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滅びの魔女は、今日もおにぎりを頬張る  作者: バネ屋
第三章 宿命の古文教師
21/95

#21 労働と仕事


 しょぼーん、と肩を落として哀愁を漂わせながらトボトボと帰る体育教師をバス停で見送ってから、バスに乗って私も帰宅した。


 なぜ、私が見送る側になっているのか自分でもよく分かりませんが、泣くほど見送りたかったのに既にバス停に着いていたことが余程悲しかった様なので、せめてもの私からの手向けです。今日だけの特別ですよ。


 なんだかんだ言っても職場の先輩で隣の席ですしね。あまり冷たくして職員室で気まずい空気になっても、働きづらくなるだけですからね。

 私はそれでもあまり気にしませんが。



 自宅に帰ると、相変わらずピンフが玄関マットの上で寝転んで惰眠を貪っていたが、私が靴を脱いで上がると起き出して欠伸を1つして、全身伸びをしてから私の後について来た。

 いつもなら私が帰っても反応が薄いのに、珍しい。


「お腹でも空いたの?」


 声を掛けると、足元に纏わりついて、頭を擦りつけてきた。

 私に甘えてくるなんて、本当に珍しい。

 どうしたのだろうか。

 体育教師に続いてピンフまで覚醒したのだろうか。

 それとも、天変地異の前触れだろうか。

 まさか、ピンフも遂に思春期が終わったのだろうか。

 もしかしたら、今なら鳴くかも!?


「ピンフ、おいで?だっこしてあげる」


 しゃがんで両手をピンフに向けて伸ばすと、無視してキッチンへ行ってしまった。

 やっぱりお腹が空いてただけなのね。

 うん、知ってましたよ。

 ピンフはそういう子です。


 棚からネコ缶を1つ取り出しフタを開けて、ピンフ専用のお皿に出してから床に置くと、ピンフは目の色を変えて貪り出した。


 普段はマイペースなくせに、食事の時だけ肉食動物の表情を見せる。

 そんなピンフの獰猛な横顔を眺めながら、物思いにふけった。



 この一週間、社会人として初めて仕事をした。

 私は学生時代にアルバイトの経験が無いので、実家の家業の手伝い以外では、初めての経験だった。

 それでも、物怖じしない性格のお陰でこなせたけれども、やっぱり疲労感を感じる。全教職員の前で挨拶して、体育館の壇上に立って全校生徒に挨拶して、初めての授業もこなし、理事長と学園長を泣かせ、体育教師も泣かせてしまった。

 いえ、体育教師に関しては勝手に泣き出したので、私が泣かせたわけではない、と思いたい。


 客観的に振り返ると、組織のトップを泣かせてしまうのは新社会人としては如何なものかと思わないではないけど、古文の教師としてはこの一週間は上々だったと評価できる。

 どのクラスでも騒ぐ生徒は居なかったし、生徒は皆、私の講釈を静かに聞いていた。中には私の講釈を聞きながら目を閉じて反芻したり、教科書に書かれた一節を口づさむ生徒もいた。

 授業に注ぐ私の想いが届いた手応えを感じることが出来たのは、本当に嬉しかった。まだ一週目なので先は長いけど、この調子ならなんとか一年間頑張れそうだ。


『労働』と『仕事』は違うと言うけど、私にとって教職は、労働では無く仕事だと思う。『労働』と言うと義務的に聞こえますが、私にとって教職とは、志を持って働く『仕事』だと思えた。


 何人もの人から宿命だと言われた古文の教師だけれども、遣り甲斐はあるし、生徒たちの反応に喜びも感じている。案外、本当に古文の教師が、私の宿命なのかもしれない。


 あれほど狂信的な天命論者の圧にうんざりしてたのに、こんなふうに考えるなんて、今日の私はどうしたんだろう。お酒を飲んで気分が良くなっているのか。それとも体育教師の熱血ぶりが感染してしまったのだろうか。次に体育教師が泣き出したら、エンガチョする必要がありそうですね。


 それにしても、サイコロで宿命を決めていたって、どういう状況なんだろうか。そこだけは未だに理解不能だ。



 ピンフは食事を終えるといつもの表情に戻り、私を置いてさっさとリビングへ行ってしまった。




 第三章 終

 次回から、第四章 文化的アプローチと因果






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