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滅びの魔女は、今日もおにぎりを頬張る  作者: バネ屋
第五章 理想と現実の同居
34/95

#34 理想を掲げる者の責任


 採点作業を始めた頃は1枚あたり5分かかっていたのが、せっかちなおかげか、最終的には3分以内まで短縮できて、日曜日の午後には2年生全180名分の採点が終わった。

 けど、それで終わりではない。採点結果の集計と報告のためにパソコンでExcelのクラス別名簿に各自点数を入力して、それが終わると入力ミスがないか何度もチェックし、最後に学年集計担当の小門先生へメールで送信して、ようやく採点作業が終わった。


 学年平均が65.5点、満点が6名で赤点はゼロ。文系クラス(1~3組)で見ると、平均70.5点、理系クラス(4~5組)では58.0点。文系と理系で差がつくのは仕方のないことだけど、理系ですら赤点ゼロで平均58はかなり頑張ってくれたように思う。

 やはり、この学園は全体的に勉強熱心な生徒が多く、他の科目でも高い平均だったようで、その中でも古文は健闘したと言える結果だった。

 しかし問題なのは、中身。この一学期は私にとっても教師としてカリキュラムを初めて組み立て、今回の中間試験は自分が取り組んできた授業の成果が可視化されたものだった。

 赤点は居なかったし学年平均が良かったから『今まで通りでOK』と言うわけにはいかない。私はセオリーを捨てて独自のカリキュラムを組んでいるのだから、失敗(生徒の学力低下)は許されない。だから、問題点を洗い出して、改善し続ける必要がある。


 私なりの分析では、文系クラスでは文法問題と現代語訳は出来ていたが、情景描写の作文問題は個人差が大きく出ていた。従来の暗記問題は全体的に強いが、思考と即興性を求められる作文問題は得手不得手の差が出たのだろう。逆に理系クラスでは、暗記問題は弱く、作文問題の方はむしろ文系クラスよりも全体的に良くできていた。

 理系クラスの結果から、1つの仮説を立ててみた。理系では古文は受験科目ではない。だから、古文に対して力を入れる必要はなく、暗記問題の学習は疎かになる。けど、受験科目でないため、かえって授業でも試験でも肩の力を抜いて取り組めるので、思考と即興性を求められる情景描写の作文問題は授業で学んだことを活かせて好成績になったのではないだろうか。

 そして、文系クラスはその逆が言える。受験科目なので、従来の受験対策としての暗記問題に力を入れてしまうので、授業で学んだことが試験での作文問題に活かせなかった生徒が多数いたのではないだろうか。

 この仮説から言えるのは、つまり文系クラスでは、従来の詰め込み式の勉強から脱却できていないことになる。暗記問題にばかりに囚われてほしくなくて古語辞典の持ち込み可にして取り組みましたが、それだけでは不十分だったということでしょうか。


 ですが、良くも悪くも、私の取り組みの成果の1つです。ここまでの授業での取り組みと中間試験の内容と結果、自分で立てた仮説を整理したものをレポートにして、古文の教科担当の先輩である杉浦先生と水戸先生に見てもらうことにした。


「ええ!?もう総括までしちゃったの???」


「みんなようやく採点が終わって、ひと息ついてダラけてるのに。笹錦先生は仕事熱心だね」


「いや水戸先生、笹錦先生は先輩の僕に試験問題作らせようとしたくらいですから、仕事熱心ってわけじゃないかと」


「休憩されてたのにすみません。一度気になりだすとじっとしていられない性分で、どう思うかご意見を聞きたくなってしまいました」


「うーん、授業のことは聞いてたから、大胆なことする人だとは思っていたけど、試験問題も大胆だね」


「そうなんですよね。大学受験を考えると、僕には真似できません」


「私もそうですね。でも、このレポートの仮説には頷ける点もあるし、古語辞典を道具として使いこなすとか、感性を強化して古典の魅力を掘り下げることで苦手意識を無くしていくとか、方向性としては悪くないと思いますよ」


「そうですか。でも、まだ手探りな状態なので、絵に描いた餅になっていませんか?」


「そんなことないでしょ。だって、赤点ゼロで平均点も65点以上だったじゃないですか」


「そうそう。2年の古文って受験までまだ時間があるって油断する生徒が多いから、去年まではもっと低かったんだよ」


「笹錦先生はこの結果にまだ満足できてないようだけど、初めての授業と試験としては上出来だと思いますよ」


「僕に「2年の試験問題もつくってみません?」って言い出した時は、「大丈夫かよ!?」って心配だったけど、生徒のことを信じて頑張った結果が出て良かったじゃない」


「はい。お二人にそう言っていただけて、少し安心しました」


 こうして反省点と課題を残しつつも、先輩方に認めていただくこともできて、教師としての初めての定期試験を終えることが出来た。


 今夜はゆっくり寝られそうです。




 第五章 終

 次回から、第六章 因果の中の日常と殺意





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