#39 再演による検証
念のために里子さんと小松さんにお昼ご飯は済ませたのか確認すると、今日は私に相談するために早弁したということなので、お昼休憩の時間中に検証を済ませるために、すみやかに職員室から移動することに。
私としては、他の生徒に見られても気にするほどのことは無いし、武道場は遠いので、どこか近くの空き教室かグラウンドや中庭でも良いかと確認すると、小松さんから「他の生徒には見せるべきじゃありません」と強く言われたので、読書部設立時の密談に使用した図書室の書庫へ向かうことにした。
図書室では、里子さんの母親であり司書の松金さんは、この時間は図書委員に任せて休憩中のため不在だったので、図書委員の生徒さんに「書庫を使いますね」とひと言断って3人で入り内側から施錠すると、小松さんは竹刀袋から中身を取り出した。
てっきり竹刀が入っているかと思ってましたが、小松さんが取り出したのは木刀だった。「素振りで腕力を鍛えるのに使ってる木刀なんです」というその木刀は、見ただけで、使い込まれた年季が分かるほどの物だった。
それを受け取ると、確かにずっしりと重く、これを持って構えるだけでも腕に負担がかかりそうで、素振りならなおのこと腕力を鍛えられそうだが、文系女子には縁のない代物で、実際に手に持つのは初めての経験だ。
「あの時、牧田先生が『木刀や真剣ならなおのことダメです』って言ってたので、あえて木刀を用意してみました」
「なるほど。それでは時間もありませんので、さっそく構えてみますね」
「はい、お願いします」
里子さんと小松さんの二人は部屋の隅にパイプイスを置いて座ったので、二人と対面するように立つと、両手で木刀を握った瞬間、竹刀を初めて握った時と同じような既視感を覚えた。
「え・・・これは・・・」
「うう・・・やっぱり凄い・・・」
私が木刀を握っただけで、二人は顔色が悪くなり、怯えた表情を浮かべた。
小松さんはまだしも、里子さんはこんな時に冗談を言ったり演技をするタイプではないので、なにかが見えているのだろう。
「確か、あの時はこんな構えでしたっけ」
棒立ちで木刀を両手で握ったまま、剣先を真っ直ぐ横にして構えてみた。
「・・・」
「間近で見ると、き、きつい・・・」
里子さんは黙ってしまい、小松さんは両手で自分の体を抱きしめるようにして、さらに怯えている。
そんな二人の反応がなんだかおもしろくなってしまい、「エイ!」と掛け声と共に両手で握った木刀を真っ直ぐ横に振り払った。
すると、木刀の先が棚のフレームにガツン!と当たり、その衝撃で木刀を手離してしまった。
「痛ッ」
カランコロンと音を立てて床に落ちた木刀。
衝撃による痛みで手を抑える私。
眼鏡の奥で目を見開き、唇を震わせながら私を見つめる里子さん。
パイプイスから落ちそうになり、体を震わせつつ首を左右に振り続ける小松さん。
あの剣道部の見学の時と同じように、狭い室内が異様な空気に包まれた。
借り物を床に落としてしまったことに気付いて慌てて拾い、「落としてしまってすみません。キズがついてしまったかも」と謝ると、小松さんは「い、いえ、そ、そそれは、だ、だだいじょうぶでしゅ」と震えが収まらない様子で、呂律も回らないようだった。
そんな小松さんとは対照的に、里子さんは平常心を取り戻したのか、眼鏡をクイッと上げながら、話し始めた。
「あの、笹錦先生。色々話したいことがあるのですが、お昼休憩の時間が終わりそうなので、今日の放課後でも良いですか?」
「ええ、もちろん。でも1つだけ教えてもらえますか?お二人が怯えるような怖い顔はしていないはずですが、木刀を持った私からなにが見えましたか?」
「う・・・」
小松さんは、感情を上手く言葉に出来ないのか、口を噤んでしまった。
代わりに、里子さんが教えてくれた。
「殺意ですね。それも非常に強い。でも悪意は感じませんでした」
「そ、そういえば、あの時も、牧田先生は『殺気』って・・・」
「悪意の無い殺意?私が?お昼のおにぎりを2つから3つに増やそうか悩んでいる、平凡な高校教師なのに?」
「はい。だからこそ自覚できていないし、悪意も無いのでしょう。この件に関してはもっと詳しくお話したいのですが、放課後にします。ただ、今もう一つ話せることは、天命の因果に関わる話です」
「う、また天命ですか・・・って!里子さんも天命論者なの!?」




