#57 読書部のから騒ぎ
食堂は、お昼休憩よりも早い時間だったために空いていたので、先に食事を受け取ってから席の確保をすることにした。
夏期講習の五日間、読書部の三人に助手として手伝ってもらうことになり、その間はお昼を一緒に食べることにしていたので、今日はお弁当のおにぎりは作ってきていない。
実は、これまで何度も食堂で食事をしたことはあっても、食堂の食事を食べたことは無かったんですよね。理事長と学園長との懇親会でも、毎回おにぎりを持参して私一人だけおにぎりを食べてましたし、松金さんとご一緒した時も同じく持参したおにぎりでした。
そして、生徒と一緒に食事をすることもありませんでしたので、折角なので事前に申し合わせて、一緒に食堂の食事を頂くことにした。
しかし、読書部の三人と一緒に受取カウンターに並び、ホワイトボードに書かれた本日のメニューを確認すると、『カツカレー、マカロニサラダ』と書かれているではありませんか。
「こんな日に限って、カツカレーとは・・・」
「どうしたんですか?先生」
「実は、食堂の食事を食べるのは、この学園に赴任してから、今日が初めてなので楽しみにしていたのですが、一昨日ウチの愚弟が来ていたので、一人だと滅多に作らないカレーを大量に作りまして、一昨日と昨日の夕飯はカレーライスだったんですよ。そして家に帰れば、まだカレーが残っているという現実が・・・」
「なるほど・・・カレーライスの打率、確かに高いですね」
「ええ、中学時代の私が、何を考えてそのようなコメントを残したのか記憶が定かではありませんが、時を超えて今こうして身を持って体験するとは・・・まぁ、カレーの美味しさは、時代が変わっても不変の真理であるとの見方もできますので、良いのですけどね」
「か、カレーに飽きたら、そ、ソースかけます」ぐふ
「あ、私は生卵のせますよ」
「ウチでは、ご飯の代わりにうどんやパスタにカレーをかけますね」
「なるほど。皆さん、色々と工夫をされているのですね。それもまたカレーライスの打率の高さを裏付ける証しでしょうか。ソースならこの食堂でも調達できますので、栗林さんの味変案を試してみましょうか」
カツカレーとマカロニサラダを受け取ってトレイに乗せると、スプーンとソースも乗せて、ドリンクサーバーで冷たい緑茶も用意してから、隅のほうのテーブル席を確保した。
四人で手を合わせて「いただきます」をしてからソースをかけて、スプーンでひと口食べてみた。
「なるほど、確かに味変にソースは良いかもしれませんね。これは良いことを知りました。玉子やパスタも試す価値ありそうですね」モグモグ
「そ、ソースは、な、なんにでも、合います」ぐふ
「それにしても今日の先生、マジで気合入ってましたね!恰好良かったです!」モグモグ
「上田秋成からの挑戦という切り口は、予想できませんでした。さすがです」モグモグ
「受講してた人たちも『なにが始まるの!?』ってビックリしたでしょうね!」モグモグ
「こ、講義中なのに、パソコンのメールボックスに、た、たくさんメールきてました」モグモグ
「そういえば、質問メールのチェックもしなくては。また読書の時間が削られていく・・・」
「私たちも手伝いますよ。ここまできたからには乗りかかった船ですからね」モグモグ
「ごちそうさまでした。ではお言葉に甘えて、お手伝いをお願いしましょうか。食堂の食事も結構いけますね」
「え!?もう食べちゃったんですか!?」
「ええ、せっかちな性分なので」
「さ、サラダも全部、た、食べ終わってる」ぐふ
「っていうか!大事なこと思い出した!6本目!」
「そうですよ。むしろ、今日はそっちが本題ですよ。さぁ、6本目に宿ったソウルを教えて下さい」
「このまま逃げ切ろうとあえてその話題を避けていたのに、思い出してしまいましたか」
「講義とか写本の寄贈とかで恰好いいところ見せてくれて、せっかく先生のこと見直してたのに、大人の汚い裏の顔が垣間見えてますよ」
「そーだ!そーだ!」
「こ、ここで逃げるのは、ば、万死に値する」ぐふ
「そーだ!そーだ!」
「講義が終わったら教えると約束しましたから、仕方ありませんね。約束を違えては笹錦家の汚名になりますからね」
「そーだ!そーだ!」
そーだそーだしか言わなくなった遠藤さんが、少しうっとおしくなってきたのは、私だけでしょうか。
「では、どこから話しましょうか・・・あれはたしか、中間試験の最終日に古文が終わったあと、私のデスクには180名分の答案用紙の山がありました。時は金曜日のお昼。私だけでなく職員室では採点作業に追われる教職員たちの殺気が充満して、異様な雰囲気に包まれていました」




