い匂いがする。3つ目は、目が良い。4つ目は、手先が器用。5つ目が、料理上手で、6つ目が、床上手」
「それのどこがすごい能力なのですか?どれも微妙ではないですか」
「声が綺麗というのは、ヒトを魅了する力となる。同じ言葉や歌を唱えても、ダミ声では聞いた者の心には響かぬが、綺麗な声だとそれだけで惹き付けてしまう力となりうる」
「なるほど、そう言われれば、その通りですわね。2つ目はたしか良い匂いがするというものでしたか。それも同じ効果でしょうか?」
「ヒトにとって、匂いが重要なのは分かるか? 普段どんなに良い行いをしている者でも体臭が臭いというだけで、ヒトというのは嫌われてしまうこともある。また、ヒトの心理として、容姿のことよりも臭いのことを貶された方のが、精神的ダメージが大きいのもあるだろう」
「確かに、醜いと言われるよりも、臭いと言われるほうのがショックが大きいですわね」
「3つ目と4つ目は、そのままだな。目や手先が優れておれば、普段の生活や仕事をするなかで様々な面で役に立つであろう」
「残りの料理上手と床上手はなんですの?舐めてらっしゃるのかしら?こんなものよりも、病気にならない体や、人の心を読める力のほうが欲しかったですわ」
「そなたの前世は王家の姫であるから、分からぬのも無理はあるまい。料理上手と床上手。この2つを兼ね備えた女性は、無敵だぞ?あと、病気にならないとかヒトの心を読めるとか、流石にそれはズルすぎるので却下だ」
「無敵・・・無敵の滅びの魔女。なんだか面白くなってきましたわ」
「どうせなら、料理上手で床上手な滅びの魔女と呼んでも」
「それは却下ですわ。締まりませんもの」
「って、話が逸れ過ぎたわ!そなたと話しておると、調子が狂ってどうにもイカン」
「そうですわ。早く次の生へ行きますわ」
「本当にそなたはせっかちだな。まだ説明が残っておるのだ。新たな生を受けると、そなたの魂は次の世にて母体に宿ることとなる。つまり赤子として――――――――再び魂となった時に魂の記憶の封印は解かれるだろう」
「説明は、以上で終わりでしょうか?」
「なんだか反応が薄いの」
「話が長いですわ。気持ちがすでに新しい世へ向かおうとしているのに、先ほどからあなたが一々説明がどうのこうのと仰るから、気も滅入るというものですわ」
「文句も多いヒトだのう。まあよい。これにて準備は整ったから転生の儀式に入るぞ」
「ようやくですわね」
目の前に浮かぶ水晶がゆっくりと回転を始めた。
その回転の速度が徐々に上がると、頭上から教会の鐘の様な音が鳴り始める。
マノンは、その場で腰を下ろし、体操座りで転生の時を待った。
カンコーン、カンコーン、カンコーン、カンコーン、カンコーン
鳴り響く鐘の音が14回ほど聞いていると意識が微睡み、マノンは意識を手放した。
第一章 終
次回から、 第二章 現世での営みと再会




