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滅びの魔女は、今日もおにぎりを頬張る  作者: バネ屋
第三章 宿命の古文教師
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#16 ただの国語教師なのに


 入学式を終えて無事に新入生を迎えた私立更科学園では、翌日には体育館での始業式があり、私は全校生徒の前で一人で壇上に立つことになった。


「それでは、今年度より新しく赴任された先生を紹介します」


 司会進行を務める村上教頭の案内を合図にハンドマイクを渡されて、舞台脇の階段から壇上に上がり、背筋を伸ばしてから、体操座りで整列している全校生徒へ向けて一礼した。


「笹錦先生はこの春大学を卒業したばかりで、職員の中でも一番若く、生徒の皆さんとも歳が近いので、話しかけやすいかと思います。なにか悩み事などある時は、是非笹錦先生を頼ってください」


 勝手にお悩み相談所にされても困るのですが、全校生徒の前で否定するほど私も愚かではありませんので、敢えて苦笑いを浮かべつつハンドマイクを握り直し、声のトーンを意識して挨拶をする。


「ご紹介にあずかりました、笹錦と申します」


 私が話し始めると、それまで少しざわついていた体育館が水を打ったように静まり返った。


「本日は、生徒のみなさんにお会いできるのを楽しみにして参りました。一年目の新人ですので頼りない面も多々あるかとおもいますが、しっかりと頑張っていく意気込みですので、どうぞよろしくお願いいたします」


「おぉぉ!!!」「キャー!!!」

 パチパチパチパチパチ


 手短に無難な挨拶を終えると、今度は体育館全体から割れんばかりの拍手と声援が沸き上がった。


 え!?なに!?

 挨拶しただけなのに、どうしてこんなに大騒ぎするの???


 生徒達からの予想外の反応に珍しく動揺してしまいましたが、すぐに気持ちを立て直して、もう一度背筋を伸ばしてから一礼した。

 しかし、大きな声援が止まない中、壇上を降りて教職員が並んでいる列の末席へ戻ろうとすると、牧田先生が「感動した!」と言いながら大袈裟に拍手をしていて、教職員の中で一人だけ目立っていた。私の挨拶のどこに感動したのか小一時間問い詰めたいところですが、いかにも体育教師らしい生態には、ほとほと困ったものです。


 始業式を終えると、この日も授業は無く、各クラスでホームルームとなり、クラス長や各種委員会を決めることになっていた。講師の私は担任でも副担任でもないので、特になにかをする必要はありませんでしたが、少しでも教室の空気になれておこうと坂下先生にお願いして、2年3組のホームルームを見学させてもらうことにした。


 教室では一番後ろの壁際に立って、ホームルームの様子を見学していた。

 冒頭で推薦され、クラスの総意で決まったクラス長の女子生徒が教卓の横に立ち、議事進行をしていた。クラス長の胸には、遠藤と書かれた名札が見える。現在の議題は、各種委員会の分担だった。

 このクラスに限らず、基本的には真面目で勉強熱心な生徒ばかりだと聞いていましたが、やはり年頃で思春期だからなのか、どの生徒も落ち着かない様子で、後ろに立つ私のことをチラチラと気にしてばかりいた。

 そんな生徒たちの視線を、敢えて気にしていないふうを装って、お澄ましした表情で受け流していると、一人の男子生徒が挙手して、指名される前に話し始めた。


「質問でーす!笹錦先生は何委員会の顧問なんですかー?」


「えっと・・・」


 突然の質問に、クラス長の遠藤さんはどう答えてよいのか分からず、戸惑った様子を見せた。


「こら!今は笹錦先生は関係ないでしょ!」


 助け舟を出すように注意してくれたのは、担任の坂下先生だ。


「でも気になりまーす!」

「私も気になります!」

「笹錦先生は部活の顧問はしないんですか?」

「悩み事の相談はどこで受け付けてますか?」

「好きな食べ物は?」

「生年月日は?」

「スリーサイズは?」

「彼氏は?」


 折角坂下先生がたしなめてくれたのに、かえって生徒達は火が点いたように各々好き勝手に言い始めた。収集が付かなくなった状況に、クラス長の遠藤さんがオロオロしている姿が可哀想でしたので、私も挙手をして、「遠藤さん、私から、宜しいですか?」と申し出た。


「あ、はい。笹錦先生、どうぞ」


 クラス長の遠藤さんが発言の許可を出すと、他の生徒たちは期待するような眼差しで、後ろに立つ私へ視線を向けてきた。

 お澄ましした表情のまま、ひと呼吸してから話し始める。


「委員会活動も部活動もどの担当になるかはまだ決まっていません。お悩み相談は特に受け付けていませんが、どうしても相談したいことがある場合は職員室か図書室に居ることが多いので訪ねて来てください。好きな食べ物は基本的には和食ですが白米が特に大好きで銘柄はササニシキ一択です。苗字のこともありますが実家の田んぼで作っているお米がササニシキで毎年送ってもらっています。生年月日は教える必要性を感じません。スリーサイズと恋人の有無に関してはセクシャルハラスメントに該当します。質問をした小泉君と阿部君は今回は見逃しますが次回からは容赦なく生徒指導部へ通報しますので気を付けてください。他に質問が無ければ以上です」


 私がノンブレスで一気に答えると、教室が静まり返った。

 坂下先生もクラス長の遠藤さんも、他の生徒も全員、口をあんぐりと開けたまま固まっていた。







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