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滅びの魔女は、今日もおにぎりを頬張る  作者: バネ屋
第六章 因果の中の日常と殺意
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#40 天命論者から改めて聴取


 里子さんと放課後の約束をしてから、書庫を出た。

 小松さんはまだ回復できていない様子だったので、無理をしないよう保健室で休むなり部活は休むように伝え、二人が教室に戻っていくのを図書室で見送った。


 この日の5~6限目は私は授業が無かったので、そのまま図書室に残り、お昼休憩から戻ってきた天命論者の松金さんに話を聞くことにした。


「松金さん、お仕事中にすみませんが、天命の夢のお話をもう一度、詳しく聞かせていただけますか?」


「あら、笹錦先生からその話を聞いてくるなんて珍しい。今日は図書委員の子が仕事をほとんど片付けてくれてるから、いいですよ」


 カウンター内のイスを勧められたのでお邪魔して、さっそく夢の内容をイチから詳しく聞かせてもらった。


「20年以上前からだったかしら。同じ夢を何度も見るようになったのよ。ブロンドのとても美しい女の子が出てきて、自分のことをマノン・シャルド・なんちゃら・ササニシキって名乗って、毎回楽しそうにサイコロを振るの。名前は長くて覚えられないんだけど、マノンとササニシキと言ってたのはしっかり覚えてるわね」


 ここまでは、母から何度も聞かされた名前の由来となった夢の話とほぼ一緒だ。

 20年以上前というのも、もしかしたら、母が夢を見るようになったのと同じ時期かもしれない。

 そして、ウチの母は、そのマノン姫が名乗った『マノン・シャルド・ヘンケ・ハインツ・ド・ササニシキ』をフルネームで覚えていた。

 ササニシキと名乗ったことから、笹錦家の先祖に関係してるのではと疑い、蔵にあった家系図を調べたこともありましたが、笹錦家には外国人との婚姻などは一切無く、当時は夢を見た母が強引にこじつけるために、ササニシキの名前を出したのではと疑った。

 けど、松金さんの話と合致していることから、母のこじつけである可能性は無くなった。


「そのサイコロはバスケットボールくらいの大きさでね、不思議なことに三回振ると全て6なの。でも凄いことなのに、その女の子はなにが凄いのか理解してない様子で、誰と会話してるのかはよく分からなかったけど、サイコロで決まった古文の教師の宿命を果たすことで業の清算になるって説明されて、なんだかぶつくさ不満を漏らしてたわね。説明が長いとかなんとか」


「サイコロは三回振られたんですか?それも全て6のゾロ目?」


「ええ、そうよ。三回振って6のゾロ目の話はしたこと無かったかしら?」


「ええ、初めて聞きました」


 サイコロを三回振ったことも、結果が三回とも6だった話は、これまで母からも戸田教授からも更科理事長からも聞いたことはなかった。

 6のゾロ目、確率として考えると6×6×6で216分の1の確率。九鬼周造の言う離接的偶然の観点から考えると、あまりにも低い確率なので、偶然と言ってよいのか疑問に思えます。むしろ離接的偶然ではなく、運命や宿命に決められていた必然として6のゾロ目になったのではと疑ってしまう。そうでもないと、三回とも6だなんてありえない。


「あとは、教会の鐘のような音が鳴り始めると、その女の子は体操座りして眠ってしまうの」


「なるほど。ウチの母もマノン姫の夢を見て私に『真乃』と名付けたんですが、母から聞かされた夢の話と、内容が概ね一致しています」


「そうなのね・・・やっぱり笹錦先生には不思議な力が作用してるのかもね。それが本人ではなく、周りに影響してるんじゃないかしら?」


「本人では無く、周りに?うーん・・・」


 あまりにも非現実的な話ばかりで、いくら考えたところで分かるはずがなかった。


「ウチの母と知り合いだとか、過去に面識があるということは無いですよね?」


「笹錦先生のお母様と?」


「ええ、名前は笹錦五月さつきで、旧姓は秋山と言います」


「うーん、知らないわね。心当たりもないわね」


「念のために確認したかったんですが、やっぱりそうですか。ちなみに、マノン姫の夢の話を私に教えてくれたのは母と松金さん以外にも二人います。そして、もう一人増えるかもしれません」


「それで急に夢の話を聞きたがったのね。前に話した時は全然信じてくれなかったものね」


「ええ、今でも信じがたいのですが、5人目の天命論者候補が現れたことで、今までになく動揺しています」


 松金さんの娘である里子さんが5人目の天命論者の可能性があることは、まだ確定していませんし、松金さんの態度や話からは、里子さんも天命の夢の話を知っていることに気付いてなさそう。それに、里子さん自身が夢を見たのではなく母親から聞いただけの可能性もあるので、疑うわけではありませんが、現時点では黙っておいた。

 そして、里子さんに話を聞く前に松金さんに話を聞いたのも、あとで二人の話の齟齬や共通点などを検証するためだった。


「ところで、天命論者ってマノン姫の天命を信じてる人のことかしら?」


「ええ、私が勝手にそう呼んでいるんですけどね」


「なんだか、宗教裁判の異端者みたいね」


「異端者というよりも、狂信的な信者に見えますよ?」


「ほら!やっぱり信じてないんでしょ!マノン姫の天命は笹錦先生の宿命なんです!笹錦先生は古文の教師の役目を果たして業の清算をしなくてはいけないんです!」


 しまった。

 またスイッチが入ってしまった。


 どうして天命論者の方々は、こうもすぐにムキになるのでしょう。

 だから、本当は天命の話はしたくないのですよね。





 


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