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滅びの魔女は、今日もおにぎりを頬張る  作者: バネ屋
第四章 文化的アプローチと因果
27/96

#27 違和感ではなくて、既視感?


 笹錦真乃、2〇歳みずがめ座。私立更科学園の古文教師になって1カ月。

 なぜか今、武道場にて剣道部の練習風景を見学をしている。

 色褪せた高校時代の体操服に身を包み、体操座りで。

 鏡を見なくても分かる。いま自分の眼が死んでいることを。

 もし、清少納言が現代にタイムスリップしてきて、いまの私を見たらきっとこういうだろう。「ことなひと(変な人)」と。


 納言さん、違うのですよ。

 私は生粋の文系国語教師なんです。

 この体操服も本来なら門外不出だったはずなんです。

 他に無かったから仕方なかったんです。

 本当は図書室で文字を貪るのが大好きな文系少女なんです。

 すみません。少女は少し誇張が過ぎました。


 汗と畳と防具のすえた臭いでお腹いっぱいになりながら、脳内で必死に言い訳をしていると、女子部員の一人が話しかけてきた。


「牧田先生、『笹錦先生が見学にくるぞ!』って連休前からめっちゃ張り切ってたんですよ」


 この子は、私が古文の授業を受け持つクラスにいた子だ。確か2年1組の小松さん。


「今日のために武道場の大掃除とか始めて、道着も新品おろして、床屋にも行ったらしいですよ」


 どうりで今日は、鼻毛がはみ出していなかったんですね。

 しかし、その話を聞かされた私に、どうしろと・・・

 体育教師へ視線を向けると、仁王立ちに腕組みして、部員たちの打ち合いを睨むように見つめ、時折叫ぶような大声で指導をしている。


「そうなのね」


「まぁ、ぶっちゃけ、男性としては老け顔だし暑苦しくてアレですけどね」ふふふ


「ええ、まぁ」


 曖昧に返事を濁していると、今度は男子部員の一人が声をかけてきた。

 この子も知ってる顔だ。確か2年2組の春日くん。 

 

「笹錦先生、どうして急に、剣道部になんか見学することになったんですか?」


「色々と事情があるのですが、実際の所、私にもよく分りません」


「牧田先生に泣いて頼まれたんですか?」


「え?」


「そうそう牧田先生、すぐ泣くんですよ」


「このあいだも、他校と練習試合の時に団体戦で勝ったら、『感動した!』って泣いてたね」


「練習試合で泣く顧問とか、マジやばいっすよ」


「きっと、牧田先生は熱血教師にクラスアップしたんですよ。だから、そういう時は広い心で見守ってあげてください」


 小松さんと春日くんの二人からどうでもよい体育教師の泣き虫情報を聞かされつつ、一応教師として諭していると、その泣き虫体育教師が二人を怒り出した。


「こらぁ!二人して抜け駆け、じゃなくて、サボってるんじゃない!真面目に練習しろぉ!」


「あ、やべ」

「はーい」


 最初はガチガチの体育会系だと思いましたが、部員たちのあの勢いは最初だけで、案外緩い部活のようだ。きっと、体育教師の暑苦しいテンションに、部員も巻き込まれていただけなのでしょう。現代っ子って、結構ドライなんですよね。

 注意された二人が面を付けて練習に復帰すると、今度は泣き虫体育教師が体操座りの私の横に立って、話しかけてきた。


「さ、笹錦先生、見てるだけだと、た、退屈しませんか?」


「いえ、今日はあくまで見学だけなので、お気遣いなく」


「あ、あの!よかったら、自分が教えますッ!」


「いえ、だから」


「し、竹刀で構えるだけでも!」


 何故か私にも剣道をさせようと体育教師が必死に訴え始めると、19名の部員全員、練習の手を止めてこちらを注目していた。

 皆さん面を被っていますが、視力の良い私には、みんなの期待するような眼差しまで見えてしまった。


「うーん・・・少しだけなら」


 以前の私なら忽然と断るような場面なのに、教師と言う立場になると、生徒からの視線に絆されてしまうようだ。


「本当ですかッ!?」


「少しだけですよ?私、本当に運動はダメなので」


「簡単な構えだけなら、大丈夫ですッ!」


 なにが大丈夫なのかよく分りませんが、竹刀を差し出されたので立ち上がって受け取ると、見よう見真似で両手で握った。


 すると、何か違和感のようなものを覚える。

 なんだろう。これは違和感ではなくて、既視感?

 棒立ちで竹刀を両手で握ったまま、剣先を真っ直ぐ横にして構えてみた。


「え・・・あ、あれれれれれ!?」


 私の素人丸出しの構えを見て、体育教師が急に態度を変えた。

 額から汗が滝のように流れ、怯えた目をしている。

 うら若き乙女を見て怯えた真似をするなんて、失礼な人だ。

 それにしても、竹刀を握るのは初めてのことなのに、なぜか初めてではないような、既視感が気になる。


「エイッ!」


 試しに、掛け声と共に、両手で握った竹刀を真っ直ぐ横に振り払ってみた。

 すると、その様子を見ていた体育教師が突然土下座して、叫んだ。


「ま、まままま、参りました!」


 体育教師の奇行はいつものことですが、何故か19人の部員までも私に向かって土下座したり、腰を抜かして座り込んだりして、全員が怯えた眼差しを私に向けていた。


「さ、笹錦先生、さ、殺気・・・」


「さっき?先ほど私、なにかしましたっけ?」


 結局、なにが起きたのかさっぱり分からないままでしたが、あれだけ熱心に勧誘していた体育教師は私から竹刀を取り上げると、真顔で「笹錦先生に剣術は危険です。二度と竹刀を握ってはいけません。木刀や真剣ならなおのことです」と警告され、結局剣道部の顧問はお断りを告げられた。


 こちらから断るつもりでしたので良いのですが、なんだかモヤモヤが残る。






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