#41 五人目の天命論者
この日の授業が終わると速やかに退勤し、待ち合わせ場所で里子さんと遠藤さんを拾ってから、学園から車で30分ほどのショッピングモールにあるカラオケボックスへ向かった。
これからの話し合いを図書室の書庫で話した場合、放課後だと司書の松金さんが居るため、「三人でこそこそなにしてたの?まさかウチの子が5人目の天命論者?」と怪しまれてしまう可能性があるので、学園の外で話すことにして、他人にも聞かれたくないのでカラオケボックスにした。
遠藤さんも連れて来たのは、これから話す内容が荒唐無稽で普通に考えれば私も里子さんも常軌を逸していると思われかねないので、冷静な視点で話を聞ける第三者として、同席してもらうことにした。
ちなみに、剣道部の小松さんは6限目まで授業に出て、放課後は部活動は休んで帰ることになった。お昼休憩の終わり間際、口外しないようお願いしたところ、「剣道部じゃタブーになってるし、他の子に話したところで『意味わかんない』って信じてもらえませんよ」と言って、口外しないと約束してくれた。
カラオケボックスへ到着すると、早速手続きを済ませ指定の部屋に入り、ドリンクを注文してから話を始めた。
「ではさっそく、始めましょうか。ここで話す内容は、口外しないようにお願いします。遠藤さんには信じられないような話が飛び出てくると思いますが、くれぐれもお願いします」
「はい、大丈夫です。前に里ちゃんが言ってた『因果』の話ですよね?」
「うん。笹錦先生にまつわる因果、それと、剣道部での事件と今日のお昼に再現した殺意に関する私の考察と結論」
「そうなんだ。なんだかわくわくしてきますね」うふふ
遠藤さんはなぜか楽しそうだ。冷静な第三者を任せて大丈夫なのだろうか。
「まず最初に、先生に確認なんですが、ウチの母からマノン姫の天命の話を聞いていますね?」
「ええ、学園に初出勤の日に図書室でお会いして、たしか下の名前を聞かれて、『真乃です。真実の真に、乃木坂の乃です』と自己紹介したら、『マノン姫の天命!?』と突然大声あげてましたね」
「私も母から、マノン姫の夢の話を何度も聞かされてました。そして私も、マノン姫の夢を何度も見たことがあります。母はマノン姫のフルネームをうろ覚えのようですが、私はマノン姫が『マノン・シャルド・ヘンケ・ハインツ・ド・ササニシキ』と名乗っていたことをしっかりと覚えています」
里子さんも、その名前を覚えていましたか。
「やっぱりそうだったのね。実はマノン姫の夢を見たと言う人はお母様で四人目、里子さんで五人目なんです。一人目はウチの母で二人目は大学の恩師、三人目は更科学園の更科理事長で、私はその方たちを天命論者と呼んでいます」
「四人も・・・みなさんが見たのはどんな夢だったんですか?」
「四人とも概ね同じ夢でしたよ。マノン姫がサイコロを楽しそうに振って、古文の教師が宿命だと決まるそうです」
「え?え?ちょっと待ってください。さっきからマノン姫って人の話ですよね?古文の教師?それって笹錦先生のこと?どういうことなんです?」
「それが『因果』に関わる話なんだけど、まずは話を先に進めさせて」
「う、うん。わかった」
「それで私が見た夢なんですが、母から聞いた夢の内容とは全く違うんです」
「え!?そうなの???今までの四人がみんな口を揃えてサイコロの話をするから、てっきり里子さんも同じ夢なんだとばかり」
「初めて見たときはすごく怖くなって、子供のころに読んだなにかの童話と母から聞かされていたマノン姫の話など潜在的な記憶が混ざって、夢として見ているのだと考えていたので、その夢が特別な意味を持っていることに気付きませんでした。ですが、笹錦先生が学園に赴任して、始業式の時に壇上で挨拶する姿を見て、『あの夢は、因果の流れを私に教えるためだったんだ』と確信しました」
因果の流れを教える?
思わぬ方向に話が進んで、私まで頭が混乱してきました。
「ササニシキという苗字の共通点もありましたが、それだけではない確信がありました。でも、なぜそこまで確信したのか自分でも分からなかったので、それを確かめたくて、笹錦先生を部活の顧問に誘って、笹錦先生のことをもっと知ることにしたんです」
「なるほど、そうだったんですね」
「でも、誤解しないでください。先生の授業で感銘を受けたのも本当だし、先生と一緒に読書部を立ち上げてからは、先生のおかげで楽しい部活動ができていると思ってます。下心があったことは否定しませんが、笹錦先生のことは本当に大好きだし、感謝してます。むしろ、そんな先生だったからこそ、私はどうしても笹錦先生と因果の関係を調べたかったんです」
「うんうん、私も先生のおかげだって感謝してます!」
「ありがとう。私もお二人には、とても感謝してますよ。お二人が居なかったら、今ごろは家庭科部の顧問になって、読書の時間を削られていたでしょうね」
里子さんに思惑があって私を読書部顧問に誘ったとしても、そんなことは私にとっては些末なこと。遠藤さんと里子さんに感謝しているのは私の本心ですし、今や読書部は、私にとってはかけがえのない放課後の居場所になっていた。
「それで、私の見た夢の具体的な内容なんですが」
そうでした。話はこれで終わりではない。
一番肝心なのは、私が竹刀や木刀を持つと無自覚に放った殺意と、里子さんの言う因果がどう関係しているのかだ。




