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滅びの魔女は、今日もおにぎりを頬張る  作者: バネ屋
第四章 文化的アプローチと因果
26/111

#26 体育会系総本山


 GWの四日目。

 連休に入ってから3つの文化部の見学をさせてもらってきたが、この日は体育教師と約束していた、剣道部の見学に行くことにした。

 ただ、困ったことに、インドア派の私は運動用のジャージを持っていないので、悩んだ末に部屋着代わりにしていた高校時代の体操服上下を持参して、それに着替えてから剣道部の活動拠点である武道場へ出向いた。どうせ見学だけで、運動部の顧問を引き受けるつもりはありませんので、見学のためだけにジャージを買うのは、もったいないですからね。


 職員用の更衣室で着替えて、髪も邪魔にならないように1つにまとめてから廊下に出ると、すれ違う人すれ違う人にジロジロと視線を向けられる。私立のファスナータイプのオシャレなジャージとは違い、公立高校のいかにもなデザインで、上下緑色の着古して色あせた体操服。そして胸には、私の母校である県立六頭首高校の校章の『六』のマーク。それを生徒ではなく教師である私が着て、恥ずかしそうに背中を丸めてこそこそと廊下を歩いている。

 さぞ物珍しいのだろう。文系インドア派の本領発揮といったところだろうか。これで半纏を羽織って黒縁メガネでもかけていたらパーフェクトだろう。私も体育教師を笑えないということか。


 文系インドアスタイルで、長い道のりを衆人の視線に耐えながら体育館の横にある武道場にたどり着くと、早速部員たちが練習している掛け声と、体育教師が吠える声が外まで聞こえてきた。豪快にツバを飛ばしている姿が想像に容易い。

 ここは、体育会系の総本山とも呼べるアウェイ。図書室をホームグラウンドにしている文系代表の国語教師には、最も縁遠い場所だ。

 同情心など出して、見学すると約束してしまったことを後悔しつつ、入口から顔を覗かせて「おじゃまします・・・」と声をかけると、体育教師が光の速さで「お待ちしてました!」と大声で返事をし、それに続くように部員の面々も「こんにちは!」と一斉に挨拶。さっそく体育会系集団の全力の圧に腰が引ける。

 逃げ出したい気持ちを押し込めて、サンダルを脱いで道場に上がらせてもらうと、体育教師が満面の笑顔で駆け寄ってきた。


「ささッ!こちらへどうぞどうぞッ!」


「あ、私は隅っこで」


「何を仰いますかッ!お客さんなんですから、上座でどーんっと構えていてくださいッ!」


 普段のポロシャツ&水色ジャージの体育教師コーデではなく、紺色の道着姿の体育教師に、道場の上座と思われる正面に強引に連行される。今日の体育教師は一味も二味も違う。鼻毛もはみ出していない。職員室と違って、ホームグラウンドの体育会系総本山だと、野生にかえって本領発揮ということでしょうか。


「ハイッ!全員集合!」


 体育教師が号令をかけると、部員たちが私と体育教師の前に整列した。

 男子部員は紺色の道着に黒の防具を身に着け、女子部員は白色の道着に赤の防具を身に着けて、全員まだ頭には面を被っていないおかげで、一人一人の表情が見える。

  男が13名、女子が6名。中には私が古文を担当している2年生もいるので、ここでも知っている顔が何人もいた。


「今日は、みんなお待ちかねの笹錦先生が見学に来て下さった!ハイッ拍手!」


「おおぉ~!」パチパチパチ


 体育会系って、どうしていちいち大げさで暑苦しいのだろうか。

 今にも校歌を熱唱しそうな勢いに、眩暈がしてきました。


「では!笹錦先生からみんなへひと言あるそうなので!注目!」


「えぇッ!?誰がそんなことを!?」


 いきなり無茶ぶりして、なんなんですか今日の体育教師は。

 肝の据わった子だと父も認めたこの私を、ここまで動揺させるとは。

 しかし、19名の部員たち&体育教師1匹が期待した熱い眼差しを向けてくる。

 野生の体育会系とは言えども、生徒の期待を裏切るのは・・・

 私だって新米とは言え、この学園の国語教師。

 ここで引いては、文系代表としての名折れ。


「えっと・・・」


 折れそうだった気持ちを無理やり立て直すと背筋を伸ばし、声のトーンを意識しながら話を始めた。


「ご紹介にあずかりました、笹錦です。剣道部のみなさん、こんにちは」


「こんにちは!」


「今日は熱いので水分を十分補給して、熱中症には気を付けて下さい」


「ハイッ!」


「感動した!」パチパチパチ


 だから、私の話のどこに感動したのか小一時間。






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