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滅びの魔女は、今日もおにぎりを頬張る  作者: バネ屋
第六章 因果の中の日常と殺意
35/96

#35 日常に溶け込む読書部


 5月の終わりには各クラスでは中間試験の答案用紙も全て返却されて、生徒も職員も落ち着きを取り戻し、6月に入ると制服の衣替えもあり、学園の雰囲気も緩んできた。


 GWの終わりに設立した読書部も本格的に活動を始め、私もようやく顧問として合流した。

 ですが、読書部設立当初は秘密にしていたし、本格的に活動を開始したと言っても活動内容は読書をするだけですので、誰も私たちのことを読書部とは認識していないようだ。

 図書室では読書部だけでなく、もちろん一般の生徒も多数出入りしている。

 勉強をするために、空調の効いた静かな環境を求めて来る生徒もいれば、本を借りに来る生徒もいて、どの生徒も常連ばかり。

 私も4月当初から入り浸っている常連ですし、元から本の虫の遠藤さんと里子さんも図書室に居ても、誰も不思議に思いません。司書の松金さんですら、未だに「最近ウチの子、図書室によく来るけど、笹錦先生に会いに来てるのかしら?」くらいの認識だ。


 つまり、読書部を立ち上げ、図書室で部活動(読書)をしていても、それが部活動には見えないほど日常に溶け込んでいる。そしてこれこそが、読書部立ち上げ時にお二人が言っていた、『本に囲まれた静かな環境で活字の海に浸る』であり、上手くカモフラージュ出来ているということ。


 余談ですが、私の作った2年生の古文の中間試験では、部長の遠藤さんは99点、副部長の里子さんに関しては100点満点。さすが本の虫を自称するお二人で、情景描写の作文問題に関しては、ほぼパーフェクトでした。


 では、読書部を設立して、何か変わったのか?

 教師として、顧問として、何かしているのか?


 もし、こんなことを聞かれたら、こう答えるでしょう。


 何も変えたくないから、読書部なんです。

 何もしなくてよいから、読書部なんです。


 古文の授業や試験では独自路線を突き進む異端者でも、それ以外は何も変化を望んでいないし、平穏に暮らしたいだけの地味な文系インドア女子ですからね。



 私たち読書部の三人は、いつも図書室の窓際の6人掛けのテーブル席に座って静かに過ごす。お互いが読書の邪魔をしないのが図書室のマナーでもあり、読書部の暗黙のルールでもある。

 そんな中、私が鴨長明の『発心集』の文庫本を熟読していると、向かいに座っている里子さんが不意に声をかけてきた。


「ところで先生」


「はい、なんでしょう?」


 暗黙のルールを破って声をかけてくるのだから、よほどの用件なのだろうと、読んでいたページに指を挟んで顔をあげて返事をすると、里子さんの隣に座る遠藤さんも読書を中断して顔をあげた。


「先生って、他の男性職員に告白されたりしてるんですか?」


「はぁ!?」

「ぶっ」


 突然の予想外の質問に思わず声をあげると、遠藤さんも予想外だったらしく噴き出した。


「なぜ急にそんなことを知りたいのッ!?」


「先生!声!抑えて!」


 注意されて周りへ視線を向けると、学習中の生徒の何人かが「なにごと?」と言いたげな視線をこちらに向けていたので、「すみません、お騒がせしました」と頭を下げると、各々学習に戻ってくれた。

 父から『焦りや緊張を知らない肝の据わった子』と言われた私ですが、不意打ちすぎて動揺してしまい、指を挟んでいたはずの文庫本を落としそうになっていた。


 ひとまず読書は諦めて、文庫本を閉じてテーブルに置き、動揺を鎮めてから里子さんの話を聞くことにした。


「先生って清楚で凄く綺麗で、いつも微笑み絶やさなくて、話し方とかも丁寧で品があって、雰囲気だけは凛としたお嬢様って感じじゃないですか?雰囲気だけは」


 なぜ『雰囲気だけは』を二回繰り返した。


「絶対男性受け良いし、ウチみたいな独身の男性職員が多い学校に、先生みたいな人が来たらほっとかないだろうな、と思って」


「なるほど・・・」


 里子さんも年頃の女子高生ですからね。口では文系インドア女子と言っても、恋愛に興味があるのかしら。隣に座っている遠藤さんも気になるのか、興味津々といった視線を私にむけて、何か答えるのを待っている様子だ。


「うーん、そういえば、赴任してからは、一度もデートのお誘いも求愛されたこともありませんね」


 実際にあったのなら生徒に話すのはまずいでしょうけど、本当に無いので正直に話した。夜のバスターミナルで体育教師から熱血告白されましたが、あれは白米の話でしたしね。

 でも、大学卒業までのことを考えると、今更ですが、不自然なほど異性からのアプローチが無くなっていた。


「ちなみに、そういった方がすでにいるということは?」


「いないですよ。恋人いない歴イコール年齢ですから」


「え!?そうなんですか???」


 今度は、これまで黙って聞いていた遠藤さんが前のめりになって聞いてきた。


「話せば長くなりますが、幼少期から恋愛事に興味が全くないんですよ。ちなみに同性愛者でもありませんからね」


「すごくモテそうなのに、意外ですね」


「ええ、まぁ。ところで、どうして急にそんな話を?」


「あ、えっと、興味本位というのもあるんですが、クラスの子から恋愛相談されたんですけど、私は恋愛経験ないし、涼ちゃんに相談したくても涼ちゃんも恋愛経験ないから、それなら先生にと思ったんですけど、相談する前に、実際どれくらい恋愛経験があるのか聞きたかったんです」


「なるほど・・・私の恋愛知識って本で得た知識程度ですし、そもそも恋愛ものは読まないので、せいぜい『源氏物語』くらいですよ?」


「それは結構ヤバイですね」


「うん、ヤバくて笑えないですね」


「・・・」


 二人とも、何とも言えない表情を浮かべている。

 成人しているうら若き教師が、生徒に心配されるほどヤバイ恋愛知識しかなくて、ごめんなさいね!







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