表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
滅びの魔女は、今日もおにぎりを頬張る  作者: バネ屋
第五章 理想と現実の同居
31/96

#31 新米教師の迷案


 子供の頃は良かった。

 蔵に篭って何時間でも書物を読んでいられた。よく母には怒られたけど、トイトイを膝に乗せて読むカビ臭い書物は私の欲求を満たしてくれた。


 でも

 世の中、好きなことだけしていても生きてはいけないのですよね。高校に行って大学に進学したのも、この現代社会を生きていくために必要なことだった。教師になったのもきっとそう・・・。


 でも

 あー本を読みたい。

 文字の海に溺れたい。

 活字が私を呼んでいる、気がする。


 子供の頃は良かった。

 本を読んでるだけでご飯が出てきたし、学校の勉強だってテストで良い点さえ取っていれば誰にも文句を言われなかった。

 なのに今は、そのテストを作らなくてはいけないだなんて。


 GWが終わって授業が再開すると、中間試験へ向けて準備が始まった。

 私個人としては授業で生徒に古文を教えながら古典文学の研究(趣味の読書とも言う)を存分に満喫する生活が楽しくて、試験の為の問題作りなど楽しくない。でも高等学校の教師になったからにはそれは義務なので致し方ない。


 でも

 あー本を読みたい。

 高校の教師がこんなに忙しいとは思っていなかった。

 猫の手も借りたいくらいです。

 でも、ウチのピンフは何もしてくれない。

 ピンフじゃなくて、もっとこう有能な感じの。


 あ、良いことを思いつきました。

 ウチの学校でも分業制を取り入れるというのはどうだろうか。

 私は授業を担当して、試験作成や採点を担当する教員をあらたに雇う。

 こうすれば、私は好きな授業と読書だけして生活できる。

 うん、名案だ。今度理事長に提言してみましょう。天命論者の更科理事長なら、きっと「早速試験専門の教員を雇いましょう!これもきっと天命でしょう!」と言ってくれる、はずです。


 ◇


 それでさっそく、5月最初の理事長と学園長との懇親会で提言してみた。


「といった感じで、我が校でも分業制を取り入れてみてはいかがでしょうか?」


「なるほど。では早速理事会に――」

「なにバカなことを言ってるんですか。新任1年目でそんな横着認めるわけないでしょ。しかもまだ5月ですよ?赴任してひと月そこそこでどれだけ大胆なんですか。だいたい理事長も理事会も笹錦先生に甘すぎなんです。他の教職員に示しがつきませんよ」


 理事長を篭絡できたと思ったのに、学園長からあっさり却下されてしまった。


「ですよね。ダメもとで言ってみました。でも、どうして学校ってテストがあるんでしょうね。いっそのこと、テスト制度を廃止するのはどうでしょうか?」


「あなたはそのテストがあったおかげで国立大学まで進んで、古典文学の研究で優秀な成績を収めて教員資格も取得出来たんでしょ?ご自分のアイデンティティすら否定するんですか?」


「私のアイデンティティはササニシキですけど?あ、学園長にも是非食べて頂きたいので、今度用意しますね。実家に頼めばいくらでも送ってくれますので」


「はぁ・・・笹錦先生は素晴らしい授業をされるのに、普段はどうしてこうフリーダムなんですか?色々噂を聞いてますよ?合唱部に混ざって熱唱してたとか、剣道部で道場破りしたとか、これ以上村上教頭の地毛が少なくなったらどうするんですか」


 学園長は盛大な溜息を吐いて、小言を言い始めた。

 

「組織のトップに立つのも、中間管理職も、気苦労が絶えなくて大変そうですね」


「なに他人事みたいに言ってるんですか」


「まぁまぁ、村上君の毛髪問題はさておき、実際のところ、笹錦先生のことだから、中間試験でもなにかお考えなのでは?」


「ええ、一応は」


「ほら!武田君!笹錦先生もアホなことばかり言ってるわけじゃないんだよ!きちんと試験のことも考えてるんですよ!」


 あ、いま理事長、私のこと、アホって言った。先ほどは賛成してたのに。お調子者め。


「本当に大丈夫ですか?試験問題の作成に関しては、杉浦先生や水戸先生にも相談してアドバイスをもらうなり、過去問題を参考にするなりしてくださいよ?」


「はい、わかりました。あ、お茶のお代わりもらってきますね。理事長と学園長もお代わりいりますか?」


「ええ、お願いします」

「なら私はコーヒーを」


 小間使いも仕事のうちです。なんだかんだ言っても、この学園の職員では一番下っ端ですからね。別に、学園トップの二人の相手が面倒になって、逃げたわけじゃありませんよ?


 そういえば、この仲良しアピールを目的とした懇親会はいつまで続けるつもりなのだろうか。最近は学園長の小言が多くなってきたから、そろそろ解放してほしいのですが。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ