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滅びの魔女は、今日もおにぎりを頬張る  作者: バネ屋
第六章 因果の中の日常と殺意
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#37 社会の荒波


 6月の中頃。梅雨に入り、じめじめとした日が続いていた。

 この日の放課後は、遠藤さんからクラス長の仕事(生徒会の会合)があるとかで部活は欠席と聞いていたので、ひと足先に図書室へ行き、いつものように窓際の6人掛けテーブルに一人で座って、九鬼周造の『偶然性の問題』を読みながら、離接的偶然について考えていた。


 ふと顔をあげて時計を見ると、私が図書室に来てから30分ほど経過していたが、里子さんはまだ来ていなかった。

 里子さんも休むとは聞いていませんが、遠藤さんが休みだから部活はお休みということだろうか。特に連絡はありませんでしたが、スマホで連絡先を交換しているわけではないし、教師の私に連絡しようとすると、職員室まで来なくてはいけないので、面倒だったのだろうか。

 まぁ、私だって仕事が忙しいとなにも連絡せずに欠席してましたし、サボりくらいで目くじら立てるつもりはないですけどね。


 と、のんきに一人で部活動をしていると、ピンポンパンポ~ン♪と校内放送が流れた。


『笹錦先生、至急会議室まで来てください。繰り返します。笹錦先生、至急会議室まで来てください。美化委員の会合が始まってますよ!』


 え!?うそでしょ!?

 美化委員って、今日でしたっけ!?


 あー!先日もらった資料のプリント、裏に書いた俳句がセンス無いって言われて、丸めて捨ててしまった!あれに日程が書いてあったのですね!?

 読みかけの本を棚に戻す時間が惜しくて、カウンターの松金さんに「あとで借りに来ます!」と預け、図書室を飛び出し、全力疾走で会議室に向かった。


 ガラガラガラと会議室の扉を開けて飛び込むと、その勢いのまま謝罪した。


「遅くなってすみません!」ゼェハァゼェハァ


「あの、顧問の先生に遅刻されると困るんですが」


「す、すみません・・・芭蕉先生がプリントに・・・いえ、なんでもありません」ハァハァ


 美化委員の委員長と思われる3年生に注意されて、思わず芭蕉先生のせいにしようとしてしまいましたが、言い訳など笹錦家の人間としてあるまじき行為だと思いとどまり、大人しく隅っこの席に着席した。


 もう少しで、恥の上塗りをするところでした。

 それにしても、父から『焦りや動揺を知らない肝の据わった子』だと言われた私ですが、この学園に赴任してからは失態ばかりしているおかげで、人並みに焦りも動揺もするように。これが社会の荒波に揉まれるということなのでしょうね。


 息を整え、平常心を装うために、今更おすましした表情を取り繕い、正面のホワイトボードを確認すると、校内の清掃についての会議をしている最中のようだった。

 美化というくらいですので、校内の清掃や美観に関する管理運営するのが、美化委員の役目という事なのでしょう。顧問の私はなにをすれば良いのかよく分かりませんけど。


 会合の状況を把握できたところで出席メンバーへ視線を向けると、里子さん!居るじゃないですか!

 どうして教えてくれなかったの!?

 顧問なのに遅刻して、すっごく恥ずかしかったんですよ!

 と、恨めしい視線を送ると、私の視線に気づいた里子さんは、やれやれとでも言いたげにため息を吐いた。


 読書部の中でも里子さんは冷静沈着で、物事を俯瞰して見るタイプなので、ブレーン的な役割を担っている。読書するだけの部活動において、その能力を発揮する場面は無いように見えますが、部長である遠藤さんが感覚と衝動で動くタイプなので、上手くサポート役として機能しており、非常にバランスが取れたコンビだと思う。

 そんな里子さんですが、私に対しても『読書部顧問であることは、オープンにしないように』『派手な行動は控える様に』などなど、いくつものアドバイス?をくれるので、私も知らず知らずのうちに頼りにするようになっていたと思う。


 しかし、絶賛社会の荒波に揉まれ中の教職の私が、生徒を頼りにばかりするのは教師として、大人として、そして笹錦家の人間として、いかがなものだろうか。

 これも、最近甘ったれていた自分への、気付きと戒めの機会ということかもしれない。


「では最後に、顧問の笹錦先生から一言お願いします」


 し、しまった・・・

 脳内で反省会をしていたせいで、会議の内容を全く聞いていなかった。

 いきなり締めの言葉を振られても、何を言えというの・・・


 動揺を悟られないようにおすましした表情のまま立ちあがり、出席者をぐるりと見渡した。


 視線が痛い。

 でも、ここで狼狽えては教師として、大人として、笹錦家の人間として恥の上塗り。

 気持ちを無理やり奮い立たせると、背筋を伸ばして声のトーンを意識して話し始めた。


「みなさん、ご苦労さまです。梅雨に入り雨の日が続いておりますので、どうしても校内やグラウンドなど、雨で汚れてしまいます。こういう時こそ、学園の美観を維持するのが美化委員としての役目だと思いますので、みなさん一致協力して、委員会活動に取り組んでください」


「はい、では今日の会合は終わります。次回は7月の夏休み前になりますので、遅刻、しないように、よろしくお願いします。お疲れさまでした」


 う・・・委員長さん、私の遅刻、根に持ってますね。


 解散してから委員長さんに改めて遅刻を謝罪して廊下へ出ると、里子さんが待っていた。


「里子さん、美化委員があるのなら、一言くらい教えてくれたって」


「顧問の先生が、忘れてるなんて思わないですよ」


「まぁそうなんですけどね・・・あのプリント、遠藤さんから俳句のセンスが無いと言われて、むしゃくしゃして丸めて捨ててしまったのですよ」


「はぁ・・・、そんなことだろうと思いました。さっきの締めの挨拶も、いきなり振られてなにも考えずに適当に言ってましたよね?」


「な、なぜ、それを!?」

 バ、バレてる!?


 社会の荒波って、容赦がなくて厳しいです。






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