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滅びの魔女は、今日もおにぎりを頬張る  作者: バネ屋
第四章 文化的アプローチと因果
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#30 文系オタクが集まれば


 これまで優柔不断とは無縁な人生を歩んできた私が、部活動の顧問に関しては珍しく頭を悩ませ色々と迷っていましたが、落ち着くべき場所に落ち着く結果となった。冷静に考えれば、私が女子力を発揮したところで、豚に真珠で宝の持ち腐れですからね。

 そして、その場所を提案してくれた遠藤涼子さんと松金里子さんのお二人からは、改めてこの件に関して、当分は秘密にするように注意をうけた。それも生徒だけではなく、村上教頭以外の教職員や司書の松金さんにすら秘密にすることを念押しされた。村上教頭に関しては、手続きの都合上、秘密には出来ませんからね。


「特に、ウチの母には絶対に知られてはいけません。綿菓子並みに口が軽いので」


 里子さんは人差し指で眼鏡をクイッと上げ、冷静な口調だ。


「了解しました。でも、どうしてそこまで秘密にする必要が?」


「私たちが求める読書って、『本に囲まれた静かな環境で活字の海に浸る』ことじゃないですか。だけど、読書部の顧問が笹錦先生だって知られたら、間違いなく笹錦先生目当ての入部希望者が殺到して、静かな環境どころじゃなくなります」


 そう説明してくれた遠藤さんは、少し前のめり気味だ。


「私目当て?確かに異性からのアプローチは嫌というほど心当たりがありますが、ここは学校で私は教師ですよ?」


「思春期の男子高校生を甘く見たらダメですよ。それに、女子の中にも笹錦先生のことを『真乃様』とか言ってる信者もいるくらいなんですから」


「そういえば、書道部の見学したときにそんな女子生徒いましたね」


「ほら!下手したら、笹錦先生の顧問の話が読書部に妨害されたとか、書道部から逆恨みされかねませんよ!」


「顧問くらいで恨むだなんて、怖いですね。まるで江戸時代の怪談話では。あ、でも、江戸時代には怪談話や仇討の物語が流行して多くの古典文学が生まれましたが、この学園でも1つや2つ作れそうですね。タイトルは『更科伽草子』なんてどうでしょう?」


「先生、全然危機感ないですよね??」


「危機感ならありますよ?真乃様と呼ばれた時は、軽く寒気がしましたから」


「どうせ物語を書くなら、笹錦先生の噂話を集めた『笹錦小咄』ってのも面白そうじゃないです?」


「里ちゃんまで!もう!オタク女子が集まるとすぐ脱線するんだから!」


 なんだろう、この安心感。やはり、生徒とはいえ同類の文系インドア女子二人とこうしてお喋りしていると、気を使う必要はないし濃い話でも合うので、楽しい。


「せっかく本を作るのでしたら物語よりも、日本の食文化におけるササニシキの功績を私なりの考察と見解で―――」


「とにかく!1年の部活申請が落ちつく6月までは、読書部の存在も笹錦先生が関わっていることも秘密にしてください」


「そうだね。いずれは読書部立ち上げのことも笹錦先生が顧問になったことも知られるだろうけど、その頃にはほとんどの生徒がなにかしらの部活動に所属してるだろうしね」


「なるほど。6月ということは中間試験が終わるころなので、生徒のみなさんが落ち着いている時期ですね」


「基本的には部員の募集はしませんが、入部希望があった場合は相談することにしましょうか」


「教師の立場からは、入部の可否は口出しできませんので、そこはお二人の判断にお任せします。それと、申請に際して部長を決めておいたほうが良いかと思いますが、遠藤さんと里子さんのどちらが部長になりますか?」


「部長は涼ちゃんで、私は副部長でお願いします」


「遠藤さんもそれでいいですか?」


「はい。私が言い出しっぺなので、部長は私がやります」


 2年3組のクラス長でもある遠藤さんなら、リーダーシップがあって責任感も強いので適任でしょう。


「お二人ともしっかりされているので大丈夫だと思いますが、なにか問題や相談したいことがあれば、連絡をください」


「はい、その時はお願いします」


「あ、そうだ。読書部のこともそうですけど、先生もあまり派手なことは控えてくださいね」


 里子さんの眼鏡の奥の眼差しが、心なしか鋭く感じる。


「派手なこと?私ほど文系インドア派の地味な国語教師なんていないと思いますが」


「お上品で深窓のお嬢様って雰囲気醸し出しておきながら、本校舎の5階までお米かついで登場とか、音痴なのに美声で怪獣のバラード熱唱とか、他校の体操服で校内を徘徊してたとか、全然地味じゃないですよ」


 う、確かに・・・しかも、噂が増えてる。私はただ、新米教師として生徒との交流を大切にしようと振舞っていただけだというのに、私の噂話なんて、なにがおもしろいのだろう。


「善処します・・・」


 と、生徒と一緒になってくだらないお話ばかりしてたわけではなく、私だってキチンと顧問としての役目も果たすべく、GWが終わる前に村上教頭には読書部設立の相談をして、善は急げで申請手続きも速やかに済ませた。ええ、せっかちな性分なので。


 ちなみに、村上教頭にも「しばらくは、ご内密に」とお願いすると、事情を察して了承してくれた。毛髪に深い闇を抱えているからなのか、理解が早くて助かります。




 第四章 終

 次回から、第五章 理想と現実の同居




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