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滅びの魔女は、今日もおにぎりを頬張る  作者: バネ屋
第四章 文化的アプローチと因果
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#29 密談と密約


 松金さんが娘さんにメッセージを送るとすぐに返信があり、わざわざ今から学校へ来てくれることになった。家庭科部に関する噂話などを聞きたいだけなので、LINEで十分だと断っても、どうやら娘さんからも私に話したいことがあるようだ。

 松金さんの食事が終わったあともしばらく食堂で雑談を続け、13時5分前の予鈴が鳴ってから図書室に戻ると、すでに松金さんの娘さんが図書室に来ていたが、もう一人ポニーテールの女子生徒を連れていた。その生徒も知っている顔で、2年3組のクラス長の遠藤涼子りょうこさんだ。


「連休中なのに、学校にまで来て頂いて、すみません」


「いえ、私たちも笹錦先生に相談したいことがあったので、ちょうど良かったんです」


「私たち、と言うことは、遠藤さんにも関係があるようですね」


「はい。さっき里ちゃんから、笹錦先生が学校に居るから、今から相談に行こうって誘ってくれたんです」


「確か、お二人はクラスは別ですよね。クラス以外のことでしょうか?私の授業のことですか?」


「あの、すみませんが、その話の前に場所を変えませんか?いま学校じゅうの注目の的の笹錦先生の話題はすぐ噂になって広まるので、周りには聞かれたくないんです。特に口の軽い母には」


 実の娘に口が軽いと言われた松金さん本人は、やれやれのジェスチャーをしてから、仕事に戻っていった。


「では、ここの書庫を借りましょうか。そこなら誰にも聞かれることはありませんので」


 この学園の図書室には、一般には貸し出せない貴重な書籍や資料を保管する書庫があり、中から施錠も出来るので、ひと目につかずに密談などするにはうってつけだ。

 三人で書庫に移動すると、施錠をしてから、中にあったパイプ椅子に座って、さっそく相談を始めた。


「笹錦先生が知りたがってた家庭科部ですけど、なにかあったんですか?」


「なにかあったわけではありませんが、顧問として担当する前に情報収集しておこうと考えていたんです」


「やっぱり、顧問の話ですか」


「笹錦先生は、家庭科部の顧問に決まったんですか?」


「いえ、決まってませんよ。消去法で最後に残っているのが、家庭科部なんです」


「よかった、間に合ったね」


 私の顧問がまだ決まってないと知った二人は、顔を見合わせて安堵した表情を浮かべ、話を続けた。


「でしたら、私たちの顧問になってもらえませんか?」


「遠藤さんと里子さんの?」


「はい。私たち、新しい部を立ち上げようと準備を進めてたんです」


「新しい部の設立?そんなこと、できるんですか?」


「教頭先生に相談したら、申請して認可されれば可能だとは言われたんですが、申請には顧問が必要なんですよ」


「それでまだ担当が決まっていない私に、白羽の矢を立てたんですか」


「それだけが理由ってわけじゃないんですが、里ちゃんと二人で『顧問をお願いするなら、絶対に笹錦先生だよね』って相談してたんです」


「新米教師なので、そこまで頼りにされても、期待に応えられるかどうかわかりませんよ?」


「私たちの部のこともありますけど、笹錦先生には家庭科部には行ってほしくなかったんですよ。家庭科部って真面目に活動してるのは3人くらいで、あとは在籍だけして遊んでばかりの部員がほとんどですから。そんなやる気のない部に、行ってほしくないんです」


 確かに、家庭科部では普段は部員の出席率が悪くて、少ない出席者では材料の用意が大変で、料理関係の活動はあまりできていないと言っていた。私は部活経験がないのでそんなものだと軽く考えていましたが、真面目に活動している部員にとっては切実な問題なんだろう。


「けど一番の理由は、私も里ちゃんも、笹錦先生の授業で感銘を受けたんです。勉強って本当はこういうものなんだ。受験のために必死になるよりも、私はこういう勉強がしたいんだって」


「え!?」


 なんと、私の想いが届いていた。

 生徒がこうして言葉にして返してくれるだなんて、『教師冥利に尽きる』とはこのことです。色々悩んだりしましたが、この言葉を聞けただけでも、教師になった甲斐があったというもの。

 おかげで、迷いは立ち消えた。


「分かりました。顧問のお話、僭越ながら、この笹錦真乃が嘔心瀝血(おうしんれきけつ)、全力で引き受けましょう」


「本当は連休開けてから相談するつもりだったんですが、家庭科部に盗られてしまう前にって、ええ!?即決ですか!?まだ部活の内容も説明してませんよ???」


「ええ、大丈夫ですよ。歌と草書体以外なら、なんでもウェルカムですよ」


「あ、そういえば音痴だって噂が流れてましたね」


「しかも、ノリノリで熱唱してたって」


 いい加減その噂は忘れてほしいので、あえて触れずに話を進める。


「それで、部活名とその活動内容は?」


「名前は『読書部』です。活動内容はそのままで、読書です」


「えッ!!!」


 な、なんと!?

 直球ど真ん中なのが来ましたよッ!?


「私も涼ちゃんも本の虫で、子供のころからいつも図書室に通ってた読書仲間なんですよ」


「二人とも文系インドア女子なのねッ!私が求めていたのはまさにソレですよッ!そういうことなんですよッ!」


「やっぱり、先生も私たちと同じ本の虫なんですね?そうだと思ってました」ふふふ


「何を隠そう、物心つく前から蔵に篭って文字を貪るような子供だったのですよ」ふふふ


「蔵に篭って・・・やっぱり、因果の流れが」


「因果?里ちゃん、なんの話?」


「ううん、なんでもないよ。それより、今日はもう時間がないから、次の相談はどうします?」


「明日にしましょう!」


「先生、めっちゃ張り切ってますね」


「ええ、やる気がみなぎってますからね!せっかちだからじゃないですよ?」


 こうして遠藤涼子さんと松金里子さんと私の三人で、読書部立ち上げの密約が交わされた。








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