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滅びの魔女は、今日もおにぎりを頬張る  作者: バネ屋
第六章 因果の中の日常と殺意
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#36 芭蕉すら到達できなかった真理


 一句できました。


『恋知らず 愛も知らずに 二十過ぎ』 笹錦真乃


 いまは図書室にて、読書部の部活中。部員である遠藤さんと里子さんは読書中で静かだ。

 そんな静寂の中、ふと思い立って、職員室で渡された美化委員に関するプリントの裏に一句詠んでみた。


 仕事と趣味に生きる20代の、うら若き乙女のもの悲しさを句にした。

 別にいいんですけどね、恋がお腹を満たしてくれるわけではありませんしね。

 あ、もう一句浮かびそう。


『恋愛が 腹を満たして くれるわけじゃない』


 う~ん、字余り


『恋愛は 腹を満たして くれません』


 うむ、真理ですね。

 松尾芭蕉先生ですら、この真理までは到達してませんでしたからね。

 我ながら、自分の俳句センスが怖くなります。

 いえ、これは芭蕉先生的な情緒というよりも、小林一茶先生的なコミカルさでしょうか。

 私も30代になったら、俳句集でも作ろうかしら。

 タイトルは『奥の笹錦』もしくは『真乃が春』

 文系女子ですからね。形からですよ。ふふふ


「先生、仕事してるんですか?部活に仕事を持ち込むなんて、先生らしくないですね」


 10年後の国語教師と俳人の二足の草鞋を履く自分の姿を妄想していると、部長の遠藤さんが声をかけてきた。

 

「いえ、20代のうら若き乙女としてのうっぷんを俳句にぶつけて、文学的な観点からヒトの真理に到達していたところです」


「え?先生、俳句やるんですか?」


「こう見えても国語教師のはしくれです。俳句の一つや二つ、嗜みますよ」


「見せてください。え~っと・・・ああ、うん。先生も文系インドア女子ですもんね」


 あれ? 

 私いま、生徒に同情されている?


「違うんですよ。私は、モテないわけでもモテたいわけでもなく、ただ興味がないだけなんです」


「別になにも言ってませんよ?私たちと同じ本の虫ですもんね、って話です」


「ええ、まぁそうなんですけど、なんだか同情されていた気がして」


 もし、紫式部が現代にタイムスリップしてきて今の私を見たら、『いとほしき人(かわいそうな人)』とでも言うのだろうか。


 式部さん、違うのですよ。

 教師になってからはさっぱりですけど、学生時代までは次から次へと殿方から求愛だの求婚だの星の数ほど凄まじかったんですよ。

 真乃が歩けば棒に当たるというくらい、振り向く殿方は数知れず。

 学校の下駄箱は郵便ポストかと思うほど、恋文の山で。

 だから私は、モテないわけでもモテたいわけでもなく


「そう言えば、先生?」


「興味がないだけなんです、って、はい?なんでしょうか?」


 今度は、眼鏡の奥の視線を真っ直ぐに向けた里子さんが、声をかけてきた。


「剣道部の友達が『笹錦先生って普段は穏やかなのに、たまにすごく怖い時ない?』って言ってたんですけど、剣道部でなにかあったんですか?」


「あ、そういえば、ウチのクラスの最初のホームルームの時も、小泉君と阿部君にセクハラですって怒ってて、ちょっと怖かったかも」


 むむ

 また急に、過去をほじくりかえして。

 里子さんは1組だから、剣道部で1組と言えば、小松さんかな。


「急にどうしました?私は普段から怒ったりしませんよ。3組のホームルームでは、セクシャルハラスメントの事実を指摘して注意しただけですからね。ですが、剣道部の件は私にもよく分かりません。竹刀を持って構えたら、牧田先生と部員の皆さんが平伏し始めたんです。あれはなんだったんでしょうね」


「笹錦先生が竹刀で構えたんですか?」


「ええ、そうですけど、フラッシュモブかなにかの演出だったんでしょうかね?野生の体育教師は、じゃなくて、野生の牧田先生は私たちとは異なる生態系ですから、生物学的にまだまだ解明されていない謎が多いんですよね」


「野生の体育教師の生態系って、ポケモンみたい」ぷぷぷ


「そうですか・・・少し気になることがあるので、調べてみます」


 野生の体育教師がツボにはまって肩を震わせている遠藤さんとは違い、里子さんはなにか気になるのか、なにかを思案する表情を浮かべている。


 まさか、野生の体育教師の生態調査でもするつもりなの!?

 まぁ、そんなわけありませんよね。剣道部での事件の調査をしてくれるのなら、私も気になっていたので、里子さんに任せたほうがいいでしょう。



「ところで、あと10年もして30代になったら、俳句集でも作ろうかと考えているんですが、タイトルは『真乃が春』なんてどうでしょう?もしくは『奥の笹錦』?」


「ええ、まぁ、その・・・正直に言っちゃいますけど、先生、国語の教師のわりに、俳句のセンスはイマイチですよ」


「え!?芭蕉先生ですら到達できなかった真理に辿り着いているのに!?」


「いや、松尾芭蕉はお腹の心配はしてませんから」




 



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