#28 噂話と情報収集
部活顧問の担当を決めるために、連休の前半は休日出勤までして各部を見学に回ったが、GW後半に入ったいまも、結局決定打がないままだった。
剣道部では色々ありましたが、最初から選択肢になかったので、予定通り無し。あとは、消去法で選んだ文化部3つをさらに消去法で絞り込むと、書道部は所詮真似しかできない私では、生徒を指導する立場として力量不足。合唱部は音痴な上にピアノも弾けるわけではないので、足を引っ張るだけ。あと残るのは、家庭科部。
料理は部員たちに比べて引けを取らないレベルでしたし、手芸も手先が器用な私には向いていると思う。知識はまだまだですが、それは勉強すればなんとでもなるだろう。村上教頭に言われた適性でいえば、家庭科部はちょうど良さそう。けど、部員の子たちに言われたように、周りに気を配るどころか、つい夢中になって一番楽しんでいた。サークル活動のノリと言えばいいのか、部員の子たちも距離が近いから、わいわい楽しんでしまうのよね。でも、私も生徒でしたら問題ないのですが、教師ですから、仲良しクラブというわけにはいきませんからね。
ちなみに、家庭科部見学の時に作ったピンフのマスコットは、職員室のデスクに飾ってある。我ながら、良い出来でしたからね。
とはいえ、このまま決めずにいるわけにもいかないし、結局は、家庭科部しか残ってないので、もう決めるしかないのでしょうけど。
いつもなら、こんなことで悩んだりせずに、さっさと即断即決してしまうのですが、なぜか部活顧問に関しては、心の引っかかりがあって迷っていた。
そこで、情報収集を兼ねてとある人物に相談するために、お昼時間にお弁当のおにぎりを持って図書室を訪ねた。まぁ、相談なんてなくても、訪ねるんですけどね。
「松金さん、こんにちは」
「あら、いらっしゃい。連休中でも図書室なんですね」
「ええ、ここは文系インドア女子のホームグラウンドなので」
「ふふふ。あ、でもごめんなさい。今からお昼に行こうとしてたところなの」
「もしよかったら、ご一緒してもいいですか?」
「もちろん!不在看板かけてくるから、少し待ってちょうだいね」
普段の授業がある日なら図書委員も居るから不都合はないのですが、連休中は松金さん一人で図書室を見ているので、お昼休憩時などは『13時に戻ります』と書かれた不在看板を立てて、休憩をとっていた。
二人で食堂へ行き、松金さんが受け取りカウンターに並んでいるあいだにドリンクサーバーでお茶を二人分用意して、席を確保した。連休中でも部活動があるためか、席の半分以上は埋まっていた。書道部や合唱部もここで食事をしているようで、私に気付くと手を振ってくれている。
そういえば、連休中に食堂で食事をするのは初めてだ。今日のお昼の献立は、親子丼とサラダと味噌汁。松金さんと来ることになるのなら、おにぎりを用意せずに、私もここの食事にすれば良かったか。
トレイを持った松金さんが戻ってくると、さっそく食事をしながらお喋りを始めた。
「聞いたわよ?笹錦先生、部活動の見学に回ってるそうね。米袋担いで5階の家庭科教室に現れたとか、合唱部で音痴なのに、楽しそうに熱唱して一人で目立ってたとか、剣道部で牧田先生を打ち負かして泣かしちゃったとか」
「くっ・・・もうそのような噂が・・・って、牧田先生にはなにもしてませんよ!泣かせてもいませんからね!」
「マノン姫の天命の影響かしらね?うふふ。まぁ、笹錦先生は学園じゅうの注目の的だから、有ること無いこと言われちゃうのは、しょうがないわよね」
お米担いでいたのと音痴なのは事実なんですけどね。
「マノン姫も熱血体育教師もどうでもいいんですけど、そんなことより、文化部方面で色々情報収集しようと思いまして。特に家庭科部についてなにか噂とかないですか?」
「家庭科部?うーん、特に聞いたことはないけど、もし詳しく知りたいことがあるなら、娘に聞いてみようか?」
「松金さんのお嬢さんですか。うーん」
松金さんの娘さんは、私が古文を受け持つ2年1組に在籍しているので、面識がある。赤いフレームの眼鏡が印象的で、下の名前は確か里子だったか。
生徒から情報収集すること自体は特に問題ないはずですが、教師の私がなにか探っていると知られるだけで、変に勘繰られてしまう可能性もある。
「大丈夫よ。ウチの子なら私と違って口は堅いし、要領も良い子だから、上手く調べてくれるわよ」
確かに、噂好きの松金さんの口は、羽毛よりも軽い。
「では、改めて調べてもらう必要はないので、今、知っていることだけでも聞くことはできますか?」
「了解。すこし待っててちょうだいね。LINEで聞いてみるから」
「お食事中なのに、すみません」
松金さんは箸を置くと、スマホを取り出してメッセージを打ち込み始めた。
ちなみに、「牧田先生にはなにもしてませんよ!」と釈明していた時には、すでに私はおにぎりを食べ終えていた。




